米国立がん研究所、がん免疫療法に与える大麻の影響研究に助成金を授与

米国立がん研究所、がん免疫療法に与える大麻の影響研究に助成金を授与

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10月24日、ニューヨーク州立大学バッファロー校は大麻ががん免疫療法に与える影響を調べるために、連邦保健機関の一部である国立がん研究所(NIC)から320万ドル(約5億円)の資金提供を受けたことを発表しました

がん免疫療法とは、がん細胞が持つ免疫機能を阻害することで、免疫細胞ががん細胞に攻撃するのを促進する治療法のこと。リンパ球の一種であるT細胞にはがん細胞を認識・攻撃する働きがありますが、一方でがん細胞はこれを抑制する機能を持っています。

がん免疫療法で主に用いられているのが、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)。この薬はがん細胞の免疫機能を抑制することで、T細胞が本来の力を発揮することを助けてくれます。

がん細胞とともに正常な細胞も攻撃してしまう抗がん剤とは作用機序が異なるため、一般的に免疫療法は化学療法よりも副作用が少なく、長期的な治療が可能となります。実際にニューヨーク州立大学バッファロー校(以下、バッファロー大学)によれば、20種類のがんにおいて患者の約44%が免疫療法を受けています。

アメリカでは、現時点で37州とワシントンD.C.が医療または嗜好用大麻を合法化しています。このような中、一部のがん患者は痛み食欲低下不安不眠抗がん剤による悪心・嘔吐末梢神経障害の緩和のために大麻を有効活用しています

バッファロー大学によれば、がん患者の最大40%が症状管理のために大麻を使用していると言われています。

一方、大麻は免疫機能を抑制する抗炎症作用を有することで知られており、このことから多発性硬化症関節リウマチ炎症性腸疾患などの自己免疫疾患に対し有効な可能性が示されています。

ここで疑問となってくるのが、「免疫抑制作用を有する大麻は、免疫を促進する免疫療法の邪魔をしてしまうのではないか?」ということ。

この疑問を解消するため、バッファロー大学の研究チームはトーマス・ジェファーソン大学オレゴン健康科学大学と協力し、3つの施設において12ヶ月間、免疫療法を受けている450名の患者を対象とした研究を実施します。

450名のうち半数は大麻使用者、残り半数は非使用者となる予定。医療記録、患者の転帰、血液検査を通して、がん免疫療法中の患者における大麻の有益性と有害性を評価します。

このプロジェクトは、米国国立衛生研究所(NIH)の一部である国立がん研究所が資金提供を行うコンソーシアムの一部であり、がん患者における大麻使用を調査する国内最大級の研究となります。

バッファロー大学の心理学教授で今回の研究責任者を務めるレベッカ・アシュアー(Rebecca Ashare)博士は、大麻合法州において医療用大麻が「がんやその治療の適格条件となっているにも関わらず、がんの免疫療法を受けている人に対する大麻の潜在的な利益と害を評価した長期的な研究は、事実上存在しません」

「痛みの緩和、気分の改善、睡眠不足の解消などの利点が報告されていますが、大麻使用障害を含む身体的、認知的、精神的な害をもたらすというエビデンスもあります」と述べ、研究の背景を説明。

また、大麻の抗炎症作用について「がんと闘うために免疫系を活性化させたい場合を除けば、通常は良いことです。そのため、大麻が免疫療法の有効性を低下させるのではないかという懸念があります」

「免疫療法と大麻使用の両方が多くの患者や医師に受け入れられ、腫瘍学においてより広範な治療選択肢となりつつある中、このエビデンスの需要は明確であり、このプロジェクトはそのプロセスの重要な第一歩となります」と述べ、研究の必要性を強調しました。

アシュアー博士は数年前に大麻がオピオイドの減薬に寄与するのかを調べる研究を行って以降、がん患者の大麻使用に関する研究に携わっています。アシュアー博士は実際に、患者が大麻を使用することで疼痛を効果的にコントロールし、オピオイドの減薬に成功したのを目の当たりにしました。

アシュアー博士はこのような研究を行っているうちに、大麻の潜在的な利益については多くの研究がなされているものの、潜在的な副作用や有害作用についてはほとんど注目されていないことに気づいたと話します。

「全体として、この研究はがんの症状管理における科学に持続的な影響を与え、最終的には患者のケアと安全性を向上させるでしょう」

連邦法で大麻は依然として違法となっているため、アメリカの研究者らは大麻の研究を行う上で様々なハードルに直面しています。このような状況にも関わらず、いくつかの州や大学は大麻の研究に力を入れています。

世界最高峰の大学の1つとして知られる名門イェール大学は1月、大麻を研究するための研究センターを新設することを発表

ユタ州知事は3月、最先端の研究を行う総合大学であるユタ大学に医療用大麻の研究センターを設置する法案に署名。研究センターの詳細は不明ですが、州の保健福祉省からは65万ドル(約9,800万円)の資金が提供されます。

カリフォルニア州は4月、UCLAなど16の学術機関に対し、大麻の研究のために約2,000万ドル(約30億円)の助成金を拠出

その翌月、ケンタッキー大学大麻センター(University of Kentucky Cannabis Center)は4つの大麻研究プロジェクトに対し、初の助成金を授与することを発表しました

また、2018年に医療用大麻を合法化したイギリスは今年に入り、医療用大麻を用いた大規模な臨床試験に着手しています。

トップレベルの大学として知られるオックスフォード大学は、世界にある様々な医療機関と協力し、統合失調症などの精神病に対するエピディオレックスの有効性を検証する国際的な治験を開始することを発表

今年5月には、国営病院が脳腫瘍患者を対象とし、大麻由来医薬品「サティベックス」を用いた大規模な治験プログラムを開始

8月には、国民保健サービス(NHS)が最大5,000人の慢性疼痛患者を対象とした大規模治験を承認。この治験では、吸入用の大麻製品が用いられます。

スコットランドNHSは同月、子宮内膜症患者100名においてCBDオイルの有効性を検証する治験に対し、30万ポンド(約5,500万円)の資金提供を行っています

※為替は記事公開時点のレートで計算しており、リンク先の記事と日本円の数字が異なることがあります。最新の米ドル・円の相場はこちら

Marijuana Moment「Federal Health Agency Awards $3.2 Million Grant To Study Impact Of Marijuana On Cancer Immunotherapy Treatment」https://www.marijuanamoment.net/federal-health-agency-awards-3-2-million-grant-to-study-impact-of-marijuana-on-cancer-immunotherapy-treatment/

University at Buffalo「UB researcher receives $3.2 million NCI grant to study the impact of cannabis on immunotherapy treatments」https://www.buffalo.edu/news/releases/2023/10/ashare-cannabis-immunotherapy.html

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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