痛みとCBD・医療用大麻

痛み

痛みとCBD・医療用大麻

頭痛、生理痛、腰痛、筋肉痛・・・

痛みは身近な身体症状の1つであり、その証拠として多くの人がロキソニンやカロナールなどの痛み止めを使用したことがあるのではないでしょうか?

海外ではそれらの痛み止めだけでなく、CBDや医療用大麻を使用する人も増えてきており、中には麻薬性鎮痛薬であるオピオイドの使用量を減らすことができたと報告している人々もいます。

今回は痛みについての知識と、それに対するCBDと医療用大麻の有効性についてお話していきます。

目次

痛みとは?

痛みは不快な症状ですが、身の危険を知らせる信号であり、生命を守るために欠かすことのできない感覚です。

例えば、包丁で食材を切っている時、誤って指に刃が当たったら「いてっ!」と言って包丁を遠ざけますよね。もし痛みがなかったら指は無事では済まないかもしれません。

他にも「胃が痛いな」と思って病院にかかったら、胃潰瘍を発症していたなんてこともあるかもしれません。もし痛みがなければこれに気づくことができず、胃にダメージを負ったまま食事を摂取し続けることになります。これは極めて危険なことですよね。

このように痛みは危険から身を守り、身体の異常に気付くために働いています。逆を言えば、この役割を果たさない痛みはただの不快な症状ということになります。

痛みの種類

原因による分類と、痛みの持続期間による分類でそれぞれ見ていきます。

原因による分類

大きく、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の2種類に分類されます。

侵害受容性疼痛

組織の損傷により生じる痛みで、日常生活における痛みはだいたいこれに当てはまります。侵害受容性疼痛は体性痛と内臓痛に分類されます。

体性痛は、皮膚・骨・筋肉・関節などの組織の損傷や炎症により生じる痛みです。

内臓痛は、臓器の炎症や圧迫、急激な伸展などにより生じる痛みです。

神経障害性疼痛

何らかの原因で神経が障害されることにより生じる痛みです。しびれを伴い、電気が走るような痛みを生じます。

例として、帯状疱疹後の痛みや坐骨神経痛、抗がん剤治療の副作用や糖尿病による末梢神経障害などが挙げられます。

痛みの持続期間による分類

痛みは持続期間により、急性疼痛と慢性疼痛に分けられます。

急性疼痛

組織の損傷により一過性にみられる痛みです。けがによる痛み、手術後の創部痛、治療可能な炎症などが該当します。

急性疼痛は、原因がなくなれば消失していきます。

慢性疼痛

3ヶ月以上持続する痛みを言います。痛みを伴う慢性疾患(多発性硬化症、線維筋痛症、パーキンソン病等)やがんによる痛み、神経障害性疼痛等が該当します。

通常、感覚は時間が経つにつれ鈍くなっていきますが、痛みに関しては長期間持続すると精神的な影響も相まって痛みへの感受性が高くなってしまいます。

この一例として神経障害性疼痛では、通常痛みを感じない程度の接触や熱などの刺激で痛みを感じるアロディニア(異痛症)が認められます。

痛みのメカニズム

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛でメカニズムは異なります。

侵害受容性疼痛は細胞や組織が障害を受けた際、プロスタグランジンという物質が作られます。これが炎症を引き起こしたり、発痛物質であるブラジキニンを増強させることにより、痛みが発生します。

知覚するものによって痛みの伝わり方が変わったりもします。例えば冷たいもの、熱いものを触ったときの痛みは伝達が早く(即時痛)、テーブルの角に小指をぶつけたときの痛みは伝達が遅かったりします(遅延痛)。

痛みの情報は自由神経終末(神経線維の末端)から神経後根節へと伝わり(一次ニューロン)、さらに脊髄(後角)へと伝わって上行し(二次ニューロン)、やがて脳において痛みとして知覚されます(三次ニューロン)。

神経障害性疼痛はがんやヘルニアなどにより神経が圧迫されたり、神経障害を引き起こす病気や薬の副作用などにより生じますが、なぜ痛みが生じるのかははっきりとわかっていません。

一説によると、カルシウムイオンチャネルの過剰発現が原因と考えられています。

痛みを抑える薬

痛みは生命を守るために必要な感覚ですが、過剰な痛みや持続する痛みは生活に支障を与えてしまうため、痛み止めが必要となります。

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分けて見てきます。

侵害受容性疼痛を抑える薬

この痛みを抑える方法は2つあります。

1つ目の方法は、自由神経終末から脳に痛み刺激が伝わるまでの神経伝達(上行性痛覚伝導路)を弱めることです。

また、私たちは痛い時、脳から痛みを抑制するための神経伝達(下行性痛覚抑制系)も行われています。この下行性痛覚抑制系を強化するのが、2つ目の方法です。下行性痛覚抑制系はエンドルフィンやエンケファリンといった内因性オピオイドが中脳(水道周囲灰白質)に作用することで発動し、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を放出させ、脊髄後角にある受容体と結合することにより痛みを抑制します。

侵害受容性疼痛を抑える薬はこの2つのうちいずれかの作用を持っています。

なお、これらの経路にはエンドカンナビノイドシステムも密接に関与していますが、それについてはまた後述します。

痛みの経路
非オピオイド鎮痛薬
①N-SAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)

ロキソニンやボルタレン、セレコックスなどが該当します。

プロスタグランジンの産生を抑えることにより、抗炎症・鎮痛作用がみられます。

副作用には、胃潰瘍や腎障害などがあります。

そのため食後の服用が推奨され、長期服用の場合は胃薬と併用します。そして腎臓に問題のある人では使用を避ける必要があります。

②アセトアミノフェン

カロナールやアンヒバといった薬が該当します。作用機序は不明瞭ですが、中枢神経に作用することで解熱・鎮痛作用がみられると考えれています。

N-SAIDsと異なり、抗炎症作用はありません。

副作用として、肝障害がみられることがあります。

オピオイド

オピオイドとは、麻薬性鎮痛薬やその関連薬などの総称を言います。

私たちの脳や脊髄にはオピオイド受容体というものがあります。オピオイドはこの受容体に作用することにより、上行性痛覚伝導路を弱めたり、下行性痛覚抑制系を活性化したりすることで鎮痛効果をもたらします。

オピオイド受容体にはμ(ミュウ)、κ(カッパ)、δ(デルタ)があり、このうち最も鎮痛作用を有するのはμ受容体です。

①弱オピオイド

軽度から中等度の痛みに用いられます。

コデインやトラマドールといった薬が該当します。

コデイン(麻薬性オピオイド鎮痛薬)はモルヒネの約1/6〜1/10、トラマドール(非麻薬性オピオイド鎮痛薬)はモルヒネの約1/5の鎮痛作用があるとされています。

②強オピオイド

中等度から強度の痛みに対して用いられます。鎮痛作用に上限がなく、使えば使うほど鎮痛作用が得られます。

モルヒネ、オキシコドン(モルヒネの約1.5倍)、ヒドロモルフォン(モルヒネの約5倍)、フェンタニル(モルヒネの約50〜100倍)などがあります。

オピオイドの副作用

オピオイドの作用は痛みを抑制するだけではありません。例えば咳を止める作用もあり、オピオイドは鎮咳剤としても用いられます。

そして、オピオイドの作用はこのようなプラスになるものばかりではありません。

・中枢抑制作用

脳の働きを鎮めることにより、眠くなる(鎮静)作用がみられます。

また過剰投与すると脳の延髄にある呼吸中枢が抑制され、呼吸数が減り酸素が不十分な状態となってしまうリスクがあります(呼吸抑制)。

・悪心・嘔吐

延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)にあるμ受容体を刺激することにより生じます。

開始時や増薬時にみられ、数日〜1週間ほどで落ち着いてくる場合が多いです。

・便秘

腸管神経叢におけるアセチルコリンの遊離を抑制することで、腸の運動が弱まり生じます。

ほぼ全ての人に起こるため、はじめから下剤も一緒に処方されることが多いです。

オピオイドの依存性

麻薬ということで依存を心配される方がいるとは思いますが、痛みを抑制するために使用する分には依存性に問題はないと言われています。

オピオイドμ・δ受容体は依存を引き起こすような力がありますが、一方でκ受容体には依存を抑制する力があります。

痛みの強い状態ではκ受容体が強く働いている状況となり、オピオイドによりμ受容体やδ受容体が刺激されても、基本的に依存は生じません。

ただし痛みのない状態で服用してしまうと、κ受容体の働きが不十分であるため、身体・精神依存を生じる場合があります。

神経障害性疼痛を抑える薬

神経障害性疼痛に対しては、オピオイドや非オピオイド鎮痛薬の効果は乏しい傾向にあります。そのため、主に神経障害性疼痛治療薬や鎮痛補助薬が用いられます。

神経障害性疼痛治療薬

カルシウムチャネルに結合することでカルシウムイオンの流入を抑制し、グルタミン酸の遊離を抑制することで鎮痛作用がみられます。

プレガバリン(リリカ)とミロガバリン(タリージェ)が該当します。

鎮痛補助薬

主に痛みの緩和を目的とした薬ではないものの、鎮痛薬と併用することで鎮痛作用を高めることができる薬をいいます。

特に神経障害性疼痛に用いられることが多いです。

よく用いられるのは抗てんかん薬(バルプロ酸、カルバマゼピン、フェニトイン、クロナゼパム)と抗うつ薬(アミトリプチリン、デュロキセチン、フルボキサミン)です。

抗てんかん薬は神経細胞の興奮を鎮めることで鎮痛作用をもたらします。例えば、三叉神経痛に対してはよくカルバマゼピンが使用されます。

抗うつ薬(SNRI、SSRI)はセロトニンやノルアドレナリンの濃度を高めることにより下行性痛覚抑制系を活性化し、痛みを軽減します。特にサインバルタ(SNRI)がよく使用されます。

鎮痛補助薬には他にも抗不整脈薬(メキシレチン、リドカイン)、NMDA受容体拮抗薬(ケタミン)、副腎皮質ステロイド(ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン)、中枢性筋弛緩薬(バクロフェン)などがあります。

痛みを抑える薬の原則

がん性疼痛のようなずっと続く痛みに対しては、WHO(世界保健機関)が提唱する5つの原則に沿って鎮痛薬が使用されます。

①経口的に

服用・用量調節が容易で、薬の血中濃度も保ちやすいため、経口投与が望ましいとされています。

ただし状況に応じて座薬や注射、貼付薬なども用いられます。

②時刻を決めて規則正しく

痛いからといって薬を飲んでもすぐに作用するわけではありません。なので痛い時ではなく、時間を決めて定期的に飲むことで、はじめから強い痛みが生じないようにします。

③除痛ラダーにそって効力の順に

WHOが推奨する除痛ラダーは以下の通りです。

第一段階(軽度の痛み)
非オピオイド(N-SAIDs、アセトアミノフェン、鎮痛補助薬)

第二段階(軽度〜中等度の痛み)
弱オピオイド

第三段階(中等度〜強度の痛み)
強オピオイド

第一段階の薬は、第二段階以降も併用します。第二段階の薬で十分に鎮痛効果が得られない場合は、第二段階の薬(弱オピオイド)を中止し、第三段階の薬(強オピオイド)を使用します。つまり、弱オピオイドと強オピオイドの併用はないということです。

ただし突発的に痛みが増強する場合は、医師の指示通りであれば追加で鎮痛薬(レスキュー)を使用することが可能です。

④患者ごとの個別な量で

痛みの感じ方や鎮痛薬から得られる効果の程度は人それぞれです。人によっては副作用が強く出ることもあるため、まずは少量から開始して徐々に増量し、適量をみつけていきます。

⑤その上で細かい配慮を

鎮痛薬の作用や副作用について理解できるように働きかけます。症状や検査データなどをみながら副作用の徴候がないかを観察します。また、精神面にも配慮し、適宜対応します。

痛みを抑えるその他の方法

神経ブロック

神経やその周辺に薬剤(局所麻酔薬、ステロイドなど)を注入することで、痛みの伝達を抑制する治療です。

注射する場所は首や背骨など、痛みをやわらげたい場所により異なります。

椎間板ヘルニアや脊柱菅狭窄症などの脊椎・脊髄疾患や、オピオイドで十分な鎮痛効果を得られていない人、副作用により薬物療法が困難な人などで適応となります。

関節内注射

関節内にヒアルロン酸やステロイドを注射する治療です。炎症を抑制したり関節の動きを潤滑化することで痛みをやわらげます。変形性膝関節症や関節リウマチなどで適応となります。

鍼灸治療

症状や疾患に応じたツボに細い針を刺したり灸を施すことにより、鎮痛作用をもたらします。

肩こり、腰痛、関節痛、頭痛、神経障害性疼痛などの慢性疼痛に有効性が認められており、日本でもコントロール不良例に限り、いくつかの症状・疾患で保険適応が可能となっています。

運動療法(EIH)

適度な運動は慢性疼痛に有効と考えられています。運動中にけがをしたけど全く痛みを感じず、なぜか運動後落ち着いたら急に痛くなった、なんて経験をしたことはないでしょうか?

これは運動によりエンドルフィンやエンドカンナビノイドが放出されているために起こる現象です。適度な有酸素運動はこれらの神経伝達物質により下行性痛覚抑制系を活性化するだけでなく、精神面にもポジティブな影響を及ぼすことで、痛みに有効とされています。

痛みとCBD

CBD for pain

大麻草に含まれるCBD(カンナビジオール)は研究により様々な医療効果が認められてきており、その中には痛みを抑える作用も含まれています。

中でもCBDは神経障害性疼痛に対し有効性が示されることが多いです。他にも関節炎などの炎症性の慢性疼痛に有効である可能性があります。一方、手術後などの急性疼痛にはあまり効果がなさそうです。

痛みに対するCBDの研究はほとんどが動物を対象としたものであり、まだまだエビデンスは不十分となっています。

CBDによる臨床試験

痛みに対するCBD単体の臨床試験はほとんど行われていません。

2022年4月に公開された研究では、人口膝関節全置換術を受けた患者80名を対象とし、CBDの局所使用による鎮痛効果が検証されました。CBDオイル(19名)、精油のみ(21名)、CBDと精油を合わせたオイル(21名)、プラセボオイル(19名)に分け、それぞれ1日3回膝周囲に塗布した結果、痛みの程度は変わらず、有効性は認められませんでした。

2020年の研究では、末梢神経障害を有する患者29名のうち15名にCBD250mgを含有したオイルを、14名にプラセボオイルを4週間患部に塗布したところ、CBDオイル使用群において痛みとかゆみの改善が有意に認められました。

CBD単体ではありませんが、2020年の研究では、オピオイドを1年以上服用している慢性疼痛患者94名にCBDメインのソフトジェル(CBD15.7mg、THC0.5mg、CBDV0.3mg、CBDA0.9mg、CBC0.8mg、テルペン1%)を8週間服用してもらい、痛みの評価が行われました。94名のうち91名はソフトジェルを2粒/日(CBD約30mg/日)、1名は4粒/日(CBD約60mg/日)、1名は1粒/日(CBD約15mg/日)摂取していました。その結果参加者の53%がオピオイドの減量や中止を、94%がQOLの改善を報告しました。

また臨床試験ではありませんが、CBD使用者2409名に行ったアンケート調査では、使用理由として一番多かった症状は慢性疼痛で、二番目が関節痛でした。回答者の約35.8%がとても効果があると回答し、あまり効かないと回答した人は4.3%でした。

CBDによる前臨床試験

CBDによる前臨床試験は数多く行われています。研究により有効性は異なりますが、神経障害性疼痛、炎症性疼痛ではポジティブな結果が報告されていることが多いです。

急性疼痛(術後疼痛)

2017年の研究では、術後疼痛モデルマウスに対しCBDを投与したところ、痛みの改善が認められました。

炎症性疼痛

炎症の5徴(5つの徴候)として「疼痛、腫脹、熱感、発赤、機能障害」があることからも分かるように、炎症には痛みを伴います。

2004年の研究では、急性炎症モデルマウスにCBDを使用することにより、鎮痛作用と浮腫の改善が認められました。このことからも示されるように、CBDには抗炎症作用があることが明らかになってきています。

変形性関節症モデルでは、CBDの使用によりマウスにおいて抗炎症作用・鎮痛作用・運動量の改善が認められ、さらににおいても鎮痛作用と活動量の増加が認められました。

関節炎モデルマウスでは、CBDの経口・腹腔内投与により強力な抗炎症作用が認められ、経皮使用においても抗炎症作用・鎮痛作用が認められました。

これらのことから、変形性関節症や関節リウマチなど関節に炎症を起こす疾患において、CBDが有効である可能性があると言えます。

筋膜性疼痛モデルマウスに対しても、CBDの使用により痛みの感受性の低下が認められました。これは顎関節症や線維筋痛症といった慢性の筋肉痛を引き起こすような疾患に有効である可能性を意味しています。なおこの作用はCBDだけでなくCBN(カンナビノール)でも認められ、CBDとCBNを組み合わせることでより高い効果がみられたことも報告されています。

神経障害性疼痛

坐骨神経障害モデルマウスでは、2007年の研究においてCBDによる鎮痛作用が認められたことが報告されています。2020年の研究においては、オピオイドの摂取では1週間で耐性がみられたのに対し、CBD入りのゼラチンの摂取では耐性がつくことなく3週間に渡り鎮痛効果が認められました。

脊髄損傷モデルマウスにおける研究では、CBDを使用することにより運動機能や膀胱機能の改善はみられなかったものの、痛みの改善や抗炎症作用が認められました。

糖尿病性末梢神経障害モデルマウスでも、2010年および2019年の研究などにおいてCBDの有効性が報告されています。

さらにマウスの研究ではパクリタキセルオキサリプラチンシスプラチンといった抗がん剤による末梢神経障害に対し、CBDの有効性が示されています。

これらのことからCBDは坐骨神経痛、脊髄損傷や糖尿病による神経障害性疼痛、ある種の抗がん剤による末梢神経障害を緩和する可能性があると考えられます。

CBDが有効と考えられるメカニズム

慢性疼痛を中心とした様々な痛みに対し、CBDが有効である可能性があることが分かったと思います。では、CBDはどのようなメカニズムで痛みを緩和するのでしょうか?

CBDの作用機序は複雑で、まだ明確に解明されていません。ですが全く分かっていないわけでもありません。

CBDはエンドカンナビノイドシステムだけでなく、他の様々な受容体に作用することで痛みを緩和する可能性があります。

エンドカンナビノイドシステムへの作用

痛みとエンドカンナビノイドシステムの関係性をお話した後に、CBDがエンドカンナビノイドシステムに対しどのように作用して痛みを緩和する可能性があるのかをお話します。

痛みとエンドカンナビノイドシステム

痛みのメカニズムについて前述しましたが、このメカニズムにエンドカンナビノイドシステムも関与しており、痛みの調節を行っています。

CB1受容体は主に脳に存在し、中脳脊髄脊髄後角後根神経節三叉神経節といった痛みの経路のあらゆる場所にも存在します。

CB1受容体の活性化は抗侵害受容作用を示し、炎症性疼痛神経障害性疼痛などの改善も報告されています。

また2005年の研究では、下行性痛覚抑制系に重要な役割を果たす中脳と延髄にもCB1受容体が存在し、オピオイド受容体とともに鎮痛作用を媒介している可能性が示されています。

痛みの経路

CB2受容体は主に免疫細胞に存在しますが、炎症や神経障害が生じると、脊髄後根神経節などにおいて発現レベルが上昇することが明らかになっています。

主に後根神経節〜脊髄に出現したCB2受容体の活性化は、マウスにおいて抗侵害受容作用を示し、炎症性疼痛神経障害性疼痛の改善を認めています。

なお、がん性疼痛モデルマウスにおける研究では、CB1・CB2作動薬をマウスの足底部に投与することにより、それぞれモルヒネに匹敵する鎮痛効果が示され、これらの作動薬を同時投与することにより相乗効果が認められました。

私たちの体内では、カンナビノイド受容体を活性化するエンドカンナビノイドが作られています。主なエンドカンナビノイドであるアナンダミドと2-AGは、電気刺激を与えたラットにおいて中脳で、さらに神経障害性疼痛モデルにおいては神経後根節脊髄で増加が認められています。

ですがこれらのエンドカンナビノイドはすぐにFAAH(脂肪酸アミドヒドラーぜ)、MAGL(モノアシルグリセロールリパーゼ)といった酵素により分解されてしまいます。つまりこれらの酵素を阻害することは、体内にあるエンドカンナビノイドの量を増やすことで鎮痛に寄与するかもしれないということです。例えばFAAH阻害剤では炎症性疼痛神経障害性疼痛がん性疼痛変形性関節症モデルマウスにおいて、鎮痛作用が認められています。

2005年の研究では、中脳にFAAH阻害薬およびMAGL阻害薬を投与することにより、 それぞれにおいて下行性痛覚抑制系の増強が示されました。またFAAH・MAGLの二重阻害薬はFAAH阻害薬単独と比べ、神経障害性疼痛モデルマウスに対し優れた有効性や治療域を有することが示されました。

さらに、エンドカンナビノイドシステムはプラセボによる鎮痛効果にも関与していることが示されています。痛みに対するプラセボの効果は主にエンドルフィンによりもたらされていると考えられています。ですが2011年の研究では、オピオイド受容体の遮断で消失しなかったプラセボによる鎮痛効果が、CB1受容体の遮断により消失したことが報告されています。

CBDとエンドカンナビノイドシステム

CBDはCB1・CB2受容体に対し親和性が低く、CB1受容体に対してはネガティブ・アロステリック・モジュレーターとして、CB2受容体に対しては逆作動薬あるいは部分作動薬として作用すると考えられています。

CBDはアナンダミドの分解酵素であるFAAH(脂肪酸アミドヒドラーぜ)の阻害、あるいはそのトランスポーターであるFABP(脂肪酸結合タンパク質)に結合することでアナンダミドの再吸収を抑制し、体内のアナンダミドの量を増やす働きがあると考えられています。つまり結果として、間接的にCB1受容体を活性化する可能性もあるということになります。

よってカンナビノイド受容体作動薬ほどではないにしろ、痛みに対して有効性があると考えられます。

例えば最近のアメリカの論文では、シスプラチンにより誘発された末梢神経障害のアロディニアがCBDにより改善しましたが、この効果はCB1拮抗薬およびCB2拮抗薬により消失したことが報告されています。

また、CBDは第三のカンナビノイド受容体とも呼ばれることがあるGPR55受容体というオーファン受容体に対し、拮抗作用します。

2008年の研究では、炎症性疼痛・神経障害性疼痛モデルマウスにおいて、GPR55受容体を欠損させると痛みが認められなかったことから、CBDのGPR55受容体への拮抗作用が痛みに有効となる可能性が考えられます。

最近の研究では、中脳を含め脳にGPR55受容体が広く存在しており、実際に炎症性疼痛モデルマウスの中脳にGPR55受容体拮抗薬を投与した結果、下行性痛覚抑制系の増強による鎮痛作用が認められました。

他の受容体への作用

CBDはエンドカンナビノイドシステムだけでなく、他の受容体への作用を通して痛みを緩和する可能性も指摘されています。

TRPチャネル

TRPチャネルはイオンチャネル型受容体の1つです。温度感受性、痛み、味覚などの外部刺激のセンサーとして働くだけでなく、他にも様々な病気と関連性が指摘されています。

中でもTRPV1受容体(バニロイド受容体の1つ)は、唐辛子に含まれるカプサイシンや高温・低温に対し反応することで知られており、痛みを媒介しています。唐辛子を食べた時、あるいは熱いお湯に入った時に痛みを感じるのは、この受容体の存在で説明することができます。

CBDはTRPV1受容体に対し高い親和性を持ち、作動薬として働きます。これだけ聞くと「CBDは疼痛を増強させるのでは?」と思いますが、CBDはTRPV1を活性化することで最終的に作用することで脱感作(受容体の作用を低下)させることから、CBDがこの受容体を介して痛みを緩和している可能性について数多くの研究者が指摘しています。

実際に急性炎症坐骨神経痛神経損傷などのモデルにおいて、CBDがTRPV1受容体を介して鎮痛作用をもたらしたことが示されています。

なお、前述したようにCBDはアナンダミドの量を増加させますが、アナンダミドもTRPV1受容体と結合することで鎮痛作用をもたらすことが研究により示されています

オピオイド受容体

前述したようにモルヒネを始めとしたオピオイドは、オピオイド受容体(主にμ受容体)を活性化することで鎮痛作用を認めます。そしてこのオピオイド系にエンドカンナビノイドシステムが関与することが研究により示されています。

2008年の研究では、末梢におけるオピオイドμ受容体を介したモルヒネの鎮痛作用がCB1受容体拮抗薬により消失し、CB2受容体拮抗薬により部分的に消失しました。さらにFAAH阻害剤はモルヒネによる鎮痛作用を増強したことが報告されました。

2009年の研究では、中枢においてもオピオイドμ受容体を介したモルヒネの鎮痛作用がCB1受容体拮抗薬により消失し、FAAH阻害剤による鎮痛作用の増強も報告されました(CB2拮抗薬では影響はみられませんでした)。

また2005年の研究では、マウスの熱刺激による痛みがCB2受容体作動薬により緩和されましたが、この作用はエンドルフィンの放出を促進し、間接的にオピオイドμ受容体を活性化することにより認められたことが示されました。

これらのことから、エンドカンナビノイドシステムに作用するCBDもオピオイドの作用を増強する可能性があると考えられます。他にもCBDはシグマ1受容体というオーファン受容体に拮抗作用することで、モルヒネの作用を増強させたという研究もあります。

「CBDによる臨床試験」の項でも紹介したように、2020年の研究ではCBD使用によるオピオイドの減薬が報告されましたが、これにはCBDによるオピオイドの増強作用が関与していたのかもしれません。

さらに2006年の研究では、CBD自体がオピオイドμおよびδ受容体のアロステリックモジュレーターとして作用する可能性が示されています。

グリシン受容体

グリシンはGABA(γアミノ酪酸)と同様に、抑制性の神経伝達物質としての働きを持ちます。グリシン受容体は脳幹や脊髄に存在し、痛みの伝達を調節しており、主に慢性疼痛の治療ターゲットとして注目されています。

2009年の研究では、CBDはグリシン受容体に対し少量でポジティブ・アロステリックモジュレーターとして、高濃度で作動薬として作用することで、抗炎症作用・神経保護作用の一部を媒介している可能性が示されました。

2012年の研究では、CBDは炎症性・神経障害性疼痛モデルマウスに鎮痛作用をもたらしましたが、グリシン受容体を欠損させた状態では作用が減弱しました。なおこの研究では、カンナビノイド受容体欠損マウスでは鎮痛作用は減弱しなかったと報告されています。

セロトニン1A受容体

CBDは自己受容体であるセロトニン1A受容体に作用することで知られており、これにより抗うつ作用や抗不安作用がもたらされると考えられています。セロトニン1A受容体は精神面だけでなく、痛みにも関与します。

実際に神経損傷パクリタキセルによる末梢神経障害糖尿病性末梢神経障害モデルマウスにおいて、CBDの鎮痛作用がセロトニン1A受容体を介したものであることが示されています。

セロトニン1A受容体は活性化されると一時的にセロトニンの量が減少しますが、活性化し続けることで脱感作し、それに伴いセロトニンの量が増えていきます。

前述したようにセロトニンは下行性痛覚抑制系を媒介することから、CBDの反復投与が鎮痛作用をもたらす可能性は十分に考えられるでしょう。

T型カルシウムチャネル

神経障害性疼痛のメカニズムはまだ分かっていませんが、カルシウムチャネルの過剰発現が関与していると考えられています。最近公開された論文においては、慢性疼痛においてT型カルシウムチャネルが「キープレイヤー」であることが指摘されており、この受容体の阻害が有効であることが論じられています。

2006年の研究では、CBDがT型カルシウムイオンチャネルの阻害作用を有することが示されています。さらにCBDにより量が増えるアナンダミドも同じように阻害作用を有することが示されています。

これらのことから、CBDはT型カルシウムチャネルの阻害を通して慢性疼痛を緩和する可能性があると考えられます。

アデノシン受容体

アデノシンは私たちの体内で生成される化合物であり、血管拡張作用、神経伝達物質の調節、抗炎症作用などを働きを有しています。アデノシン受容体作動薬は上室性頻拍の治療薬として用いられており、一方でアデノシン受容体拮抗薬は喘息やパーキンソン病の治療薬として用いられています。

アデノシン受容体の活性化は、痛みの緩和においても注目されています。

2006年の研究では、CBDがアデノシンの再取り込みを阻害し、アデノシン受容体の働きを増強することで抗炎症作用を認めたことが報告されています。2014年の研究でも、脳にCBDを注入することによりアデノシンの再取り込みが阻害され、脳内のアデノシン濃度が上昇したことが報告されています。

つまりCBDは間接的にアデノシン受容体を活性化することにより、痛みを緩和する可能性があると考えられます。

痛みと医療用大麻

続いて現在の日本において違法となっている医療用大麻や、取り締まりの対象となりうるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の有効性についてお話していきます。

大麻には様々な医療効果があることが明らかになってきていますが、中でも特に有名なのが鎮痛作用です。

例えば2018年のアメリカの研究では、大麻を使用している成人のうち66%が疼痛管理を目的としていたことが報告されました。

同年のイスラエルの研究では、医療用大麻で治療中の65歳以上の患者2736名のうち、最も多かった適応症が痛み(66.6%)であったことが報告されました。

オピオイドの減薬や中止の報告も

オピオイドには高い鎮痛効果がありますが、使用量が増えれば増えるほど副作用が増え、リスクを伴います。

医療用大麻は多くの場合、オピオイドを含む鎮痛薬で十分に効果が認められない人々において有効性が認められ、これに伴いオピオイドの減薬や中止を報告した人々もいます。

前述した2018年のイスラエルの高齢者を対象とした研究においては、6ヶ月間医療用大麻を使用することにより93.7%で症状の改善が報告されましたが、痛みに関しては10段階中8だった痛みが4にまで減少したことが報告されました(数字が小さいほど痛みが緩和したことを意味します)。さらに18.1%でオピオイドの減薬あるいは中止が報告されました。

2022年1月の研究では、慢性疼痛によりオピオイドを服用中の患者115名が医療用大麻を使用したところ、オピオイドの使用量が平均して73.3%減少したことが報告されています。

2022年4月の研究でも、オピオイドを服用中の慢性疼痛患者115名が大麻由来医薬品を使用した結果、モルヒネの使用量が50%以上減少したことが報告されています。

痛みの種類ごとの有効性

急性疼痛と慢性疼痛に分けてお話していきます。さらに慢性疼痛では、痛みの原因ごとにもお話していきます。

医療用大麻もCBDと同様に、主に慢性疼痛(特に神経障害性疼痛)に有効である可能性が高いと考えられます。

急性疼痛

2006年の研究では、術後の疼痛管理にカンナドール(THCとCBDメインの大麻抽出物。THC:CBD=1:0.3-0.5)を使用したところ、用量依存的にその他の鎮痛剤と同等の鎮痛作用が認められたと報告されています。

ですが2003年の研究では、婦人科の手術を受けた女性40名に5mgのTHCを経口摂取してもらったところ、鎮痛作用は認められませんでした。

他にも2008年の研究では、日焼けによる急性炎症モデルの女性18名に大麻抽出物を使用してもらったところ、鎮痛作用は認められませんでした。

これらのことから、一部有効性を認めた研究はあるものの、術後疼痛などの急性疼痛においては、あまり有効性がないと考えるのが妥当かもしれません。

なお、2022年2月5月の研究では、手術前に大麻を使用していた人は非使用者と比べ術後の痛みが強く、オピオイドの使用量が増えたことが報告されています。

慢性疼痛

大麻の鎮痛作用として最も有効性が高いと考えられているのは、慢性疼痛です。

実際に2015年のシステマティックレビューでは、慢性疼痛に対する大麻(カンナビノイド)の効果は、中程度のエビデンスがあると結論づけられています。

2022年2月のオーストラリアの研究では、難治性の慢性疼痛患者151名にTHC:CBD=1:1のオイルを使用してもらった結果、1/3以上で痛みの緩和が認められたことが報告されています。難治性ということを考慮すると、これは高い効果であると考えることができるでしょう。

がん性疼痛

2010年の研究では、オピオイドを服用しても十分な鎮痛効果が認められないがん患者177名のうち60名にサティベックス(THC:CBD=1:1の口腔用スプレー)を、58名にTHCのみのスプレーを、59名にプラセボを2週間使用してもらった結果、サティベックスではプラセボと比較して2倍もの人で30%以上の鎮痛効果が認められたことが報告されました。なお、THCのみのスプレーでは有意差は認められませんでした。

さらにこのうち43名(サティベックス39名、THCスプレー4名)が長期使用(平均25日)による影響を評価するための研究に参加し、その結果、使用量が増えることもなければ鎮痛効果が弱まることもなく、忍容性も良好であったことが報告されました。

ですが残念ながら、がん性疼痛に対するサティベックスの効果を検証した第三相試験では、有効性が示されませんでした。

最近の研究では、医療用大麻による治療を開始したがん患者を6ヶ月間フォローアップ(研究開始時の参加者324名、6ヶ月後まで参加したのは126名)した結果、程度こそ大きくなかったものの、50%以上の人が痛みの改善を報告しました。さらにもともと医療用大麻の使用開始時にオピオイドを含むその他の鎮痛剤を服用していた74名のうち、40%(30名)が鎮痛剤の服用を中止したことも明らかとなりました。

神経障害性疼痛

慢性神経障害性疼痛に対する医療用大麻・大麻由来医薬品・合成カンナビノイドによる有効性を検証した2018年のシステマティックレビューでは、大麻由来医薬品の使用により50%以上の疼痛緩和を報告する人の割合が増える可能性があると述べられています。

2014年の研究では、アロディニアを伴う末梢神経障害性疼痛を有する患者に対しサティベックスを128名に、プラセボを118名に標準治療に加えて15週間使用してもらったところ、サティベックスに有意な鎮痛効果が認められました。さらに38週間のフォローアップにより、特に使用量が増えることもなく、時間経過とともに30%以上の疼痛緩和を報告する人の割合が増え、忍容性が高いことが示されました。

大麻由来医薬品は他にも多発性硬化症HIV化学療法による末梢神経障害など、様々な神経障害性疼痛に対し有効性が報告されています。

大麻自体の使用においても、治療抵抗性の神経障害性疼痛糖尿病性末梢神経障害などにおいて有効性が示されています。

2016年の研究では、脊髄損傷などの中枢神経障害性疼痛患者42名に対しTHCを含む大麻を喫煙してもらったところ、プラセボと比較して有意に疼痛が改善しただけでなく、血漿中のカンナビノイド濃度が低下するほど痛みが増強したことも報告されました。

前臨床試験においても、パクリタキセル・ビンクリスチン・オキサリプラチンシスプラチンといった化学療法による末梢神経障害、坐骨神経痛三叉神経痛モデルなどにおいて、THCを含んだカンナビノイドの有効性が示されています。

炎症性疼痛
腹痛

2017年の研究では、手術後あるいは慢性膵炎のために3ヶ月以上慢性腹痛を有する患者65名に対し、THCの錠剤(最大8mgを1日に3回)を50〜52日服用してもらいましたが、プラセボと比較して有意差は認められず、有効性が示されませんでした。

2022年3月の研究では、炎症性腸疾患(IBD)モデルマウスの内臓痛が鍼治療により緩和しましたが、この鎮痛・抗炎症作用にCB2受容体が関与していたことが示されています。

腰痛

腰痛に対する大麻の有効性を検証した2022年2月のシステマティックレビューでは、それぞれの症例において鎮痛作用が報告されているものの、エビデンスレベルは低いと述べられています。

同年1月の研究では、医療用大麻のライセンスを有する慢性腰痛患者186名に対しアンケートを実施した結果、オピオイドの処方量減少や、痛みや障害のスコアの改善が認められていたことが報告されました。

2019年の研究では、腰痛を有する線維筋痛症患者31名が3ヶ月間オピオイドや鎮痛補助薬による標準鎮痛療法を受けた後、6ヶ月間医療用大麻による加療を受けた結果、標準治療に比べ医療用大麻は腰の可動域を改善させ、高いアウトカムをもたらしたことが報告されています。

リウマチ疾患・変形性関節症

リウマチ性疾患(線維筋痛症、関節リウマチ、腰痛、変形性関節症)の慢性疼痛に対するカンナビノイドの有効性を検証した2016年のシステマティックレビューでは、有効性を認める研究はあるものの、まだエビデンスは不十分であると結論づけられています。

2022年1月の研究では、変形性関節症患者40名に6ヶ月間医療用大麻を使用してもらった結果、オピオイドの処方量が減少し、痛みやQOLのスコアにおいても有意に改善が認められました。

2006年の研究では、関節リウマチ患者58名のうち31名にサティベックスを、27名にプラセボを5週間使用してもらった結果、サティベックス使用群で安静時・動作時の痛みのスコアや睡眠の質の有意な改善が認められました。

2007年の研究では、線維筋痛症患者40名がナビロン(合成THC製剤)を使用した結果、プラセボと比較し痛みやQOLに有意な改善が認められたことが報告されました。

2021年の研究では、リウマチ専門クリニックに通院する医療用大麻使用者319名(82%が線維筋痛症)のうち約8割で痛みや睡眠の改善が報告されました。

様々な成分が痛みを抑える

大麻草には100種類を超えるカンナビノイドが含有されています。CBDは大麻草に含まれる主なカンナビノイドであり、CBDが鎮痛作用を有する可能性についてはすでにお話しました。

さらに主なカンナビノイドであるTHCCB1・CB2受容体の部分作動薬であり、これらの活性化が鎮痛作用をもたらすことは前述の通りです。

CBC(カンナビクロメン)も主要なカンナビノイドの1つであり、特にCB2受容体に高い親和性を有することが報告されています。1981年の研究では、CBCは炎症性疼痛モデルマウスにおいてN-SAIDsよりも高い抗炎症作用を示しました。さらに2011年の研究では、下行性痛覚抑制系を増強することも示されています。

CBN(カンナビノール)CB1・CB2受容体に対しTHCより低い親和性を有しており、2019年の研究では顎関節症や線維筋痛症などの慢性筋肉痛を緩和する可能性が示されています。

酸性カンナビノイドであるCBDA(カンナビジオール酸)も、炎症性疼痛モデルのマウスに対し鎮痛効果を示しています

また大麻草にはカンナビノイドだけでなく、テルペンも豊富に含まれています。このうちβカリオフィレンミルセンαピネンカンフェン、αビサボロールなどで痛みを緩和する可能性が示されています。

カンナビノイドのいくつかはそれぞれ単体で鎮痛作用が報告されていますが、これらの成分は一緒に摂取することでより高い効果(アントラージュ効果)が認められると言われています。さきほどCBDの項でも、筋膜性疼痛モデルのマウスにおいてCBDとCBNの組み合わせにより高い鎮痛効果が認められたことについて触れました。

他にも2017年の研究では、神経障害性疼痛モデルマウスに対しCBDもTHCもそれぞれ鎮痛作用を認めましたが、それらを低用量で併用することにより約200倍の鎮痛効果が示されたことが報告されています。

またカンナビノイド同士だけでなく、カンナビノイドとテルペンの併用もアントラージュ効果をもたらすことが分かってきています。

つまり、カンナビノイドやテルペンをそれぞれ単体で使用するよりも、大麻草そのもの(全草)あるいは全草抽出物を使用したほうが高い鎮痛効果が認められる可能性が高いと考えることができます。

まとめ

痛みやCBD・医療用大麻の鎮痛効果についてお話してきました。

まとめると

・痛みを抑えるには上行性痛覚伝導路を抑制するか、下行性痛覚抑制系を活性化する必要がある。

・最も強い鎮痛薬はオピオイドだが、神経障害性疼痛には有効でない。

・CBDと医療用大麻は上行性痛覚伝導路・下行性痛覚抑制系両方に作用することが示されている。

・CBDと医療用大麻は慢性疼痛(特に神経障害性疼痛)に有効である可能性が高い。

・CBDと医療用大麻がオピオイドの減量に貢献した報告がある。

・CBD単体よりも大麻そのものや全草抽出物を使用したほうが、高い鎮痛効果が認められる可能性が高い。

「色んな痛み止めがあるし、別に医療用大麻なんて必要ないのでは?」という声があるかもしれません。ですがみんなが同じように薬で鎮痛効果が認められるとは限りません。例えばお酒でも人によってすぐ酔う人もいれば、いくら飲んでも酔わない人だっているのですから。何でも人によって効き方は様々です。つまり既存の痛み止めが効かなくても、大麻なら効くという人は一定数存在する可能性があるということです。

また、痛みがあれば当然辛いですよね。特に慢性疼痛では「いつまでこの痛みと付き合っていくんだろう」といった不安がつきまといます。痛みがあれば寝るのも大変になりますし、ストレスはどんどん蓄積してきます。

最近の研究では、イギリスで慢性疼痛のためにカンナビノイド製品の使用を求めた949名を調査したところ、ほとんどの人で併存疾患があり、QOLが低下していたことが報告されました。併存疾患として多かったのは不安・うつ病・不眠症・ストレスなどでした。

医療用大麻は不安やうつ病、不眠症に対しても有効性が示されています。もしかしたら医療用大麻の最大の恩恵は鎮痛効果ではなく、痛みがある中でも幸せに生きていきたいという人々の想いを満たすことなのではないかと、筆者は思います。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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