不安症患者が医療用大麻の使用で不安を緩和 ベンゾジアゼピンを中心に減薬も

不安症患者が医療用大麻の使用で不安を緩和 ベンゾジアゼピンを中心に減薬も

- ペンシルベニア州の観察研究

不安障害とPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ患者が医療用大麻の使用により不安を緩和し、ベンゾジアゼピンを中心に処方薬を減薬していたことが米国ペンシルベニア州の研究者らにより報告されました。論文は「Journal of Affective Disorders Reports」に掲載されています。

不安障害は最も身近な精神疾患であり、日本における生涯有病率は9.2%。PTSDの生涯有病率に関しては1.3%とされています。しかし、これらの疾患において現行治療で完全寛解に至る人は限られており、また、ベンゾジアゼピンやSSRIなどの抗不安薬では、依存性や副作用がしばしば問題となっています。

現時点で不安に対する医療用大麻の有効性に関するエビデンスは不十分とされています。しかし、2019年に公開されたメタアナリシスでは、医療用大麻の使用理由として最も多かったのは痛み(64%)であり、2番目に不安(50%)が挙げられています。

不安のために医療用大麻を処方された患者を追跡調査

ペンシルベニア州は2016年に医療用大麻を合法化しており、不安障害とPTSDは適応疾患の1つとされています。2022年の報告によれば、同州で最も多く医療用大麻が処方された疾患は不安障害(50.1%)であり、次いで重度の慢性・難治性疼痛(22.3%)、PTSD(7.9%)となっていました。

今回調査が行われたのは、ペンシルベニア州内にある4つの医療用大麻クリニック。対象患者は18歳以上であり、不安障害またはPTSDと診断され、医療用大麻を初めて処方された108名(平均年齢47.2歳、女性72%、白人92%)。

このうち96%が不安障害、20%がPTSD、17%が不安障害とPTSDの両方の診断を受けていました。

追跡期間は3ヶ月間。参加者はベースライン時と3ヶ月後において、不安の重症度評価(GAD-7)を受けました。GAD-7は全般性不安障害で用いられる自己評価尺度の1つであり、総スコアは21点。5点以上で軽度、10点以上で中程度、15点以上で重度の不安障害と判断されます。

また、ベースライン時に現在処方されている薬の減薬に対する意思も調査。医療用大麻の処方から3ヶ月後には、実際どの程度処方薬を減薬できたのかが評価されました。

不安の重症度が中程度から軽度へと改善

参加者108名のうち、87%が3ヶ月間の追跡評価を完了。

ベースライン時のGAD-7の平均点は11.2点であり、中程度の不安障害が認められていましたが、医療用大麻の処方から3か月後では、GAD-7の平均点は7.4点まで減少し、重症度が軽度となりました

この結果について、論文では「3ヵ月後の追跡調査において、参加者はGAD-7によって測定された不安の重症度において有意な減少を示した。サンプルの平均得点はベースライン時には中程度の重症度の範囲にあったが、3ヵ月後の追跡調査では軽度の重症度の範囲へと改善した」と述べられています。

論文の考察部分では、医療用大麻が不安に有効性を示すメカニズムとして「大脳辺縁系におけるカンナビノイド受容体の関与、炎症の軽減睡眠の改善などが仮説として考えられているが、この関係はまだ十分に解明されていない」と書かれています。

ベンゾジアゼピンを中心に処方薬が減薬

ベースライン時、59%が不安の緩和のために処方薬を服用していると回答。最も多く処方されていたのは抗うつ薬(43%)で、次いでベンゾジアゼピン(19%)でした。

全体として、大多数の人(70%)が医療用大麻の使用により、これらの処方薬を減薬したいと考えていました。

ベースライン時に不安の緩和のために処方薬を服用しており、3ヶ月間の追跡評価を完了した50名のうち、32%が処方薬の使用が減少したと報告。減薬の程度に関しては、12%で極端な減少、38%でかなりの減少、50%で中程度の減少が認められました。

薬の種類別では、ベンゾジアゼピンにおいて減薬が顕著となっていたことが明らかに(ベンゾジアゼピン67%、他の処方薬24%)

これらの結果に対し、研究者らは「不安症状のために他の薬を処方された人のほぼ3分の1がその使用量の減少を報告し、この減少はこれを目標としていた人においてより顕著であった」

「重要なのは、ベンゾジアゼピンを処方された者では、他のクラスの薬剤を処方された者よりも使用量が減少する可能性が高かったことである。これは、ベンゾジアゼピンの重大な依存の可能性を考慮すると重要な所見である」と述べています。

興味深いことに、ベースライン時の減薬に対する意思と3か月後の減薬には統計的に正の相関関係が認められましたが、不安の緩和と減薬との間では関連性が認められませんでした。

この研究は、観察研究という性質から医療用大麻が不安を緩和すると結論づけることができないこと、客観的データに乏しいこと、期間が3ヶ月と限られていることなど、いくつかの限界があります。そのため、不安に対する医療用大麻の有効性を明らかにするためには、今後もより多くの研究が必要となります。

質の高い研究は少ないものの、医療用大麻が抗不安作用を有する可能性は様々な研究において報告されています。

イギリスの研究チームは2023年6月、全般性不安障害で医療用大麻の治療を受けた302名の患者データを分析した結果、治療開始から6ヶ月後で39%が不安、50%が健康関連QOL、35%が睡眠の改善を認めていたことを報告

これと同様の研究はPTSDにおいても行われており、PTSD症状、睡眠、不安の有意な改善が報告されました

オーストラリアの研究においても、不安障害やPTSDを有する患者が医療用大麻の使用により不安、抑うつ、疲労、社会活動において改善を認めていたことが明らかにされています

また、今回の研究以外でも、大麻やカンナビノイドの使用が向精神薬の減薬に寄与することを示した報告が存在します。

オーストラリアの医療用大麻患者535名を対象とした調査では、医療用大麻の使用から6ヶ月後にベンゾジアゼピンの使用量が8.5%、抗うつ薬の使用量が10.2%減少し、医療用大麻の使用から1年後にはベンゾジアゼピンの使用量が16.4%、抗うつ薬の使用量が19.3%減少していたことが報告されています。

別のオーストラリアの医療用大麻患者における調査では、睡眠障害のために医療用大麻を使用している人の約8割が改善を報告し、9割以上がベンゾジアゼピンを減薬していたことが報告されています。

2021年のアメリカの研究では、不眠症患者60名に水溶性CBNを2〜4mg/日摂取してもらった結果、睡眠状況が劇的に改善。研究開始以前に睡眠薬を服用していた14名のうち8名が全ての睡眠薬を中止し、2名が減薬に成功しました。

なお、2022年にコーネル大学とインディアナ大学の研究者らは、嗜好用大麻を合法化した州において、痛み、うつ病、不安障害、睡眠障害、精神病、てんかんに関する治療薬の処方量が有意に減少していたことを報告しています

今回の研究結果とは反対に、大麻の使用は不安を誘発する場合もあります。不安と医療用大麻・CBDについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照下さい

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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