不安・睡眠障害患者がCBDの使用によって症状が改善した話

不安・睡眠障害患者がCBDの使用によって症状が改善した話

- メキシコのケースシリーズ

大麻に含まれるCBD(カンナビジオール)は多くの研究により抗不安作用を有することが示されており、2018年にCBD使用者2409名を対象としたアメリカの調査では、CBDの使用理由の上位3つに「不安」が含まれています。

9月16日、不安障害・睡眠障害を抱える4名の患者がCBD使用により症状を改善した症例がメキシコの研究者らにより報告されました。

いずれもHAM-A(ハミルトン不安評価尺度)、ICD-10(国際疾病分類第10版)により不安障害と診断され、またPSQI(ピッツバーグ質問表)により睡眠の質の低下が認められた患者で、彼・彼女らはCBDによる加療を専門医に求めました。

なお、CBDの使用は全てオイルにて行われました。

①54歳男性、会社経営者の症例

既往歴

高血圧、2型糖尿病、乾癬(30年前よりカルシトリオールにて加療中)、胃食道逆流症(2021年5月よりパントプラゾールにて加療中)。喫煙・飲酒習慣あり。

受診までの経過

2020年11月ごろより強いストレス、落ち着きのなさ、集中力の低下、イライラ、疲労感などがみられるようになり、私生活や仕事に支障をきたすようになった。5年前から睡眠障害も認められ、ブロマゼパム(抗不安薬)やジフェンヒドラミン(抗ヒスタミン薬)を断続的に服用。今回の受診時には服用していなかった。

受診時にはHAM-Aにより中等度〜重度の不安障害、PSQIにより睡眠の質の低下が認められた。

CBD使用による経過

20mg/日(10mgx2回/日)の用量でCBDの舌下投与を開始。1週間経っても変化が認められなかったため、60mg/日(30mgx2回/日)へと増量した。

治療開始1ヶ月後、血液・尿検査を実施するも異常所見はなし。強いストレスを感じた日は寝つけなかったりもしたが、全体として睡眠が改善されたと報告。集中力の低下は続いていたが、それ以外の症状は緩和されていた。さらなる改善を目指し、CBDの使用量を80mg/日(26.6mgx3回/日)へと増量。

治療開始から2ヶ月。不安症状、睡眠の質は改善し、支障をきたしていた日常生活にも改善がみられるようになった。その後3ヶ月間同用量で治療を継続。HAM-Aで不安障害の程度は軽度となり、PSQIでも睡眠の質が良好となったことが確認された。CBD使用による副作用は特に認められなかった。

②45歳女性、会社員の症例

既往歴

アトピー性皮膚炎(2013年〜、悪化時のみステロイド軟膏を使用)、甲状腺機能低下症(2020年12月〜、レボチロキシン内服中)、胆のう摘出手術(2018年)。

受診までの経過

2014年より不安症状、入眠困難、抑うつ、感情の不安定さを認め、仕事やプライベートがうまくいかなくなった。全般性不安障害と診断され、シタロプラム(SSRI:抗うつ薬)10mgの服用を開始。2021年1月より不安症状が悪化し、同時にアトピー性皮膚炎が手において増悪。シタロプラムを服用していても改善が認められなかったため、CBDに助けを求めた。

受診時、HAM-Aにて中等度〜重度の不安障害、PSQIにて睡眠の質の低下が認められた。

CBD使用による経過

1日10mg(3.3mgx3回/日)の用量で、CBDの舌下投与を開始。1ヶ月後、入眠はスムーズとなり、感情も安定し、アトピー性皮膚炎による手の炎症も改善。症状改善に伴い、認知行動療法(精神療法の1つ)も開始。血液・尿検査を実施したが、異常初見は認められず。

治療開始2ヶ月目、情動は安定していたが再度睡眠障害がみられるようになったため、CBDの摂取量を1日26.6mg(13.3mgx2回/日)へと増量。

治療開始3ヶ月目、睡眠状態が改善したため、CBDの摂取量はそのままで様子をみることに。翌月、不安症状が続いていたことを確認したためCBDの摂取量を朝13.3mg、夜20mgの合計33.3mg/日へと増量。

彼女は現在もシタロプラム10mg/日とCBD33.3mg/日を服用し、認知行動療法を受けている。特に症状はなく、睡眠、集中力、情動は安定し、アトピー性皮膚炎の悪化兆候もみられない。HAM-Aで不安障害は軽度あるいはなしとなり、PSQIでも睡眠の質は良好となった。CBD使用による副作用は報告されなかった。

③49歳男性、弁護士の症例

既往歴

飲酒や激しい運動により生じる酒さ(子供の頃〜。酒さとは顔に生じる皮膚疾患で、赤ら顔とも呼ぶ)、盲腸(2020年8月)。飲酒はするが、喫煙習慣はなし。

受診までの経過

2年前にパニック発作が起き、不安障害とうつ病と診断された。以降ボルチオキセチン(抗うつ薬)10mg/日の服用が開始となり、ビタミンのサプリメントも服用するようになった。

2018年以降、常にストレスと不安を感じ、集中力はなく、性欲の低下もみられるように。色々考え事をして入眠までに1時間ほどかかり、寝ついたとしても2、3回中途覚醒するようになった。ボルチオキセチンは朝眠くなるだけで、結局夜間には中途覚醒してしまうので、ボルチオキセチンの断薬を希望し、今回受診した。

受診時、HAM-Aで軽度〜中等度の不安障害、PSQIで睡眠の質の低下が認められた。

CBD使用による経過

睡眠に焦点を当て、5週間かけてボルチオキセチンを漸減していくことに。同時にCBDの服用を25mg/日(朝8.3mg、夜16.6mg)から開始。さらに睡眠に効くとされるグリシン酸マグネシウム400mgも摂取することとなった。

ボルチオキセチンが中止となった頃、睡眠の質は著しく改善していた。しかし不安症状は持続していたため、CBDの摂取量を33.3mg/日(朝6.6mg、昼10mg、夜16.6mg)へと増量した。

以降睡眠の質は良好で、顕著に不安が出ることもなく、情動は安定していた。HAM-Aでは不安障害は軽度あるいはなしとなり、PSQIでも睡眠の質は良好となった。CBD使用による副作用は報告されなかった。

④35歳女性、写真家の症例

既往歴

中耳炎(20歳)、盲腸(28歳、虫垂切除)、偏頭痛(15年前〜。光が引き金となり発作がおきる。発作時のみスマトリプタンを服用)。飲酒習慣あり。

受診までの経過

地震を経験して以降、夜間に不安が強くみられるようになった。「またいつ起こるか分からない」と怯え、家族のことも過剰に心配するようになった。時々ではあるが息苦しさや熱感などの不定愁訴を訴え、悲壮感、意欲・集中力の低下などもみられるように。

もともと不安障害と診断されてセルトラリン(抗うつ薬)50mgを服用していたことがあったため、2021年7月から服用を再開した。しかし効果がなかったため、10月には自己中断。性欲低下と睡眠障害もあり、睡眠障害に対してメラトニン3mgを就寝前に服用していたが、今回受診時にはすでに服用を自己中断していた。

受診時、HAM-Aにて軽度〜中等度の不安障害、PSQIにて睡眠の質の低下が認められた。

CBD使用による経過

一般的な治療に対する情報を提供することに重点を置きながら、CBDの服用を20mg/日(朝6.6mg、夜13.3mg)の用量から開始。さらに5-ヒドロキシトリプトファン(セロトニンの合成を助ける物質)100mg、グリシン500mg、トリプトファン400mg、カモミール200mg、レモンバーム200mg、ビタミンB6 20mg、グリシン酸マグネシウム400mgを配合したカプセルを寝る前に2カプセル服用した。

1ヶ月後、血液検査ではコレステロール値(総コレステロール:226mg/dl、悪玉コレステロール137mg/dl)とコルチゾール値(11.3μg/dl)が若干ではあるが基準値から逸脱。当の本人は少し活気がないだけで、体調は非常に良いと感じていた。

治療開始3ヶ月後、症状は安定し、HAM-Aで不安障害はなし、PSQIで睡眠の質は良好と判断された。CBD使用による副作用は認められなかった。

まとめ

今回の症例報告では、不安障害・睡眠障害を抱える4名の患者がCBDを20〜80mg/日の用量で摂取することにより、副作用を生じることなく症状の改善を認めました。

研究者らは「CBDは単体あるいは既存の治療と組み合わせることで、不安やそれに関連する不眠などの症状を緩和し、QOLを向上させる可能性がある。これは治療の選択肢の広がりを意味しており、難治性の不安障害に対して有効となる可能性があることを示している」と述べています。

中間量だけが有効性を示すベル型グラフ

一般的にCBDの単回投与における抗不安作用は用量に対し「ベル型」で認められて、量が少なくても多くても十分な効果を得ることができないと考えられています。

例えば2017年の研究では、CBD100mg、300mg、900mgを用いて抗不安作用を検証した結果、300mgの用量でのみ有意な抗不安作用が認められています。

一方で2019年の研究では、不安と不眠を有する患者72名がCBDを25mg/日の用量で服用し続けた結果、はじめの1ヶ月目から79.2%において不安の減少が認められたことが報告されています。

このことからCBDはそこまで多い量でなくても、持続的に使用することで抗不安作用を認める可能性があり、今回の研究結果もそのことを示していると考えられます。

ただし今回認められたCBDの低用量による抗不安作用・睡眠改善は、その他の薬やサプリメント、精神療法などによる影響も考慮に入れる必要があり、さらに症例報告というエビデンスレベルの低さも含めると、今後も引き続き研究が必要になると言えるでしょう。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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