アメリカの大麻業界団体であるUSCC(アメリカ大麻評議会)は、次回の農業法案の見直しにおいて、産業用ヘンプの定義をより厳格にし、精神作用を持つヘンプ化合物とそうではない種子や繊維由来の副産物とを別々に規制するよう米国議会に強く要請しています。
今回の提案の中でUSCCは、人間や動物の消費を目的としたヘンプ製品について、検出可能な量のTHCを含むものは全て禁止とし、これらの製品を「ヘンプ」と定義しないよう提案しています。
We wrote to Senate & House Agriculture Committee leadership (@StabenowPress, @JohnBoozman, @CongressmanGT, and @repdavidscott) today to urge them to "tackle the national crisis caused by unregulated intoxicating hemp products:" https://t.co/wHTJYkaPFY
— US Cannabis Council (@USCannabisCncl) April 10, 2024
USCCのエドワード・コンクリン専務理事が4月10日に上下両院農業委員会の議員に送った書簡によると、これら合成カンナビノイドや精神作用を持つヘンプ化合物の出現により、検査されていない無規則な製品の市場が全国的に誕生することとなり、アメリカが求める基本的な製品への安全基準を満たしていない化学プロセスを使用して製造された安全性の低い製品が広く流通していると指摘しています。また、それは、2018年の農業法案の時にCBDを原料として製造される化合物や合成カンナビノイド(デルタ-8 THC、デルタ-10 THC、THC-O酢酸エステル、THCPなど)を考慮していなかったことが原因であると述べています。また、これらの商品はガソリンスタンドやスーパーマーケットなどで販売されていることから消費者の間で安全だという間違った認識が広がっており、早急な対策が求められています。USCCは、次回の農業法案ではヘンプを再定義し明確化する機会であり、これを行うことにより上記の様な問題を防止することができると考えています。アメリカでは農業法案は基本的に5年ごとに見直されることになっています。
このUSCCの動きは、未検査で安全性の低い製品がアメリカ国内市場に氾濫する現状に呼応したものです。先日、アメリカのAmazonで販売されているヘンプ製品に関して、販売されている商品の96%がラベルに表示されている内容と異なっているというCBD Oracleの調査結果が発表されました。これらの問題が起こるのも同様で、ヘンプ製品に関する規制の不備や市場の監視不足が原因であり、USCCの提案はこれらの問題に対応したものになります。また、これは、合法的にしっかりと法規制を守り事業を運営する大麻企業を守るための対処でもあると考えられます。
アメリカでもCBDやヘンプ由来の製品に関する規制はまだ発展途上の段階であり、特にオンラインマーケットプレイスにおける販売に関しては、具体的で統一された基準が不足しています。これらの問題を解決するためには、政府や規制当局がCBDやヘンプ由来の製品に関する明確かつ厳格な規制基準を積極的に導入し、業界にこれらを遵守させることが重要です。これには、使用可能な成分、品質要件、ラベル要件、マーケティングや広告に関する規則の明確化が含まれます。
イギリスでは大麻ベイプから麻酔成分「キシラジン」が検出
大型動物(牛や馬など)の鎮静剤として一般的に使用される「キシラジン」という麻酔成分が大麻ベイプ製品から検出され、それを使用した人が死亡するという事件がイギリスで発生しました。キシラジンは数年前からアメリカで流行しており、ヘロインやフェンタニルなどの強力なオピオイドと混合されて使用されるのが一般的で、何千人もの死者を出している危険な薬物です。アメリカでのキシラジンによる死亡例は2018年の時点では102件だったのに対し、そのわずか3年後の2021年には3468件に跳ね上がっています。ロンドン大学キングス・カレッジの調査によると、イギリスでもその存在は着実に拡大しており、最初の死亡例が確認された2022年以降、複数の死者が出ていると報告しています。
この類似事件として、2019年にアメリカのコロラド州で起こった大麻ベイプの使用に起因する複数の死亡事件がありますが、その時に原因となった物質は増粘剤やベイプカートリッジのTHCオイルを薄めるために使われていたビタミンEアセテートで、今回のイギリスのケースとは原因物質が異なっています。
しかし、曖昧な規制と品質管理の概念の欠如、製造工程が不透明な商品に起こった事件という点では共通しており、早急な対策が必要となっています。
日本にもアメリカで販売されているヘンプ商品の一部や同様の原料等を使用した製品が流通し販売されています。現在、日本では2023年に可決した大麻取締法の改正案の施行が予定されており、その詳細の発表が待たれています。日本でCBD市場が成長拡大し、そこに参入する企業が安全に事業を運営できるようにするためには、これらの問題に対処した法規制の導入が業界から期待されています。日本の大麻取締法改正の動きは海外の事業者からも大きな注目を集めています。
BBC「’Zombie’ drug xylazine found in cannabis THC vapes in UK」https://www.bbc.com/news/health-68760301
The White House「Biden-Harris Administration Designates Fentanyl Combined with Xylazine as an Emerging Threat to the United States」https://www.whitehouse.gov/ondcp/briefing-room/2023/04/12/biden-harris-administration-designates-fentanyl-combined-with-xylazine-as-an-emerging-threat-to-the-united-states/
King’s College London「Xylazine has infiltrated the UK’s illicit drug market」https://www.kcl.ac.uk/news/xylazine-infiltrated-uk-illicit-drug-market
NCBI「Vitamin E Acetate as a Plausible Cause of Acute Vaping-related Illness」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6952050/
DEA「The Growing Threat of Xylazine and its Mixture with Illicit Drugs」 https://www.dea.gov/sites/default/files/2022-12/The%20Growing%20Threat%20of%20Xylazine%20and%20its%20Mixture%20with%20Illicit%20Drugs.pdf
Cannabis Law Report「US Cannabis Council Proposes Federal Prohibition for Hemp-Derived Products With THC」https://cannabislaw.report/us-cannabis-council-proposes-federal-prohibition-for-hemp-derived-products-with-thc/