国連専門家、刑罰による薬物政策の終焉を求める

「World Drug Day(国際麻薬乱用撲滅デー)」に先駆け、国連の人権専門家は刑罰による薬物政策を終わらせ、人権や健康に焦点を当てたハームリダクションに基づいた薬物政策を採用することを国際社会に求めました

この提言が行われた報告書は、国連人権理事会(UNHRC)によって任命された専門家から成る組織「特別手続(Special Procedures)」の特別報告者(Special Rapporteurs)」によって発表されました

報告書では、薬物使用に伴う健康への悪影響やリスクを最小限に抑えるために、国はエビデンスに基づいた介入を行う義務があると主張しています。

特別報告者は結論部分において、薬物使用と物質使用障害に関連する害を軽減するために、各国が刑法に依存するのではなく、人権と証拠に基づき、思いやりのあるアプローチを取る必要があることを強調。

証拠に基づいた思いやりのあるアプローチとしては、違法薬物の非犯罪化、違法薬物の安全性検査、過剰摂取防止センター、ナロキソン(オピオイドの過剰摂取による呼吸抑制や意識低下を回復させる薬)の普及などが挙げられています。

また、薬物に関連する法律や政策の策定にあたり、国は薬物使用者(特に歴史的に疎外され、犯罪者として扱われてきた人々)を関与させるべきであるとも述べられています。

これらのことから、報告書では世界各国に対し、以下のような提言がなされています(一部のみ抜粋)。

  • 健康の権利に悪影響を及ぼし、人種差別や植民地主義など様々な抑圧システムを永続させる法律や政策を廃止し、改正する。

  • 健康及び関連する権利の実現に向け、エビデンスに基づいたハームリダクションに取り組む。国は健康の権利を保障する義務の一環として、ハームリダクションサービスが利用可能であり、受け入れ可能であり、アクセスしやすく、質の高いものであることを保証しなければならない。サービスの提供は、法律上も実践上も差別的であってはならない。

  • 個人使用目的での薬物の使用、所持、購入、栽培を非犯罪化し、人々の健康や人権保護を前面に押し出した代替的な規制アプローチに移行する。科学的根拠に基づき、国が責任ある規制枠組みを結束して構築する必要がある。

  • 薬物に関する法律や政策、取締りが社会から疎外された集団や多様な差別に直面している人々(女性や少女、黒人、人種的・民族的マイノリティ、先住民族、子どもや若者、貧困にあえぐ人々、セックスワーカー、移民、LGBTIQA+の人々など)に不釣り合いな影響を及ぼしていることに注意を払い、法律の施行により健康の権利が侵害されないようにする。

  • 薬物検査が業務上の安全性や生産性を向上させるという科学的証拠は存在しない。そのため、雇用主は求職者の雇用にあたり、人種間格差が確認されている薬物検査を廃止することが望まれる。

  • サービスへのアクセスや治療関係の確立を阻む構造的な障壁となっている犯罪化、スティグマ化、差別化を終わらせる。おそらく薬物使用者は法的な制裁を恐れることで、健康状態の悪化を招いている。

  • 尊厳の権利を守るために、世界的な提唱とハイレベルな意思表明を実行に移す。薬物を使用する人々、物質使用障害を持つ人々、薬物に関する法律と政策によって悪影響が及んでいる人々において、到達可能な最高水準の身体的・精神的健康の権利実現は、実質的平等に向けた動きの中で尊重され、促進され、実現されなければならない。

この報告書の発表を受け、世界最大の国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」のエリカ・ゲバラ=ロサス(Erika Guevara-Rosas)氏は、以下のように述べました

「これは、いわゆる “麻薬戦争 “という明らかに失敗した政策を最終的に放棄することを、世界中の政府に対して大胆かつ緊急に呼びかけるものである。60年以上に渡り、この公衆衛生に対する誤った考え方のアプローチは、薬物の使用と供給を減らすことができなかっただけでなく、世界中で広範な人権侵害、暴力、大量投獄、苦痛と虐待をもたらし、歴史的に疎外されたコミュニティの人々に不釣り合いな影響を及ぼしてきた」

「ハームリダクション、治療、社会支援に焦点を当てることは、人権を薬物政策の中心に据えることの利点を実証している。世界中の市民社会団体や人権機構によって蓄積されたデータと長年の証拠は、薬物による健康、社会、経済への悪影響を軽減する上で、これらの方法が有効であることを証明している」

「多くの命が犠牲となっており、資源の浪費をやめる時が来ている。各国の政府は『麻薬戦争』を歴史に葬り去り、この報告書に概説されている全ての提言を実行に移し始めなければならない。これには、薬物の個人使用、所持、栽培、入手を非犯罪化し、許可された人々が合法的かつ安全に薬物を入手できる効果的な規制を行うことが含まれる」

なお、アムネスティ・インターナショナルも「国際麻薬乱用撲滅デー」に先んじて、「変革の時:人権を擁護する新しい薬物政策の推進」というタイトルの政策文書を発表しています

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は昨年、違法薬物の非犯罪化を緊急の課題とする声明を発表。さらに同機関は、刑罰による薬物政策が有害であることを訴えた報告書も発表しました

また、世界薬物政策委員会(GCDP)も「機能する薬物政策に向けた5つの道筋」の1つとして、個人使用目的での違法薬物の使用と所持の非犯罪化を提案しています

国連麻薬委員会(CND)は今年3月、ハームリダクションに基づいた薬物政策の有効性を初めて認め、加盟国にこれを奨励する決議案を採択。これには世界の麻薬戦争に多額の資金を提供してきた日本も賛成票を投じています。

世界で最も権威ある医学会の1つである米国医師会(AMA)は最近、違法薬物の非犯罪化を正式に支持する決議案を採択しました

Marijuana Moment「UN Annual Drug Report Says Marijuana Legalization May Shrink Illicit Market And Notes Emergence Of ‘Psychedelic Renaissance’」https://www.marijuanamoment.net/un-annual-drug-report-says-marijuana-legalization-may-shrink-illicit-market-and-notes-emergence-of-psychedelic-renaissance/

UN Human Rights Office「UN expert calls for end to the ‘war on drugs’」https://www.ohchr.org/en/press-releases/2024/06/un-expert-calls-end-war-drugs

UN Human Rights Office「A/HRC/56/52: Drug use, harm reduction and the right to health – Report of the Special Rapporteur on the right of everyone to the enjoyment of the highest attainable standard of physical and mental health, Tlaleng Mofokeng」https://www.ohchr.org/en/documents/thematic-reports/ahrc5652-drug-use-harm-reduction-and-right-health-report-special

Amnesty International「Global: UN report must signal end to manifestly failed ‘war on drugs’」https://www.amnesty.org/en/latest/news/2024/06/global-un-report-must-signal-end-to-manifestly-failed-war-on-drugs/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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