大麻使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとした報告は”非常に”限られている

大麻使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとした報告は”非常に”限られている

- シドニー大学の研究者らによるシステマティックレビュー

お酒を飲んだことのある人であれば、多くの人が一度は経験したであろう「二日酔い」。二日酔いは心身ともに不調をきたすため、仕事にも影響が出やすくなります。そのため、普段お酒を嗜んでいたとしても、仕事の前日は適度に節制する人がほとんどだと思います。

では、大麻(THC)の「酔い」はどうでしょうか?

大麻使用は運動や認知機能に影響を及ぼすことで知られています。そのため使用後数時間は、車の運転や危険を伴う労働は避けるべきと考えられています。このあたりはお酒と同様と言えるでしょう。

問題は、「どれくらいの時間避けるべきなのか」ということ。特に大麻を使用した翌日に影響がないかどうかを把握することは、自動車を運転する人など、多くの労働者にとって重要なものとなります。

そんな中、シドニー大学の研究者らは最近、「大麻使用が翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとしたエビデンスは非常に限られていた」と報告。この論文は「Cannabis and Cannabinoid Research」に掲載される予定ですが、すでにオンラインにて先行公開されています

この研究は、THCの摂取が翌日(摂取後8時間以上と定義)のパフォーマンスに及ぼす影響ついて検証することを目的とした、システマティックレビュー。

レビューの対象となったのは、THC摂取後8時間以上の状況下で、安全に配慮を要するタスク(模擬または路上運転、飛行機シミュレーション)や、認知機能などへの影響を調べる神経心理学検査を実施した研究(2022年3月28日までに公開されたもの)。

その結果、20件の研究(参加者458名、パフォーマンステスト345件)が今回のレビューに含まれました。

半数以上(11件)が二重盲検のランダム化比較試験(RCT)で、ほとんど(13件)が大麻(THC)の喫煙において検証を実施しており、どの研究も健康な参加者を対象としていました。

※ランダム化比較試験(RCT)とは?

特定の研究対象を2つ以上のグループにランダムに分け、治療薬や治療法の有効性を検証する研究。1つのグループでは効果を検証したい薬を、別のグループ(対照群)ではプラセボ(偽薬)や既存薬を使用し、それらの結果を比較することにより有効性を検証する。対象者が何の薬を飲んでいるのか分からないようにする試験を「単盲検」、対象者だけでなく研究者(治療者)もそれを把握できないようにする試験を「二重盲検」と呼び、後者のほうがバイアスがかかりにくく信憑性が高い。

RCTのエビデンスレベルは、数多くの研究を統合して分析するメタアナリシスやシステマティックレビューに次いで高いとされている。

レビューの結果、20件のうち16件の研究(神経心理学検査180件、安全に配慮を要するタスク29件)において、THCの摂取が翌日にまで影響を及ぼすとした報告が認められていなかったことが明らかに。これらのほとんど(9件)は二重盲検のRCTでした。

これらのうち、8件の研究は何らかのバイアスリスクがある、残り半分はバイアスリスクが高いと判断されました。ただし、何らかのバイアスリスクがあると判断された研究のうち、2件は低リスクとされ、3件は堅固に標準化された研究方法であるとされました。

一方、THCが翌日のパフォーマンスに悪影響を及ぼすとした報告は5件の研究(神経心理学検査10件、安全に配慮を要するタスク2件)にみられました。二重盲検のRCTや堅固に標準化された手順を採用した研究はなく、2件の研究でバイアスリスクが高いと判断されました。

さらに、これら5件の研究は全て18年以上前(4件は30年以上前)に公開されたものであり、研究方法に大きな制限があったことも明らかとなりました。つまり、「翌日に悪影響を及ぼす」と報告したのは、昔に実施された質の低い研究のみであったということになります。

これらの結果から、研究者らは「今回のシステマティックレビューでは、大麻の使用が翌日のパフォーマンスを低下させるという主張を裏付ける質の高いエビデンスは、ほとんど見出だせなかった」としています。

また、「ドライバーや安全が重視される職に就く人々の間でも、一般的にアルコールの二日酔いは許容されているが、THCの”二日酔い”はアルコールのそれよりも障害になる可能性が低いことを示している」と述べています。

今回の結果は、薬物検査を実施している職場においてインパクトのあるものになります。日本では馴染みのない話かもしれませんが、諸外国では、薬物検査で大麻の陽性反応が認められると、雇用してもらえなかったり、解雇されたりする場合があります。

例えばアメリカでは、昨年4万人以上ものトラック運転手から大麻の陽性反応が検出され、その多くが復帰を果たしていないことが明らかとなっています。

おそらく、これらの理由は薬物使用者に対するスティグマがメインだと思われますが、仕事に悪影響を及ぼす可能性も大きな要因として含まれているでしょう。

しかし、今回のシステマティックレビューでは、大麻使用は翌日に悪影響を及ぼすとするエビデンスはかなり限定的であり、ほとんどの研究が「影響なし」と報告しています。そして影響があったとしても、アルコールによる二日酔いよりもその可能性が低いとも述べられています。

つまり、「大麻を使用したら仕事に悪影響が出る」という理由で雇用を拒否したり解雇したりすることを、エビデンスはほとんど支持していないということになります。

これについて研究者らは「保守的な職場規則により、薬物の陽性反応による解雇など深刻な結果が生じること、また、不眠症や慢性疼痛の緩和のために医療用大麻を使用したくても、路上や職場における薬物検査を恐れ、使用を制限されている人たちのQOL(生活の質)に影響が生じることを、政策立案者は心に留めるべきである」と述べています。

もちろん「THCの摂取=翌日に影響なし」と安易に判断されるべきではありません。

例えば、2018年に公開されたシステマティックレビューによれば、以下の3つの条件で大麻の影響がより長く持続するとされています。

①THCの摂取量が多い
②THCの経口摂取
③大麻を日常的に使用していない

今後、こういったことも考慮した、より多くの質の高いエビデンスが必要となるでしょう。

今年始め、サンディエゴ州立大学とベントレー大学の研究者らは、アメリカにおける州レベルの嗜好用大麻の合法化が雇用や収入に悪影響を及ぼしていなかったことを報告しています

また、昨年には、週4日程度の大麻使用は無動機症候群の発症とは関連していなかったことが、イギリスの研究者らにより報告されています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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