大麻成分が首・腰背部の慢性疼痛を緩和

大麻成分が首・腰背部の慢性疼痛を緩和

- オーストラリアの臨床試験

7月7日、大麻成分THCCBDを含んだオイル製剤がオピオイド以外の鎮痛剤で有効性が認められなかった首・腰背部の慢性疼痛を緩和したことがオーストラリアの研究者らにより報告されました。論文は「Medical Cannabis and Cannabinoids」に掲載されています。

ほとんどの人が首や腰の痛みを一度は経験したことがあるのではないでしょうか。中でも慢性腰痛は世界でも日本でも有病率が高く、身近な痛みとなっています。

大麻は様々な病状で用いられますが、中でも慢性疼痛患者においてよく使用されていることで知られています。大麻には「カンナビノイド」という成分が含まれており、主なカンナビノイドであるTHCとCBDは、これまでの研究から鎮痛作用があることが明らかにされています。

THC:CBD=10:25のオイル製剤を用いた臨床試験

今回オーストラリアの研究チームは、3ヶ月以上首や腰背部に痛みがあり、アセトアミノフェン(例:カロナール)やN-SAIDs(例:ロキソニン)などの鎮痛剤で十分な効果が認められなかった患者を対象とし、THCとCBDを含んだオイル製剤「サイビス(Cybis)」の安全性と有効性を検証。

サイビスにはMCT(中鎖トリグリセリド)オイルが用いられ、1mlにつきTHCが10mg、CBDが25mg、テルペンの1種であるリナロールが1mg含まれていました。

サイビスの服用は口腔粘膜から行われ、0.5mlの用量で1日1回(THC5mg、CBD12.5mg/日)から開始。8日目以降は1日に2回投与が行われ、1回量も徐々に増量。8〜14日目には0.5ml/回(THC10mg、CBD25mg/日)、15〜21日目には1ml/回(THC20mg、CBD50mg/日)、22〜28日目には1.5ml/回(THC30mg、CBD75mg/日)の用量で投与されました。

参加者は少なくとも研究開始3日前から、頓用(アセトアミノフェンあるいはN-SAIDs)以外での鎮痛薬の服用を中止するよう指示されました。

サイビスの有効性を知るために、痛み(NPRS、BPI)、抑うつ・不安・ストレス(Depression Anxiety Stress Scale)、睡眠(Medical Outcomes Study Sleep Scale)の変化や、治療に対する満足度(Self-Assessment of Treatment)、追加の鎮痛薬(頓服)使用が評価されました。

NPRS(Numerical Pain Rating Scale)

痛みの程度を0(全くなし)〜10(想像できる最悪の痛み)で評価。

BPI(Brief Pain Inventory)

痛みの程度や、痛みによって障害される気分や行動について10段階で評価。

全体的に忍容性は良好

28名が研究に参加(男性50%、年齢中央値:63[31〜74]歳)。痛みの継続年数の中央値は10年間(7ヶ月〜53年)。大麻経験者は14%で、93%がオピオイド、アセトアミノフェン、N-SAIDsなどの鎮痛薬の使用経験を報告しました。

サイビスの副作用は82%の患者から報告されましたが、その程度は軽度〜中程度。多くの参加者が高用量よりも低用量で副作用を経験しました。

最も多かった副作用はめまい(28.6%)で、次いで頭痛(21.4%)、疲労(14.3%)、嘔吐(10.7%)など。

投与中止に至った副作用は便秘、不安、失神の3件。このうち失神は唯一重篤な副作用として報告され、1mlを2回/日で服用した患者で生じました。

用量依存的に痛みが改善

サイビスの服用により、用量依存的に痛みが減少。ベースライン(7.6点)と比較し、痛みのスケール(NRS)の平均は0.5ml(1回/日)の服用で6.6点(-1.0点=−13.1%)、0.5ml(2回/日)で6.3点(-1.4点=-15.8%)、1.0ml(2回/日)で5.4点(-2.3点=-28.8%)、1.5ml(2回/日)で5.0点(−2.7点=-34.1%)となりました。

BPIに関しても同様に用量依存的にスコアが改善。鎮痛薬の追加使用も用量依存的に減少し、0.5ml(1回/日)では参加者の58%(使用回数の中央値:2回)が使用していたのに対し、1.5ml(2回/日)ではその割合が32%(使用回数の中央値:0回)となりました。

抑うつレベルは用量が増えること(1.0mlを2回/日、1.5mlを2回/日)で改善し、ストレスレベルに関しても用量が増えるにつれ高い改善が認められました。

不安に関しては用量とは関係なくスコアの改善が認められたものの、統計的に有意とはなりませんでした。睡眠に関してはBPIの項目で改善が示されたものの、睡眠のスケール(Medical Outcomes Study Sleep Scale)においては一部で悪化が示され、矛盾する結果となりました。

治療に対する満足度(Self-Assessment of Treatment)は統計的に有意差が認められなかったものの、治療により痛みが「非常に改善した」あるいは「かなり改善した」と回答した割合は0.5ml(1回/日)で4%、0.5ml(2回/日)で17%、1.0ml(2回/日)で32%、1.5ml(2回/日)で45%と用量依存的に増加

サイビスの投与中止7日後、サイビスがこれまでの治療と比べて「やや良かった」と回答した人は35%、「非常に良かった」と回答した人は39%となりました。

これらの結果から研究者らは、腰背部や首に慢性疼痛を有する患者において、サイビスの「1.5ml(2回/日)までの投与で忍容性が確認され、1.0ml(2回/日)及び1.5ml(2回/日)の投与で臨床的に有意な疼痛の軽減が認められました」と述べています。

今回の研究はプラセボ(偽薬)などと比較して有効性を検証した研究ではなく、参加者も研究者も服用している薬を把握した状態(プラシーボ効果やバイアスが認められやすい)であったことから、エビデンスレベルとしては低いものとなります。

研究者らは今後、サイビスを用いた大規模なランダム化比較試験を実施する予定だと述べています。

エビデンスが不十分とされながらも、大麻が慢性疼痛に有効性を示した研究はこれまでに数多く存在し、今年に入ってからも着実にエビデンスが積み重ねられています。

最近、フロリダ大学の研究チームは医療用大麻による治療を開始した慢性疼痛患者を調査した結果、多くの人で痛みが緩和しただけでなく、心身の状態改善や処方薬の減薬も認められていたことを報告

5月に公開されたイギリスの研究では、医療用大麻による治療を開始した慢性疾患患者を追跡調査した結果、3ヶ月後に痛みやQOLが改善し、59.9%がオピオイドの使用を中止していたことが明らかにされています。

同じくイギリスの研究者は、17年間神経痛に苦しみ続けていた女性が医療用大麻の使用により痛みを改善し、辛い副作用をもたらしていた処方薬の減薬に成功した症例を報告。医療用大麻による治療から4ヶ月後、女性は「人生のセカンドチャンスを与えられた」と述べ、彼女の夫は彼女のことを「新しい女性」と表現しました。

ニューヨーク州保健省の研究者らは今年初め、オピオイド使用中の慢性疼痛患者において、医療用大麻の長期使用がオピオイドの使用量を減少させていたことを報告

慢性疼痛を認める疾患は数多くありますが、最近では進行がん慢性骨盤痛線維筋痛症多発性硬化症ジストニアなどの痛みに対し、医療用大麻が有効であったことが報告されています。

なお、イギリスでは最近、最大5,000人の非がん性慢性疼痛患者を対象とした医療用大麻の大規模治験が承認されました。この治験が成功すれば、慢性疼痛に対する医療用大麻の処方が国民健康保険の適用となるだけでなく、専門医以外の一般医が医療用大麻を処方できるようになる可能性があります。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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