医療用大麻の気化摂取が偏頭痛の急性症状にもたらす効果を検証した結果、痛みや随伴症状が有意に緩和されたことが報告されました。論文は「medRxiv」に掲載されています(ただし、まだ査読を受けていません)。
偏頭痛とは、主にこめかみから側頭部に生じる脈を打つような発作性の頭痛のことを指します。偏頭痛は20〜40代の女性に好発。その痛みは中〜重度であり、日常生活に支障をきたすことがほとんどです。痛みは基本的に頭の片側に生じますが、両側性へと移行することも多いです。
偏頭痛は痛みだけでなく、発作時に光・音・臭いに敏感になることが特徴であり、ひどい時には悪心・嘔吐も伴います。
偏頭痛発作の誘因は、歩行や家事などの日常動作、ストレス、疲労、睡眠不足・過多、月経、天候、飲酒など。偏頭痛は頭の血管が拡張することで増強するため、日常動作、入浴、マッサージ、飲酒などは症状を悪化させる要因となります。
偏頭痛は上記のような誘因が引き金となり、脳のホメオスタシス(恒常性)が崩壊し、感受性が亢進することで神経系と血管系に異常をきたす病気です。このメカニズムは未だに解明されていませんが、三叉神経説やセロトニン説など、様々な仮説が提唱されています。
偏頭痛の治療は薬物療法が中心となります。第一選択薬はトリプタン製剤(スマトリプタンなど)であり、この薬はセロトニン受容体と結合することで血管を収縮させ、神経の炎症を抑制することで症状の緩和をもたらします。
それでも不十分な場合は、鎮痛剤(N-SAIDsやアセトアミノフェン)を併用。トリプタン製剤で効果がない場合は、エルゴタミン製剤が用いられます。
偏頭痛の予防としては、Ca拮抗薬(ロメリジン)、Β遮断薬(プロプラノロール)、抗うつ薬(アミトリプチリン)、抗てんかん薬(バルプロ酸)などが使用されます。
しかし、これらの多くには副作用があり、特定の人(妊婦、脳血管疾患・心疾患罹患者等)は使用できないなど、いくつかの制約があります。そのため、現在も新たな治療の選択肢が待ち望まれています。
医療用大麻という新たな選択肢
このような中、偏頭痛の治療として医療用大麻が注目されつつあります。というのも、医療用大麻は様々な研究により、鎮痛作用、抗炎症作用、神経保護作用、制吐作用、抗不安作用、ストレス緩和など、偏頭痛に有効となり得る作用が報告されているからです。
このような多様な作用は、主にECS(エンドカンナビノイドシステム)と呼ばれる神経系に作用することでもたらされると考えられています。ECSは心身の恒常性を保つために重要な役割を果たしており、このことは脳の恒常性が損なわれた偏頭痛の治療ターゲットとなり得ることを示しています。
実際、偏頭痛患者の脳内では、主要なエンドカンナビノイドの1つであるアナンダミドが低下している可能性が報告されています。
また、ECSの構成要素である「CB1受容体」や「CB2受容体」の活性化に加え、エンドカンナビノイド分解酵素(FAAH、MAGL)の阻害が、偏頭痛の緩和に関与している可能性も示されています。
これらのことから、近年では偏頭痛の発症メカニズムとして、ECSの異常が関連しているという仮説も提案されるようになっています(エンドカンナビノイド欠乏説)。
偏頭痛患者を対象とした初の臨床試験
カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームは、偏頭痛の急性症状に対する医療用大麻の有効性を検証するため、92名の患者(女性82.6%、年齢中央値41歳、白人77.2%)を対象とした臨床試験を実施。
参加者の組み入れ基準は、年齢が21〜65歳で、1ヶ月あたりの発作出現日数が2〜23日の偏頭痛患者。研究期間中に大麻・オピオイド・鎮静薬を使用しないこと、妊娠及び授乳中でないこと、精神疾患の既往がないことなども条件に含まれました。
治療に用いられたのは、米国国立乱用研究所(NIDA)の薬物供給プログラムから入手した4種類のドライフラワー製品(①THC主体[THC6%・CBD0.03%])、②CBD主体[CBD11%・THC0.35%]、③THC+CBD[THC6%・CBD11%]、④プラセボ[THC0.025%未満・CBD0.14%])。これらの製品には1%未満のマイナーカンナビノイドが含まれていましたが、テルペンは含まれていませんでした。
参加者は偏頭痛発作が生じた際、1種類の大麻製品を気化摂取。それから少なくとも1週間以上期間(ウォッシュアウト期間)を空けた後、再度偏頭痛が起きたら別の大麻製品を使用するといった流れを繰り返すことで、それぞれの大麻製品の有効性が評価されました(クロスオーバー試験)。
できるだけ正確に評価を行うため、参加者と研究者は誰が何を使用しているのか分からないように工夫されました(二重盲検)。
なお、大麻製品の気化摂取は、標準化された方法が採用されています(180度の温度で気化。5秒間で吸入し、10秒間息を止め、息を吐き、45秒間待機する。これを4セット)。
主要評価項目は、使用後2時間の疼痛緩和。その他のアウトカムとして、使用後2時間の疼痛消失、随伴症状(悪心・嘔吐、光過敏、音過敏、追加薬の使用)の緩和・消失が含まれました。
これらの評価に関するデータは気化摂取から2時間後だけでなく、1時間後、24時間後、48時間後にも収集されました。
THC+CBDが最も効果的
検証の結果、主要評価項目である使用後2時間の疼痛緩和は、THC+CBD(反応率67.2%)とTHC主体の製品(68.9%)においてプラセボ(46.6%)より優れていたことが明らかに。CBD主体の製品(52.6%)もプラセボより優れていましたが、他の製品と比べて反応率が劣っていました。
使用後2時間の疼痛消失、随伴症状の消失については、THC+CBDの製品(それぞれ34.5%、60.3%)のみがプラセボ(15.5%、34.5%)よりも有意に優れた効果を示しました。THC+CBDの製品は音や光への敏感さには効果的でしたが、悪心・嘔吐では有効性が確認されませんでした。
使用から1時間後の疼痛緩和は、プラセボ(36.7%)と比較して全ての製品で優れた反応率が示されました(THC主体:65.5%、THC+CBD:53.6%、CBD主体:58.9%)。
使用後1時間の疼痛消失はTHC主体の製品のみ、1時間後の随伴症状の消失はTHC主体とCBD主体の製品において、プラセボよりも有意に効果的となっていました。
一方、THC+CBDの製品のみが持続的な効果を示し、24時間後の疼痛・随伴症状の消失、48時間後の随伴症状消失においてプラセボよりも優れた反応率を示しました。
いずれの製品でも重篤な副作用は報告されませんでした。全体的に多く報告された副作用は眠気(CBD主体:37.5%、THC+CBD:44.6%、THC主体:41.4%)であり、多幸感や認知障害はTHC主体の製品(それぞれ36.2%、34.5%)において最も多く報告されました。
これらの結果から、研究者らは「急性偏頭痛に対するカンナビノイドの有効性を検証した初のランダム化二重盲検プラセボ対照試験である本試験において、6%THC+11%CBDは2時間後の疼痛緩和、疼痛消失、MBS(随伴症状)の消失、2時間後の光過敏・音過敏の消失、24時間後の疼痛消失・MBS消失の持続、48時間後のMBS消失の持続において、プラセボより優れていた」
「今後の研究では、多施設での共同研究や、反復使用による利益とリスクの長期的な研究が必要である」と述べています。
今回の研究が初の臨床試験であったことからも分かるように、偏頭痛に対する医療用大麻の有効性は主に観察研究において報告されています。
コネチカット大学の研究チームは最近、頭痛患者1,373名を対象に調査を行った結果、32.5%が頭痛のために大麻を使用しており、このうち大多数が大麻の使用により偏頭痛(強度:78.1%、持続時間:73.4%、頻度:62.4%)、吐き気(56.3%)、睡眠障害(81.2%)、不安(71.4%)、抑うつ(57%)の改善を実感していたことを報告。
アリゾナ大学の研究では、1,980名の患者を含む12件の医学論文を検証した結果、医療用大麻の使用は30日後の偏頭痛の出現日数、1ヶ月あたりの偏頭痛の頻度の減少と関連し、その効果は大麻以外の治療薬よりも51%高かったことが示されています。
また、偏頭痛に対する医療用大麻の効果や安全性を検討した9件のシステマティックレビューを分析した研究では、医療用大麻は重篤な副作用を引き起こすことなく、偏頭痛の期間と頻度を減少させることで、有意な臨床的反応をもたらす可能性があると述べられています。
ただし、医療用大麻の有効性や安全性を正確に評価するためには、今後も質の高い臨床試験を積み重ねる必要があります。