大麻医薬品が開心術後のオピオイド使用量を減少させ、心機能を保護

大麻医薬品が開心術後のオピオイド使用量を減少させ、心機能を保護

- アメリカの臨床試験

冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者に大麻医薬品を用いた結果、オピオイドの使用量が減少し、心機能において改善が認められたことが報告されました。論文は「Cureus」に掲載されています。

冠動脈バイパス術は狭心症や心筋梗塞に対して行われる手術です。術式の詳細については述べませんが、この手術は胸部を切り開くことで行われる「開心術」に該当します。

当然ながら、手術後には創部に痛みを伴います。手術後はなるべく早めにリハビリに取り組む必要がありますが、痛みがあるとリハビリが進まず、合併症が生じたり回復が遅れたりするリスクが高くなります。そのため、術後における疼痛コントロールは非常に重要なものとなります。

オピオイドは最も鎮痛効果の高い薬であり、術後にもよく用いられます。しかし、オピオイドの使用量が多くなると呼吸系、心血管系、消化器系などに合併症を引き起こすリスクが高くなっていきます。

そのため、オピオイドの使用量を減らしながら疼痛コントロールを行うことができれば、患者は術後により安全な経過をたどることができ、回復も促進されることになります。

大麻やカンナビノイドは鎮痛作用があることで知られており、その有効性は主に慢性疼痛において認められています。また、多くの研究では、大麻やカンナビノイドの使用がオピオイドの減薬に役立つ可能性も報告されています

THC製剤を用いた臨床試験

アメリカの研究チームは冠動脈バイパス術を受けた患者において、合成THC製剤「ドロナビノール(マリノール)」が術後の疼痛管理に役立つのかを検証する臨床試験を実施。

研究対象となったのは、アリゾナ州にある医療センターにおいて初めて冠動脈バイパス術を受けた18歳以上の患者68名(男性77.4%、平均年齢67歳)。心不全や慢性腎臓病の既往、大麻やオピオイドを長期に使用した経験のある患者は対象から除外されました。

患者はランダムにドロナビノール群(31名)と対照群(37名)に振り分けられました。ドロナビノール群では通常の疼痛プロトコルに加え、ドロナビノール30mgが合計3回投与されました(1回目は手術前、2回目は手術後に集中治療室で、3回目は手術翌日に麻酔から覚醒した後[抜管後])。

対照群ではドロナビノールを使用せず、通常の疼痛コントロールのみが行われました。

主要評価項目は、オピオイドの使用量(MME)、人工呼吸器の装着期間、集中治療室の滞在期間。これに加え、点滴による強心薬の使用日数、左室駆出率(LVEF:心臓が全身に血液を送り出す力)の評価も行われました。

オピオイドの使用量が減り、心機能も改善

対照群と比べ、ドロナビノール群ではオピオイドの使用量が40%減少し、統計的にも有意差が認められました。人工呼吸器の装着期間と集中治療室の滞在期間は両群で有意差が認められなかったものの、ドロナビノール群で短い傾向が示されました。

オピオイド使用量、人工呼吸器の装着期間、集中治療室の滞在期間
Source:Cureus「Perioperative Cannabinoids Significantly Reduce Postoperative Opioid Requirements in Patients Undergoing Coronary Artery Bypass Graft Surgery」

また、手術前後における左室駆出率は両群間で同程度でしたが、各群内においてはドロナビノール群のほうが対照群よりも有意に左室駆出率を改善させていました。統計的に有意とはなりませんでしたが、点滴による強心薬の使用日数もドロナビノール群のほうが短い傾向にありました。

Source:Cureus「Perioperative Cannabinoids Significantly Reduce Postoperative Opioid Requirements in Patients Undergoing Coronary Artery Bypass Graft Surgery」

ドロナビノールの忍容性は良好であり、治療に関連した副作用は報告されませんでした。むしろドロナビノール群では、術後イレウス(腸が動かなくなること)や不整脈といった合併症が少ない傾向が示されました。

これらの結果について、著者は「この研究は冠動脈バイパス術後において、標準的なオピオイドベースの疼痛レジメンにドロナビノールを追加することが安全であり、オピオイドの必要量を減少させると同時に、心保護効果をもたらす可能性があるという予備的証拠を提供するものである」と述べています。

”予備的証拠”と表現されているように、この研究にはサンプルサイズが少ないこと、単一施設でのみ検証が行われたこと、短期的な転帰しか分からないことなど、いくつかの限界があります。

そのため、著者は総じて「この学際的な取り組みの成功は、カンナビノイドをベースとした術後鎮痛補助薬の実現可能性をさらに調査し、最終的に心臓手術後の患者の転帰を改善するために、より大規模な多施設共同試験を行うための強力な根拠となる」と結論づけています。

今回の研究結果は「臨床の現場に限定して使用された大麻医薬品」により認められたものであり、大麻そのものの使用とは関連していないことに注意が必要です。

実際、いくつかの研究では、手術前に大麻を使用していた人では非使用者と比べ、手術後のオピオイドの使用量が多いといった報告もあります。そのため、米国局所麻酔疼痛医学会(American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine)は頻繁に大麻を使用する人に対し、術後の疼痛コントロールに悪影響が及ぶ可能性について術前にカウンセリングを行うことを推奨しています

大麻の使用が手術後の回復や合併症リスクにもたらす影響については、相反する結果が報告されています。しかし、大麻使用障害(大麻依存症)のある人では合併症リスクが高く、経済的負担が大きくなるといった報告がいくつか見られています。また、冠動脈バイパス術を受けた患者において、大麻使用者では臨床転帰が悪かったという報告も存在します

大麻使用者では手術時における麻酔の必要量が増加したという報告もあります。このことは手術中・後において合併症リスクを高め、回復を遅延させる可能性があることを示しています。

とはいえ、これらの研究結果には一貫性がありません。また、全ての大麻使用者に同じ結果が当てはまるわけでもありません。

いずれにせよ、大麻の使用が周手術期の転帰に与える影響を明確にするためには、今後もより多くの研究が必要となります。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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