大麻使用後に「口の中が乾く理由」が報告される

大麻使用後に「口の中が乾く理由」が報告される

- アメリカの基礎研究

「大麻を使用すると口の中が乾いて、やたら水を飲みたくなる」

海外生活などで大麻を使用したことがある人であれば、このような経験をしたことがあるかもしれません。実際に医療用大麻では副作用として「ドライマウス(口渇)」がよく報告されています。ちなみに大麻使用者の間では「コットンマウス(Cotton Mouth)」とも表現されていたりします。

口渇とは「唾液の分泌が減少している状態」を指しますが、大麻を使用することでなぜ唾液の分泌が減るのかはまだ明らかとなっていません。

そこでそんな疑問に答えるべく、アメリカの研究者たちはマウスにおいて研究を実施。その結果、唾液腺に存在するCB1受容体の活性化が口渇の要因となっている可能性が今月19日に報告されました。

唾液腺とは唾液を分泌する組織のことです。唾液は主に舌下腺、顎下腺、耳下腺と呼ばれる3対の大唾液腺から分泌されています。

今回の研究では、まずこの3つの大唾液腺のうち顎下腺においてCB1受容体が発現していたことが発見されました。より細かく説明すると、顎下腺を支配する副交感神経系の神経細胞上にCB1受容体が存在していたとのことです。

唾液は1日に約1〜1.5リットル分泌されると言われています。交感神経も関与しますが、唾液の分泌は主に副交感神経の興奮により行われています。副交感神経の興奮はアセチルコリン(神経伝達物質の1つ)がムスカリン受容体に結合することにより起こりますが、今回の研究ではこのアセチルコリンを分泌する神経細胞上(コリン作動性神経)にCB1受容体が発現していたことが分かりました。

マウスにTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCB1作動薬を使用したところ、唾液の分泌が有意に減少。この作用はCB1受容体拮抗薬により打ち消されました。さらにCB1受容体を欠損させたマウスでは、この作用は認められませんでした。なお、CB2受容体作動薬は唾液の分泌に変化をもたらしませんでした。

つまり、顎下腺のCB1受容体の活性化によりアセチルコリンの分泌が減少し、その結果として唾液の分泌が減少した可能性が示されたということになります。

一方、CB1受容体に対しネガティブ・アロステリック・モジュレーターとして作用する(CB1受容体の働きを弱める)と考えられているCBD(カンナビジオール)は、単独投与では唾液の分泌に影響を与えませんでしたが、THCと一緒に投与することにより、用量依存的にTHCによる唾液分泌の減少を和らげることが明らかとなりました。

CB1受容体は、もともと私たちの身体の中で作られているアナンダミドや2-AGといったエンドカンナビノイドにより活性化します。これらの物質は必要時に合成され、使用後すぐに酵素によって分解されます。

今回の研究において、アナンダミドの分解酵素であるFAAH(脂肪酸アミドヒドラーゼ)を欠損させたマウスでは、健常なマウスよりも唾液の分泌が減少していたことも報告されました。健常なマウスに対しFAAH阻害薬を使用することによっても唾液分泌の減少が観察され、この効果はCB1受容体欠損マウスでは認められませんでした。

なお、2-AGの分解酵素であるMAGL(モノアシルグリセロールリパーゼ)の阻害薬は唾液の分泌に変化をもたらしませんでした。

以上の結果を要約すると

・顎下腺を支配する副交感神経系の神経細胞にCB1受容体が存在していた。

・THCやCB1作動薬によるCB1受容体の活性化は唾液の分泌を減少させた。

・CBDは、THCによる唾液分泌の減少を和らげた。

・エンドカンナビノイドの中で唾液分泌に関わるのは、2-AGではなくアナンダミドであることが示された。

つまり大麻使用により口の中が乾くのは、「顎下腺のCB1受容体が活性化することにより唾液の分泌が減少するから」ということが可能性として考えられるということになります。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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