うつ病のイラスト

うつ病

うつ病とCBD・医療用大麻

我が国において、うつ病の人がどれくらいいるのかご存知でしょうか?

経済協力開発機構(OECD)のメンタルヘルスに関する国勢調査によると、2013年時点では、国民の7.9%がうつ病あるいは抑うつ状態であることが分かりました。

しかし新型コロナウイルスが流行した2020年。その数値は17.3%にも跳ね上がっています。

2020年の日本の人口は約1億2千万人ですので、約200万人が当てはまることになります。

もはやうつ病は決して他人事ではない病気です。

そんなうつ病の治療や予防として、海外ではCBD(カンナビジオール)の有用性が明らかになってきています。

この記事では、うつ病の基礎知識、うつ病に対するCBDや医療用大麻の治療効果について、お話していきます。

目次

うつ病とは

うつ病とは、「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」を基本症状とした病気です。

一生のうちにうつ病になる確率は5〜15%で、患者数は男性より女性のほうが約2倍多いとされています。

治療してもすぐに治るということはなく、薬物療法でも改善には約3ヶ月かかります。

初めてうつ病と診断された人の再発率は50〜60%で、特に症状改善後の半年間はその確率が高いとされています。

そして再発する回数が多くなるほど、より再発率は高くなっていきます。

このように、うつ病は長期にわたり付き合っていく可能性のある病気です。

うつ病の種類

・単極性うつ病(大うつ病)

典型的なうつ病であり、抑うつ症状のみみられるもの。
マジメできちんしたタイプの人、周囲に気を使いすぎる人に発症しやすい。

・持続性抑うつ障害(気分変調症)

うつ状態は軽いが、それが少なくとも2年以上続いているもの。

・双極性障害(躁うつ病)

躁状態(テンションが高い状態)と抑うつ症状の両方の側面を持つもの。
リーダーシップを発揮するような活気あふれる人に発症しやすい。

他にも産後うつ病、季節性うつ病、非定形うつ病、仮面うつ病などがある。

うつ病の原因

まだ完全な原因は明らかになっていません。

もともとうつ病になりやすい遺伝的要素のある人に、精神的ストレスや身体的要因が加わることで発症すると考えられています。

精神的ストレス
・家族や友人との死別
・人間関係がうまくいかない
・結婚や就職などの伏し目
・離婚
・引っ越しや転職などの環境の変化

身体的要因
・がん、脳血管疾患、感染症、甲状腺疾患など
・慢性的な疲労
・月経前や出産後、更年期などのホルモンの変化
・ステロイドや降圧薬の内服 

うつ病になりやすい性格としては、メランコリー親和性性格が有名です。

メランコリー親和性性格
・秩序を重んじる、保守的
・他人に気をつかい、過度に良心的
・頼まれると嫌とはいえない
・マジメで正直
・仕事熱心
・消極的で小心
・身近な人にだけわがまま

うつ病のメカニズム

うつ病は心の病気と考えられがちですが、正しくは神経の病気と言えます。

うつ病のメカニズムとして、現時点で4つの仮説が存在しています。

モノアミン仮説

モノアミンが不足することによって発症するという説です。

モノアミンとは、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンなどの神経伝達物質の総称です。うつ病においては、特にノルアドレナリンとセロトニンの減少が指摘されています。

セロトニンはこころを安定させるために働く物質です。「幸せホルモン」とも呼ばれたりします。

平常心を保つだけでなく、ノルアドレナリンなどの他の神経伝達物質の量を調整する働きもあります。

また、自然な眠りを誘発するメラトニンというホルモンは、セロトニンをもとに生成されています。

ノルアドレナリンは猛獣と出会った時、「戦うか、逃げるか」を即座に判断するための物質と言われています。集中力、判断力、身体能力を高める作用があります。行動意欲にも大きく関わっています。

この2つのモノアミンを補うのが、現在主流となっているSNRIやSSRI、NaSSAといった抗うつ薬です。

しかし、これらの薬は治療効果がでるまでに時間がかかることから、モノアミン仮説だけでうつ病のメカニズムを完結することができません。

また、そもそもなぜモノアミンが不足するのかも明らかになっていません。

コルチゾール仮説

コルチゾールとは、主にストレス反応からからだを守るためのホルモンで、副腎皮質から分泌されます。炎症を抑えたり、エネルギー源となる糖分を生み出すなどの働きもあります。

人はストレスを感じると、脳からホルモンが放出され、それに応じて副腎からコルチゾールが分泌され、ストレスに対応してくれます。

コルチゾールはからだを守るために働くホルモンではありますが、一方で毒性もある物質です。そのためコルチゾールの分泌が過剰であれば、脳はその分泌量を抑えるようにホルモンを調節します。

このように、脳と副腎がホルモンで情報のやりとりをすることで、コルチゾールの量はコントロールされています。

ストレスにさらされ続けると、このコントロールは失われ、コルチゾールが脳に悪さをするようになります。

これにより神経細胞の新生が阻害され、脳の海馬が小さくなり、うつ病が発症しているのではないか、というのがコルチゾール仮説です。

※海馬とは

大脳の内側に存在する大脳辺縁系の1つ。記憶の形成に重要な働きを持ち、ニューロンの新生も行われる。
大脳辺縁系は情動・本能・記憶に関わる古い脳と言われている。

BDNF仮説

BDNF(脳由来神経栄養因子)とは、神経細胞の新生、発達、維持、再生といった働きをもつタンパク質(サイトカイン)です。

BDNF仮説とは、BDNFが減少し、神経細胞が萎縮することによってうつ病を発症しているのではないかという考えです。

BDNFは加齢とともに減少すると言われており、アルツハイマー型認知症でも減少が認められています。

うつ病でも海馬におけるBDNFの量が減少していることが明らかになっています。さらに抗うつ薬により病状がよくなるにつれ、BDNFの量が改善することも分かっています。

うつ病におけるBDNF減少の原因としては、コルチゾールの分泌が過剰となっていることが考えられています。

神経炎症仮説

脳に炎症が起きることにより、うつ病を発症するという仮説です。

うつ病の人では、炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNFαなど)や免疫細胞の上昇が認められることから、炎症とうつ病の間には何かしら関連があると指摘され続けていました。

病気やストレスによりサイトカインが増加した状態が続くと、脳内でもミクログリア細胞が炎症反応を起こします。この炎症反応が、脳の情動を支配する部分にダメージを与えることで、抑うつ症状がみられているのではないかと考えられています。

※ミクログリア細胞とは

ニューロン(神経細胞)の支持・保護の役割をもつグリア細胞の1つ。変性したニューロンや死骸を取り込んだり、免疫細胞としてサイトカインの分泌や抗原掲示も行う。BDNFの放出も行っている。

これら4つの仮説は単独で成立せず、それぞれ関係し合うことでうつ病を発症していると考えることができます。

仮説に基づくうつ病のメカニズム

うつ病の症状

基本症状は「抑うつ気分」と「興味・喜びの喪失」です。

精神症状
・気分障害:抑うつ気分(特に朝)、興味を持てない
・意欲障害:おっくうになる、とじこもる、自殺したくなる、無口になる
・思考障害:決断力がない、頭が働かない、悲観的になる

幻覚や妄想がみられることもあり、特に微小妄想が多いとされています。

微小妄想とは、自分を過剰に過小評価する妄想で、代表的なものに以下の3つの妄想があります。

・貧困妄想:実際は金銭的に問題がないにもかかわらず「お金がないのでご飯はいらない」と訴える。
・罪業妄想:実際は何もしていないのに「罪を犯してしまったので、警察に捕まるかもしれない」と訴える。
・心気妄想:特に大きな病気はないのに「重大な病気にかかってしまった」と訴える。

うつ病では精神症状に伴い、身体症状もみられます。

身体症状
・睡眠障害:不眠、過眠
・生体リズム障害:朝の調子が悪い
・消化器症状:食欲がなくなる、下痢、味覚障害、口渇
・性欲障害:月経不順、性欲減退
・その他:頭重、体重減少

高齢者では、頭痛、肩こり、腰痛、動悸、めまい、頻尿、下痢、便秘といった症状も現れやすいです。

うつ病の診断

診断は病歴や症状を入念に聴取することで行われます。

DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)やICD-10(国際疾病分類)といった診断基準がよく用いられます。

ここではDSM-5をとりあげます。

以下の症状が2週間以上にわたって、ほとんど毎日、一日中続く。

必須症状

①抑うつ気分(気持ちの沈み、悲しい気持ち)
②興味または喜びの消失(何をしても楽しめない)

その他の症状

③食欲の低下(あるいは亢進)や、体重の減少(あるいは増加)
④不眠あるいは過眠
⑤喋りや動きがゆっくりになったり、じっとしていられない
⑥疲れやすく、気力がない
⑦自分に価値を感じなかったり、自分を責めてしまう
⑧思考力や集中力、または決断力の低下
⑨自分を傷つけたり、自殺を考える

・必須症状が少なくとも1つある。
・その他の症状と合わせて5つ以上当てはまる場合、うつ病が疑われる。

うつ病の治療

うつ病の治療は、「休養」「薬物療法」「精神療法」の3本柱で行われます。

軽度のうつ病に対しては、休養や精神療法のみで対応することが多いです。

薬物療法

中等度から重度のうつ病に対して行われます。場合によっては軽症のうつ病でも使用されます。

第一選択薬はSSRI、SNRI、NaSSAで、重症例では三環系抗うつ薬も使用されます。

それでも効果がなければ、気分安定薬や非定型抗精神病薬なども併用されます。

抗うつ薬は効果発現まで時間を要するため、治療開始時にはベンゾジアゼピン系抗不安薬が併用されることが多いです。

抗うつ薬によって病状が改善したとしても、すぐに内服を中断したり減薬すると、再発率が高くなると言われています。

そのため、米国精神医学会(APA)ガイドラインでは、4〜9ヶ月程度は病状が改善した量でそのまま飲み続けるべきだとされています。

その後も減薬はするものの、2年以上に渡り内服を続けることが推奨されています。

では、主な抗うつ薬についてみていきます。

三環系抗うつ薬

はじめに登場した抗うつ薬です。意欲の向上、抑うつ改善、不安の解決・鎮静といった作用を持ちます。

作用が安定しており、抗うつ薬の中で最も治療効果が高いです。ですが、様々な受容体に作用することもあり、しばしば副作用が問題となっています。

特に抗コリン作用による副作用が有名で、喉の乾き、便秘、頻脈、尿がだせなくなるなどの症状がみられることがあります。

そのため、緑内障や前立腺肥大といった病気のある人では禁忌となっています。

他にも起立性低血圧やめまいなどの副作用が生じることもあります。

商品名:トリプタノール、トフラニール、アモキサンなど

※抗コリン作用とは

アセチルコリンの働きを阻害する作用。アセチルコリンは、副交感神経や筋肉の収縮を促進する働きをもつ神経伝達物質。

四環系抗うつ薬

三環系抗うつ薬の副作用である抗コリン作用を軽減するために作られた抗うつ薬です。

三環系抗うつ薬よりも作用は弱いですが、安定した作用をもっています。

ただし、抗ヒスタミン作用による眠気の副作用が多くみられます。

商品名:テトラミド、テシプールなど

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニンの量を増やす薬です。

三環系・四環系抗うつ薬は、うつ病とはあまり関係のない神経伝達物質の働きにも影響するため、副作用が多く出現していました。

それに対しSSRIはセロトニンに限定し作用するため、抗うつ作用は弱くなったものの、副作用の発現頻度は少なくなりました。

SSRIは特に不安・焦燥の強い人に有効と言われています。

効果発現までは早くても2週間はかかります。なので治療開始時にはベンゾジアゼピン系抗不安薬を併用することが多いです。

主な副作用は、嘔吐・吐き気・食欲低下で、内服開始1週間以内にみられます。これは腸管にあるセロトニン受容体にも作用してしまうために起こります。
性機能障害もみられることがあります。

重篤な副作用として、セロトニン症候群があります。セロトニンの量が中毒域を超えることにより、下痢・発汗・ふるえといった身体症状や、不安や焦燥・混乱といった精神症状が生じます。

また、アクチベーション症候群にも気をつける必要があります。

アクチベーション症候群とは、内服開始や増量時に、不安・焦燥・パニック・不眠・衝動性・攻撃性・じっとしていられない・自傷・自殺行動などの症状が一過性にみられることです。

アクチベーション症候群やセロトニン症候群が見られた際には、医師の指示のもと、ただちに内服を減薬・中止します。

SSRIは、急に服用を中断すると、めまい・不眠・吐き気・頭痛・不安・焦燥といった離脱症状が出現します。

そのため内服を中断するためには、徐々に減薬していく必要があります。

商品名:デプロメール、パキシル、ジェイゾロフト、レクサプロなど

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)

セロトニンに加え、ノルアドレナリンの量を増やす働きがあります。

特に意欲低下が著しい人に効果があります。

SSRIよりも効果発現が早い傾向があります。

セロトニン上昇による副作用に加え、ノルアドレナリン上昇による動悸や血圧上昇、排尿障害といった副作用がみられることがあります。

商品名:トレドミン、サインバルタ、イフェクサーSRなど

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

SNRIやSSRIとは違う機序で、セロトニンとノルアドレナリンの量を増やす抗うつ薬です。

効果発現は他の薬剤の中でも早く、投与1週間後よりみられることもありますが、効果が安定するまでには半年は必要だと考えられています。

NaSSAはSNRIで副作用が生じた場合の代替薬として、あるいはSNRIと併用して使われることもあります。

副作用としては、眠気が強く出やすいです。

商品名:リフレックス、レメロンなど

精神療法

対人関係療法や認知行動療法が有効とされています。

認知行動療法とは、うつ病の人がもつ偏った考え方を、精神的に楽にとらえられるように変えていくことで、気分の改善を図る精神療法です。

例えばメールの返信がない場合に、「相手に嫌われているんじゃないか」と考えてしまうところを、「きっと相手は忙しいんだろう」と考えるように転換していきます。

電気刺激療法(ECT)

頭部に電気を通電させることで、全身けいれんを引き起こし、精神症状の改善を図る治療法です。

安全性のため、静脈麻酔や筋弛緩薬を使用した状態で行われます。

自殺企図が切迫している人、あるいは抗うつ薬を使用しても改善がみられない人が治療の対象となります。

その他にも高照度光療法や経頭蓋磁気刺激法(TMS)といった治療があります。

うつ病とCBD

CBD for Depression

いくつかの研究により、CBDがうつ病に対し治療効果があることが示されています。

現在主流となっている抗うつ薬は、モノアミン仮説に基づいたものがほとんどですが、CBDは多面的なアプローチで抗うつ作用をもたらすことが期待されています。

なによりもCBDは抗うつ薬とは異なり、大きな副作用がみられず、離脱症状がないのも大きな利点となります。

複雑な作用を持つCBDですが、ここでは3つの側面から、うつ病に対する治療効果をみていきます。

エンドカンナビノイドシステム(ECS)から考えてみる

CBDの作用において最も大切なのが、エンドカンナビノイドシステムの活性化です。

エンドカンナビノイドはカンナビノイド受容体(CB1CB2)に働きかけることで、ホメオスタシスを維持するための神経伝達物質です。

エンドカンナビノイドには様々なものがありますが、生理的作用が認められているのは、主にアナンダミドと2-AGです。

エンドカンナビノイドは、仕事をしたらすぐに酵素により分解されてしまうという特徴があります。

CBDはこの分解酵素を阻害することで、体内のエンドカンナビノイドの量を増やす働きがあります。

このようにしてCBDはカンナビノイド受容体に間接的に働きかけることにより、様々な医療効果をもたらしてくれます。

では、まずはエンドカンナビノイドについてみていきましょう。

2012年の研究では、強制水泳試験(うつ病様行動の観察、抗うつ薬の効果測定に用いられる動物モデルの試験)を実施したところ、前頭前野においてアナンダミドの量が急速かつ劇的に減少することが分かりました。

つまりストレスがかかると、それに対応しようとアナンダミドがそれだけ利用されるということを意味しています。

2014年の研究では、マウスから2-AGの合成酵素を取り除くことにより、扁桃体においてエンドカンナビノイドの伝達障害が生じ、不安・無気力が出現しました。2-AGの量を元に戻すと、精神症状が回復したと報告されています。

よって2-AGも、うつ病の発症に関係していると言えます。

これらのことから、エンドカンナビノイドの量を増やすCBDが、うつ病に対して何らかの治療効果があると考えることができると思います。

※扁桃体とは

大脳の内側に存在する大脳辺縁系の1つ。外部の感覚情報から有害・有益、快・不快を判断し、からだに感情的な反応を引き起こす。飲食や性行動といった本能の制御にも関わっている。

続いてカンナビノイド受容体についてみていきましょう。

CB1受容体は、主に脳に存在し、あらゆることをコントロールしています。

食欲や体重増加にも関与していることから、かつて、肥満治療のために「リモナバント」というCB1受容体の働きを抑える薬が開発されました。

リモナバントは確かに体重減少や脂質の代謝改善に有効でした。ですがその一方で、不安や抑うつ気分を引き起こすという問題が生じました。

2010年の研究では、血管疾患を持つあるいはそのリスクの高い18695人の患者を対象とし、リモナバント20mgを投与することで、脳卒中・心筋梗塞の発症率が抑えられるのかを検証しました。

ですがこの研究は1年で打ち切られることとなります。

その理由は、リモナバントを投与した9381人のうち、精神神経系の副作用が3028人(32%)、重篤な精神的副作用が232人(2.5%) にみられ、4名の自殺者がでてしまったからです。

これらの経過により、リモナバントは市場から撤退することになりました。

2007年の研究では、強制水泳試験において、CB1受容体を活性化することにより抑うつ効果がみられ、リモナバントを使用することによりその効果が消失したことが報告されています。

これらのことから、CB1受容体が情動のコントロールに重要な役割を担っているのが分かります。

CBDはエンドカンナビノイドを介してCB1受容体を活性化するので、うつ病に対しポジティブな効果があると期待できます。

セロトニンから考えてみる

うつ病はセロトニンやノルアドレナリンといったモノアミンの不足により生じていると考えられており、現在のうつ病に対する薬物療法も、ここに焦点が置かれているものがほとんどです。

セロトニンは神経伝達物質なので、受容体と結合することで生理作用をもたらします。

セロトニン受容体には様々なものがありますが、その中の1つであるセロトニン1A受容体は、刺激されることで抗うつ作用・抗不安作用をもたらすことが知られています。

それを利用した代表的な薬が、タンドスピロンという抗不安薬です。

2005年の研究により、CBDはセロトニン1A受容体の作動薬であることが判明しています。

2009年の研究では、強制水泳試験において、CBDを投与することにより抑うつ効果がみられますが、これにはセロトニン1A受容体が関与していることが指摘されています。

2012年の研究では、強制水泳試験において、FAAH(アナンダミドの分解酵素)の働きを阻害する薬を投与することにより、セロトニンの伝導が活性化し、抑うつ作用がみられたことが報告されています。

CBDもFAAH阻害剤の1つですので、同様の効果を持っていると考えることができます。

以上のことから、CBDはセロトニン受容体への直接的作用、そしてセロトニン伝導の活性化により、抑うつ効果をもたらすのではないかと考えられます。

神経から考えてみる

うつ病においては、海馬におけるBDNFの量が減少し、萎縮がみられていることが分かっています。

前述の仮説を考慮すると、この神経変性の原因として、高コルチゾール血症(コルチゾールコントロール不良)・脳の炎症(サイトカインの上昇)があるといえます。

つまりこれらの原因を取り除くこと、そして神経の回復はうつ病の改善に直結してくると考えることができます。

コルチゾールのコントロールを取り戻す

2011年の論文では、エンドカンナビノイドシステムがコルチゾールのコントロール維持に密接に関係していることが指摘されています。

2014年の論文では、CB1受容体を刺激することにより、コルチゾール調節機能の暴走を抑えることができると示されています。

また、セロトニン1A受容体もコルチゾールのコントロールに関係しており、CBDがこの受容体に作用するというのは前述のとおりです。

これらのことから、CBDによりコルチゾールのコントロールが適正化され、神経へのダメージを防ぐことができると考えられます。

サイトカインを抑える

2019年の論文によると、CBDはバニロイド受容体、PPARγ受容体、GPR受容体、アデノシン受容体といったさまざまな受容体に作用および拮抗作用することにより、サイトカインの放出を抑制し、抗炎症作用をもたらすことが示されています。

2018年の研究では、アナンダミドがIL-6,IL-8,TNF-αといったサイトカインの放出を抑制することが明らかになりました。CBDがアナンダミドの量を増やしてくれるというのは、前述のとおりです。

2015年の研究では、マウスのCB2受容体を活性化することにより、ミクログリア細胞の活性が減弱し、抗炎症作用がもたらされることが分かりました。

このようにCBDは各種受容体やECSを介してサイトカインの放出を抑制することにより、神経を保護してくれると考えることができます。

神経新生を促進する

2005年の研究において、エンドカンナビノイドシステムの活性化が神経前駆細胞の増殖を促進することが明らかになっています。

つまり、CBDは神経新生を促進する物質であるということになります。

2013年の研究では、14日間ストレスを受けたマウスに対し、CBDを投与したところ、不安の誘発を抑制するとともに、海馬におけるアナンダミドが増量し、前駆細胞の増殖と神経新生の促進が認められたと報告しています。

なお、CB1受容体拮抗薬を使うことにより、この作用は阻害されたといいます。

2019年の研究では、強制水泳試験において、CBD(7〜30md/kg)を投与することにより、急速(投与30分後)かつ持続的(7日間)に、抗うつ作用がみられました。

急性の抗うつ効果がみられた時には、前頭前皮質と海馬におけるBDNF値の上昇が認められたと報告しています。

これらの研究から、CBDは神経新生も促進し、結果として抗うつ効果をもたらすのではないかと考えられます。

大きく3つの視点からうつ病に対するCBDの有効性についてみてきました。

全てを統合し、うつ病発症までのメカニズムを改めてみてみると、下図のようになります。

そしてうつ病に対するCBDの治療効果を図で整理すると、以下のようになります。

仮説に基づくうつ病のメカニズム(ECS追加)
うつ病に対するCBDの治療効果(仮説)

ただし、これまで行われてきた研究の大半が動物を対象にしたものです。人に対してCBDを使用した研究はほとんどなく、まだ明確なエビデンスは確立していません。

今後の研究に期待しましょう。

うつ病と医療用大麻

現在日本で大麻は違法となっており、精神活性作用を持つカンナビノイドであるTHC(テトラヒドロカンナビノール)も、取り締まりの対象となりうるものとなっています。

うつ病に対しての治療効果は研究により結果にばらつきがあり、まだ結論は出ていません。

2016年のアメリカの研究では、医療用大麻使用者1429人の利用目的を調査したところ、多かったのは疼痛(61.2%)、不安(58.1%)、うつ病(50.3%)、頭痛/片頭痛(35.5%)、吐き気(27.4%)および筋痙縮(18.4%)でした。

そのうち平均して86%で症状が軽減し、処方薬の代替品として医療用大麻を使用していると報告しています。

2019年のメタ分析では、医療用大麻を使用する理由として、疼痛(64%)、不安(50%)、抑うつ気分(34%)が一般的であることが示されています。

2009年のメタ分析 では、精神疾患のある人が大麻を吸う理由として多かったのは、ポジティブな感情の増加、不快感の緩和、社会的つながりの増強であることが分かりました。

筆者がチームで行っている聞き取り調査でも、大麻を使用することによりうつ症状の改善がみられたり、自殺を思いとどまることができたというエピソードが複数みられています。

うつ病に対する治療効果のエビデンスは確立していないものの、自己治療として医療用大麻を使用している人は多く、実際に改善したという声も聞かれていることが分かります。

ただし、大麻の使用はうつ病発症や自殺を誘発する原因になりうると指摘している論文もいくつか存在します。

一方で、これらは相関しないという論文もみられており、こちらも結論がでていない状況です。

ただし、未成年が大麻を使用することにより、精神疾患を発症させるリスクがあると示された論文がいくつか存在していることは、肝に銘じる必要があります。

また、高用量のTHCの使用は不安や抑うつ症状を引き起こすことも報告されており、使用量にも注意が必要であるといえるでしょう。

医療用大麻はうつ病に対し治療効果がある可能性はありますが、未成年や高用量での使用はリスクが高いと考えられます。

まとめ

うつ病の基礎知識、うつ病に対するCBDや医療用大麻の治療効果についてみてきました。

・うつ病はこころの病気ではなく、神経の病気
・現在の抗うつ薬はモノアミン仮説に基づいたものが多いが、即効性がない
・CBDは新たな機序で抗うつ作用をもたらすことが期待されている
・抗うつ目的で大麻を使用している人はいるが、未成年および高用量での使用はリスクが高い

突然ですが、10〜44歳における死因の第1位はご存知でしょうか?

正解は「自殺」です。

うつ病では自殺する人が多く、自殺者の1/3はうつ病であると推定されています。

警視庁によると、2019年の自殺者は20169人、2020年は21081人。2021年1月〜11月は19113人と報告されています。

毎年6000〜7000人のうつ病の人が自殺しているということになります。

つまりうつ病を予防する、もしくは改善することは多くの命を救うことになるはずです。

もちろんストレスを抱えないのが第一です。

その次に大事なのが病気が深刻になる前に対処することですが、「もしかしてうつ病かも」「精神的に辛い」と思っていても、心療内科に受診するのは抵抗があり、ハードルが高いものです。

筆者はそういう人のためにCBDがあると考えています。つまり、病気と診断される前に対応することが大切だということです。

気分が落ち込んだ時には、CBD以外にも、ランニングや森林浴、日光を浴びるなども取り入れてみるといいでしょう。

そしてなによりも。

一人ひとりが周囲の人を思いやり、支え合っていく気持ちを大切に。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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