不眠症患者による就寝前の大麻オイルの使用が翌日のパフォーマンスにほとんど悪影響を及ぼさなかったことが報告されました。論文は「Psychopharmacology」に掲載されています。
医療用大麻が合法化されている国や地域では、不眠などの睡眠障害のために大麻やカンナビノイドを使用する人々が多くなっています。実際にカナダの調査では、医療用大麻の使用目的として最も多く挙げられていたのは睡眠障害でした。
医療目的で大麻を使用する人は、用量が調節しやすく、効果の持続時間が長いオイル製品を好む傾向にあります。しかし、効果の持続時間が長いということは、同時に翌日のパフォーマンスに悪影響が生じるリスクがあります。もしそうであれば、車を運転する人や高い注意力を必要とする仕事に従事している人は、夜間に大麻オイルを服用することを避けるべきでしょう。
なお、日本で処方されている睡眠薬では、服用した翌日に車の運転を控えるように表示することが義務付けられています。
大麻オイルが翌日のパフォーマンスに及ぼす影響を検証
オーストラリアの研究チームは大麻オイルが翌日のパフォーマンスに与える影響を検証するために、不眠症患者20名(女性16名、平均年齢46.1歳)を対象とした臨床試験を実施。これらの参加者は過去3ヶ月以内に大麻を使用していない人で構成されました。
参加者は睡眠専門外来において、就寝1時間前に大麻オイル(THC10mg+CBD200mg+MCTオイル)かプラセボオイル(偽薬)のいずれかを服用し、そのまま個室で就寝。翌朝の起床後2時間以内に認知機能や精神運動機能に関する28種類のテストと模擬運転試験を実施することで、パフォーマンスへの影響が評価されました。
また、オイルの服用から0.5時間後、10時間後、12時間後、14時間後、16時間後、18時間後において、酩酊の程度を0(感じない)〜100(非常に感じる)で評価することも求められました。
1週間後、参加者は再度外来を訪れ、1回目の研究時に服用しなかった方のオイルを服用することで同様の研究を実施。これにより、大麻オイルとプラセボオイルとの差が比較されました。
翌日への影響はほとんど示されず
28種類中27のテストにおいて、大麻オイルとプラセボとの間で有意差が認められませんでした。
一方、大麻オイルではプラセボと比較して、ワーキングメモリーと注意力を測定する「Stoop-Colour Test」でのみ精度がわずかに低下。ただし、どちらにおいても非常に精度が高く、他のより困難なテストでは精度の低下が認められなかったことから、このことに臨床的な意義はないと著者は説明しています。
また、大麻オイルを服用した翌朝、模擬運転試験においても障害は認められませんでした。
主観的な酩酊作用に関しては、10時間後においてのみ大麻オイルで有意に「高い」という評価がなされました(平均差=8.6)。
これらの結果から、著者は「大麻の使用頻度が低い不眠症の成人において、THC10mg(CBD200mgと併用)の単回経口投与は、プラセボと比較して”翌日”の認知機能や運転性能を顕著に損なわないことが示された」と述べています。
加えて、この結果は翌日の機能を損なう睡眠薬とは「対照的」であるとしています。
ただし、この研究は参加者が少なく、単回投与でしか検証されていないなど、いくつかの限界があります。そのため、著者は今後より大規模な臨床試験において、大麻オイルを日々服用した場合における影響を検証する必要があると結論づけています。
カナダの労働者を対象とした研究では、勤務時間外に大麻を使用する人と大麻非使用者との間で、労災の発生率に有意差が認められなかったことが報告されています。そのため、著者は「職場外での使用も含めて大麻の使用を全面的に禁止するゼロトレランス・ポリシーは、過度に範囲が広すぎる可能性があり、本研究の結果とは一致しない」と述べています。
シドニー大学の研究チームが実施したシステマティックレビューでは、大麻の使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとするエビデンスは非常に限られており、アルコールと比べてもその可能性が低いことが報告されています。