不安症患者、医療用大麻の使用で不安・睡眠・QOLが改善

不安症患者、医療用大麻の使用で不安・睡眠・QOLが改善

- イギリスの観察研究

6月14日、全般性不安障害患者が医療用大麻の使用により不安、睡眠、QOLの改善を認めていたことがイギリスの研究チームにより報告されました。論文は「Psychopharmacology」に掲載されています。

不安障害は最も身近な精神疾患であり、日本における生涯有病率は9.2%。しかしながら、現行治療で完全寛解に至る人は限られており、またベンゾジアゼピンやSSRIなどの抗不安薬では、依存性や副作用がしばしば問題となっています。

医療用大麻で最も多い適応症は「痛み」ですが、これに次いで多いのが「不安」です。米国ペンシルベニア州で行われた昨年の調査では、医療用大麻の適応症として不安障害が最も多かったことが報告されています。

しかし、不安に対する医療用大麻のエビデンスは、痛みと比べてまだ不十分。それどころか、場合によっては大麻の急性作用により不安(いわゆる、バッドトリップ)が誘発されることもあります(詳しくはこちらの記事をご参照下さい)。

不安障害患者における観察研究

このような中、イギリスの超名門校「インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)」の研究者やロンドンにある医療用大麻クリニック「サファイア・メディカル・クリニック(Sapphire Medical Clinic)」の医師らは、全般性不安障害に対する医療用大麻の有効性や安全性を分析することを目的とした6ヶ月間の観察研究(前向き研究)を実施。

研究の対象となったのは、イギリス医療用大麻レジストリ(UKMCR:United Kingdom Medical Cannabis Registry)に登録を行い、サファイア・メディカル・クリニックで主に全般性不安障害のために医療用大麻による治療を受けた患者302名(男性68.6%、平均年齢37歳)。

不安障害の重症度の中央値は中程度(GAD-7:14点)で、36.7%がSSRI(抗うつ・不安薬)、20.2%がベンゾジアゼピン(抗不安薬)、53.3%がその他抗うつ薬を使用。また治療開始時、参加者の大多数が現在(62.3%)及び過去(23.8%)の大麻使用を報告しました。

医療用大麻の有効性を評価するため、患者は治療開始1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に、不安(GAD-7:Generalized Anxiety Disorder-7)、睡眠の質(SQS:Sleep Quality Scale)、健康関連QOL(EQ-5D-5L:EuroQOL 5-dimensions 5-levels)に対する自己評価を実施。

不安に関しては、GAD-7スコアで50%以上の減少を「奏功」、GAD-7スコアで4点の減少を「臨床的に意義のある最小の値」と定義しました。

・GAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)

全般性不安障害(GAD)のスクリーニングと重症度測定のための自己評価尺度。総スコアは21点で、5点以上で軽度、10点以上で中程度、15点以上で重度の不安障害と判断される。

・SQS(Sleep Quality Scale)

過去7日間の全体的な睡眠の質を測定するための自己評価尺度。総スコアは10点(0点:最低、1〜3点:悪い、4〜6点:普通、7〜9点:良い、10点:最高)。

・EQ-5D-5L

患者が主観的に健康関連のQOLを評価する尺度。「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」といった5つのドメインに対し評価が行われる。総スコアは0~1点の尺度に基づき、0点は最もQOLが低い状態、1点は最もQOLが高い状態を示す。

不安、睡眠、QOLが6ヶ月間改善

ベースライン時の参加者302名のうち、欠損データなく解析対象に含まれたのは1ヶ月後で249名、3ヶ月後で180名、6ヶ月後で94名。

医療用大麻の使用により、全ての時点において不安(GAD-7)が有意に改善(治療開始1ヶ月後:平均-5.3、3ヶ月後:平均-5.5、6ヶ月後:平均-4.5)

医療用大麻が不安に対し奏効(GAD-7スコアの50%以上の減少)した割合は、治療開始1ヶ月後で38.2%、3か月後で40.1%、6ヶ月後で38.3%。GAD-7スコアで−4点の改善が認められた割合は、治療開始1ヶ月後で58.2%、3ヶ月後で55%、6ヶ月後で43.6%となりました。

睡眠に関しても、全ての時点でスコアが有意に改善(治療開始1ヶ月後:-1.8、3ヶ月後:-1.9、6ヶ月後:-1.5)

健康関連QOLに関しても、同様に有意な改善が認められていました(治療開始1ヶ月後:+0.15、3ヶ月後:+0.15、6ヶ月後:+0.11)

なお、これらの改善はベースライン時の大麻使用状況とは関連していませんでした。

元々の大麻使用状況で好みの製品が異なる

初診時、29.5%がオイルベースの製品を、46%がフラワーベースの製品を、24.5%がこれら両方の製品を処方されました。

処方された製品の種類は大麻の使用状況によって異なり、大麻未経験者ではオイルベースの製品、大麻経験者ではオイル及びフラワーベース製品の両方、現在の大麻使用者ではフラワーベースの製品が好まれていました。

今回の研究では、使用された医療用大麻製品のカンナビノイド量は明らかにされませんでした。

副作用は許容できるレベル

医療用大麻による副作用は39名から269件報告されました。

主な副作用は口渇(25件)、疲労(22件)、不眠(19件)、眠気(16件)、倦怠感(16件)、吐き気(16件)など。

生命を脅かすような副作用は報告されませんでしたが、6名が不眠の副作用を重度と評価しました。

より質の高い研究が求められる

インペリアル・カレッジ・ロンドンとサファイア・メディカル・クリニックの研究チームは昨年、全般性不安障害患者67名を対象に同様の研究を実施。その結果、医療用大麻の使用開始から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後において有意な改善が認められたことを報告

今回行われた研究は、これよりもさらに多い人数で行われた研究となりました。

この研究により、医療用大麻の治療開始から6ヶ月後で不安の重症度が平均-4.5点、健康関連QOLが平均+0.11点となり、臨床的に有意と判断される最小レベルの改善を上回る効果が認められました。一方、睡眠に関しては改善が認められたものの、「やや改善」を意味する-2.6点よりも少し劣る結果となりました(平均-1.5点)。

それでも全体として、治療開始から6ヶ月後で39%が不安、50%が健康関連QOL、35%が睡眠の臨床的に有意な改善を報告しています。

以上の結果から、研究者らは「このコホート(集団)研究は、全般性不安障害患者における医療用大麻製品の処方が許容できる安全性プロファイルとともに、不安の臨床的に有意な改善と関連していることを示しています」と述べています。

ただし、この研究は観察研究であることから、これらの因果関係を証明することは困難であり、限界があります。さらに、参加者の多くが大麻使用者であり、このことは大きなバイアス(偏り)をもたらす可能性があります。そのため、大麻の抗不安作用を証明するためには、プラセボ(偽薬)など他の薬剤との間で効果を比較する臨床試験が引き続き求められます。

今回の研究は、エビデンスレベルとしてはあまり高いものではありません。しかし、医療用大麻やCBDの抗不安作用に関するエビデンスは日々蓄積されています。

カナダのオーロラ・カンナビス社(Aurora Cannabis)の研究チームは最近、医療用大麻使用者の追跡アプリ「Strainprint」のデータを活用し、不安に対する医療用大麻の効果と、その効果に年齢、性別、品種が関連するのかを検証。品種は最終的にTHCインディカ(THC17〜19.1%、CBD0.1%)、THCサティバ(THC17.5〜22.3%、CBD0〜0.1%)、CBD優位の品種(THC0.3〜2.5%、CBD8〜10.3%)の3種類に絞られました。

不安のために大麻を使用している人184名(女性61%、平均年齢34.7歳)から得られた1028回のセッションデータを分析した結果、男女ともに平均して50%程度の不安の改善が認められ、約94.8%がポジティブな体験を報告(リラックス、快適、幸せなど)。興味深いことに、全体として女性は男性よりも少ない消費量で抗不安作用を実感。品種別では3種類全ての品種で抗不安作用が認められていましたが、THCインディカでは男性のほうが、CBD優位の品種では女性のほうが高い効果を実感していました。

2022年にアメリカの研究チームは、中程度以上の不安を認めていた14名にCBDフルスペクトラムオイルを4週間服用してもらった結果、1週目から多くの患者で15%以上の不安の改善が認められ、3週目にはその改善が全員で認められたことを報告。またこの研究では、不安以外にも抑うつ、否定的感情、睡眠、QOLなどにおいても有意な改善が認められています。

2022年のオーストラリアの研究では、薬物療法や精神療法などあらゆる治療で改善が認められなかった12〜25歳の不安障害患者31名にCBD(最大800mg/日)を12週間摂取してもらった結果、平均して42.6%相当の不安の改善が認められたことが報告されています。

メキシコの研究チームも同年、不安障害及び睡眠障害を有する4名の患者において、CBDの使用が症状の改善をもたらした症例を報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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