サティベックスとは?

サティベックスとは?

この記事では、大麻由来医薬品の1つであるサティベックス(ナビキシモルス)についてお話していきます。

サティベックスは現時点で日本では承認されておらず、治験の予定もありません。

なお、この記事はイギリスの医薬品データベース「eMC(The electronic Medicines Compendium)」を参照しています。

サティベックスとは?

サティベックス(ナビキシモルス)はGWファーマシューティカルズによって開発された大麻由来医薬品です。大麻に含まれる医療有効成分であるカンナビノイドを含有した口腔粘膜用スプレーであり、1瓶につき内容量は10mlとなっています。

具体的に含まれているカンナビノイドはTHC(テトラヒドロカンナビノール)CBD(カンナビジオール)で、1噴霧につきTHC2.7mg、CBD2.5mg(およそ1:1の割合)を含有しています。

カンナビノイドだけではなく、1噴霧につき40mgのエタノール、52mgのPG(プロピレングリコール)も含有しています。

他にもペパーミントオイルが使用されています。

サティベックスの適応症

多発性硬化症による中等度〜重度の痙縮けいしゅくに用いられます。他の薬で十分な効果が認められないこと、成人であることなどが条件となっています。

また、サティベックスを本格的に適用する前に4週間の試用期間が設けられ、この期間で症状の改善が認められなければ適応となりません。

※多発性硬化症とは

中枢神経に炎症を起こす自己免疫疾患。運動障害、視力障害、感覚障害、排尿障害などの多様な神経症状がみられ、日本でも指定難病となっています。

痙縮とは、過度な筋緊張により手足を思うように動かせない症状です。

多発性硬化症ではこれらの症状が良くなったり悪くなったりするのを繰り返し、全体として徐々に病状が悪化していきます。

サティベックスが使用されている国

イギリスをはじめとしたヨーロッパ17カ国、カナダ、イスラエル、ブラジル、コロンビア、チリ、ニュージーランドなどで使用が承認されています。

アメリカではまだ正式に承認されていませんが、現在FDA(アメリカ食品医薬品局)承認のもとで臨床試験が進行中です。

サティベックスの有効性

2019年の研究では、標準治療に加えてサティベックスを使用することにより、多発性硬化症による難治性の痙縮を有する患者191名のうち106名において20%以上の痙縮の改善が認められ、その後さらに無作為化二重盲検プラセボ試験を行った結果、サティベックスにおいて有意な改善が認められました(サティベックス77.4%、プラセボ32.1%)。

2021年のベルギーの研究では、多発性硬化症による難治性の痙縮を有する患者276名に対し、標準治療に加えてサティベックスを12週間使用した結果、10段階中平均8.1だった痙縮の重症度が4週目で5.2、8週目で4.6、12週間で4.1にまで改善しました。QOLについても平均39点だったものが4週目で52点、8週目で57点、12週目で59点にまで改善しました。なお、276名中33.7%(93名)は治療効果が得られなかったなどの理由により、サティベックスによる治療を中断しています。

2022年5月に公開された論文では、イタリアで多発性硬化症による難治性の痙縮に対しサティベックスを使用した患者1138名のデータを分析した結果、3分の1が18ヶ月間治療を継続しており、痙縮の重症度は4週間の使用で24.6%、18ヶ月間の使用で33.9%減少していたことが報告されました。さらに、痙縮に付随する痛みや睡眠の問題にもポジティブな影響があったことが報告されています。

2022年5月に公開された多発性硬化症に対する医療用大麻の有効性を検証したレビューでは、サティベックスは痙縮だけでなく、痛み、膀胱機能、睡眠、QOLを改善する可能性もあると述べられています。

以上のように、サティベックスは標準治療と併用することが大前提であり、多発性硬化症による難治性の痙縮やそれに関連した症状に対し、ある程度の有効性が示されています。

サティベックスの副作用

最も頻繁に報告される副作用(10人に1人以上の割合で発症)は、めまいや疲労感です。

その他によくみられる副作用(10人に1人以下の割合で発症)は以下の通りです。

・眠気
・ふらつき
・目のかすみ
・のどの乾き
・味覚や食事摂取量の変化
・記憶障害や集中力の低下
・便秘や下痢
・喋りにくくなる
・口内の不快感や口内炎など

サティベックスでハイになるのか?

THCにはいわゆる「ハイ」になる作用がありますが、最大使用量である12回/日(さらに1噴霧につき、15分以上間隔を空ける)の範囲内においては、基本的にサティベックスでハイになることはないようです。

CBDはTHCによる精神作用を抑え、なおかつ医療効果を高める働きがあると考えられています

よってサティベックスでハイにならないのは、THCとほぼ同等の割合でCBDが含有しているからと考えられます。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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