慢性疼痛患者が医療用大麻の使用で痛みや心身の状態を改善 処方薬の減薬も

慢性疼痛患者が医療用大麻の使用で痛みや心身の状態を改善 処方薬の減薬も

- アメリカの観察研究

7月5日、医療用大麻による治療を開始した慢性疼痛患者に対しインタビューや追跡調査を行った結果、多くの人で痛みが緩和しただけでなく、心身の状態改善や処方薬の減薬も認められていたことがアメリカの研究者らにより報告されました。論文は「Cannabis」に掲載されています。

医療用大麻は鎮痛作用があることで知られており、その有効性は特に「慢性疼痛」において認められています。しかし、痛みに対する医療用大麻の有効性は研究によって一貫性がなく、現在もエビデンスが不十分となっています。

慢性疼痛患者を対象とした観察研究

フロリダ大学の研究チームは、痛みに対する医療用大麻のエビデンスにばらつきが見られる原因として、痛みのスコアに基づいた評価が強調されすぎている可能性を指摘。そのため、「自由回答形式のインタビュー」を取り入れた研究を実施することで、このギャップを埋めることにしました。

対象となったのは、フロリダ州内のクリニックで新たに医療用大麻の治療を開始した慢性疼痛患者51名(平均年齢54.4歳、男性52.9%、白人82.4%)。このうち36.2%が過去30日以内の大麻使用、17%が過去1年以内の大麻使用を報告しました。

医療用大麻による治療開始から3〜4週間、参加者はリアルタイムで自身の状態を複数回評価(EMA:生態学的経時的評価)。治療開始から1ヶ月後には電話にて自由回答形式のインタビューを実施。これに加え、3ヶ月間の追跡調査も行われました。

6割以上が慢性疼痛に対する有効性を報告

参加者の62.7%が慢性疼痛の症状に対し医療用大麻が有効と回答。例えば、以下のような報告がなされています。

「とても効果的です。痛みで不快に感じたのは2週間のうち1日だけありましたが、それも1時間以内で治まりました」(58歳男性)

「とても効果的です。1~100%の評価で90%の効果がありました」(26歳女性)

一方、2名が医療用大麻の効果に限界があることを指摘。

「まだ分からないですね。いくつかの製品は仕事中に背中の痛みを軽減するのに役立ちますが、痛みが一定の閾値に達すると効果がありませんでした。中程度の痛みの軽減には役立ちますが、オピオイドのように高レベルの痛みの軽減には役立ちません」(69歳男性)

「背中を痛めるまではとても役に立ったと思います。それ以降はもっと吸わなきゃいけなくなったみたいです。でも、日々の普通の痛みには最高でした」(45歳女性)

また、3名が医療用大麻で効果が認められなかったと報告しました。

「私にはそれほど効果があるとは思えません。ネットで製品を見てみましたが、あまり役に立ちませんでした」(30歳女性)

「正直に言って、あまり違いを感じていません」(52歳女性)

睡眠の改善

何人かの患者は医療用大麻の使用により睡眠の質が改善したと報告。

「以前は夜にとても落ち着きがなく、全く眠れませんでしたが、今は眠れます。夜中に足がムズムズすることも、うめき声を上げるような痛みが起きることもありません。主人も本当に喜んでいます!」(60歳女性)

「全体的に、医療用大麻の治療は役に立ちました。数ヶ月ぶりに嵐の中でも眠れるようになりました」(61歳女性)

処方薬の減薬

参加者は医療用大麻が処方薬の代替となり、副作用がより少ないことを報告。減薬した処方薬として、具体的にベンゾジアゼピン(抗不安薬・睡眠薬)、N-SAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、オピオイドなどが挙げられました。

「素晴らしいです。私はこれまで医療用大麻を使用したことがありませんでした。痛みに関しては、これまで数年間飲み続けてきた薬を飲む必要がなくなりました。麻薬も他の薬も全部です。医療用大麻があんなに効くなんて知らなかったので、驚きました。本当に効きますよ」(43歳女性)

「B+の評価です。私はまだ炎症を和らげる薬であるセレブレックス(N-SAIDs)を必要としています。私はいくつかの薬をやめましたが、セレブレックスはまだ毎日服用しています。ヒドロコドン(オピオイド)は飲んでないです。飲んだ時に感じる気分が好きじゃなかったので。他のオピオイドとメロキシカム(N-SAIDs)はやめています。生活は順調ですよ」(67歳男性)

「現時点でCBDオイルは私の体に劇的な変化をもたらしています。いつもは起き上がると痛くてたまらないのですが、今は痛み止めを飲まなくても起き上がれます。関節炎による親指の痛みもほとんどなくなりました。以前は毎日クリームを塗っていましたが、今は1日おきか3日おきです。痛み止めの薬も3、4錠減らしました。医療用大麻を摂取しているので、寝る時にバリウム(ベンゾジアゼピン)を飲む回数も減りました」(67歳男性)

「全体的に医療用大麻は役に立ちます。痛みをコントロールするのがずっと楽になり、薬を飲まずに済んでいます。副作用もトラマドール(オピオイド)よりずっといいです。医療用大麻を使えば生活を送ったり、仕事をしたり、何かをすることができますが、トラマドールを使えば、痛みを感じずに生活したり、何かをすることはできません…できるのは、よだれを垂らしながらソファに座ってテレビを見ることだけです」(47歳女性)

身体機能の改善

医療用大麻の使用により、身体機能が改善して歩行器が不要になったり、予定されていた手術を遅らせることができたと報告した参加者も。中には、糖尿病の血糖コントロールに有効であったと回答した人もいました。

「私にはとても役に立っています。動くのを助けてくれるんです。仕事から帰ってベイプを吸うと、忙しい一日の後でも動きやすくなるんです。いつもは仕事から帰ると固まって動けなかったのに、今では自由に動き回って家族と交流することができます」(48歳男性)

「起床して動き回ることができるので、惨めな気持ちになることもありません。朝が一番よく(効果が)分かります」(67歳男性)

「かなり効果的です。もう歩行器を使わなくなりました。薬(オピオイドや鎮痛薬)は1日3回飲んでいましたが、今では1回のみで、ザナックス(ベンゾジアゼピン)も30日間飲んでいません」(51歳女性)

「医療用大麻がなければ、私はすぐに手術を受けなければならなかったでしょう。オイルとオピオイドを使うことで手術を先延ばしにし、今のような激しいペースでも精一杯生きることができています」(64歳男性)

「関節痛にも効くし、血糖値も下げてくれます。私は糖尿病を患っています」(53歳男性)

メンタルヘルスの改善

多くの参加者は、医療用大麻の使用により痛みだけでなく、集中力、気分、認知機能にもポジティブな影響が認められたと報告しています。

「特に気分の面でとても助かったと思います。痛みにも効くし、吸うものによっては集中力も増します。掃除もたくさんしましたよ」(39歳男性)

「座らない限り、より活動的にしてくれる製品があります。集中力を高めてくれるので、お皿を洗ったり、家を掃除したり、多くのことをやり遂げています。CBDを服用してベイプを使用することで、不安の程度が10点から4点になりました」(45歳女性)

「医療用大麻は私の痛みにとても効果的です。死亡率が高いため、誰もがオピオイドを減らさなければならないと知った時、私は自殺したいと思いました。医療用大麻のおかげでそういった気分は和らぎ、再び人間らしさを取り戻すことができました」(56歳女性)

「医療用大麻は素晴らしいですよ。1日の適切な時間に最適な組み合わせを見つけることができたので、本当に素晴らしいです。日中は全く認知能力が低下せず、むしろ向上し、夜には薬を使って意識を失うのではなく、適切に眠ることができるようになりました」(56歳女性)

一方で、「不眠症には効きますが、痛みや精神的な問題にはあまり効きません」(56歳女性)と回答した人もいました。

医療用大麻の副作用

医療用大麻の副作用として、望まない”ハイ”、胃の不快感、ベイプによるムセなどが挙げられました。

「私の仕事にはあまりよくないですね。たくさん重機を扱っていますから。精神的にハイになったり、無力になったりしている場合ではありません。気分が良い時もありますが、仕事ができなくなることや副作用が嫌なんです」(49歳男性)

「ベイプを使用する際、最初のひと吸いでハイになってしまうので、スイートスポットを見つけるのが難しいです。ハイにならず神経障害を感じないようにしたいです。医療用大麻は効果的ですが、ハイになるのは楽しめません」(65歳男性)

「全体的に医療用大麻治療は効果的でしたが、オイルは胃に問題が生じたので摂取できませんでした」(58歳女性)

「正直なところ、最初の頃はベイプを使いこなすのに苦労しました。最初の1週間はむせていましたが、ここ1週間で使えるようになりました」(58歳女性)

「効き目が分かりません。過剰摂取をしてから、インディカ株のTHCを摂取するのを止めました。もうひとつのCBD製品では朝の3~4時まで眠れず、悪い結果になりました。肩にクリームを塗ったこともありますが、これも全く効きませんでした」(73歳女性)

品種の使い分け

参加者はサティバ株とインディカ株、CBDとTHCの比率など、好みの医療用大麻製品について述べました。

「(医療用大麻は)かなり効果的だと思います。もし背中が痛い時にサティバ製品を使用すれば、動くためのエネルギーが与えられます。眠気がない時にはインディカがベッドに入るのを助けてくれるし、眠りを保ってくれます」(38歳男性)

「全体的に医療用大麻の治療は良いです。CBDとビーガン食の組み合わせは大いに役立ちます。こんなに気分がいいのは20年ぶりですよ。THCは睡眠を助けてくれるので、芝生仕事をする日に良いです。THCは食欲を高めてくれますが、それも良いことです」「唯一の欠点は、THCのおかげで夜遅くにお腹が空くことですね」(63歳男性)

「100%正直に言いますが、私の病状に素晴らしい効果があると思います。寝る時にTHCを摂取すると、本当に助かります。日中は炎症を抑えるのに役立ちますし、ハイにならないようにカスタマイズできるのは本当にありがたいです」(40歳男性)

「実際に違いが分かります。最初にある品種を試した時は違いが分からなかったのですが、その後THCを多く含む別の品種を試したところ、下肢(背中の問題)に違いが見られ、痛みにより耐えられるようになりました」(67歳男性)

医療用大麻製品の形態

医療用大麻製品の形態についても、様々な回答が聞かれました。

「デリバリーに関しては吸入の方が良いですね。オイルは不味いです。THCは効かず、その製品を摂取することは、摂取しないことよりも悪かったです。CBDは今でも摂取しています」(65歳男性)

「効果があるのはベイプだけです」(68歳男性)

「医療用大麻を使用してまだ日が浅いので。最初は大麻を吸っていましたが、好きではありませんでした。ハイになるのが嫌だったんですよね。オイルと錠剤を手に入れましたが、錠剤は効きませんでした。オイルのほうがよく効きましたが、今でも何が自分に合っているのかまだ分かりません」(61歳男性)

最適な投与量の決定

参加者は自分の状態に最適な投与量を見つけることが難しいことを報告し、このことが全体的な有効性の認識に影響を与えることが示されました。

「私は舌下(オイル)を使用していますが、カプセルではスイートスポットが見つけられませんでした。違いはありますが、それほど大きなものではありません」(72歳男性)

「私はまだ適切な製品を見つけようとしており、いくつかのタイプを試してみる必要があります。この製品にはノックアウトされました。痛みを感じないので効いてはいるのですが、20分以内に眠ってしまうんです。もっと活動的になるものもあるのですが…やり過ぎて一日中動いてしまうから痛くなっちゃうんですよね。バランスをとることを学ぶ必要があります…効くと記載してあることには効果的です。痛みはいくらか軽減されました。理解するのに2、3ヶ月はかかるでしょう。CBDオイルはとても気に入っていますが、それだけで100%効果があるわけではありません(45歳女性)

「ベイプペンは本当に早く私を眠りにつかせてくれます。30分以内に。夜中の1、2時まで眠れなかったので、とても助かっています。日中に疲労感を感じるようになったので、現在も効いているのだと思います。微調整が必要ですね。今は主治医に言われた通りに服用していますが、必要に応じて調整するようにも言われています。ですから、少し遊んでみる必要がありますね」(58歳女性)

これらの結果から、論文の結論部分では「本研究は、慢性疼痛管理のために医療用大麻を使用した個人の経験についての理解を深めることに貢献する予備的な知見を提供しました」「予備的な知見によれば、中高年サンプルのほとんどが、慢性疼痛と関連症状の管理に医療用大麻が有益であると報告しました。疼痛管理、睡眠の質、身体的・精神的健康の改善が観察される一方で、潜在的な副作用の特定、最適な治療レジメンの決定が重要であると報告されました」と述べられ、引き続きより多くの研究が必要であるとされています。

大麻が慢性疼痛に有効であり、それに伴いオピオイドなどの減薬を認めた報告は、他にも多く存在します。

最近公開されたイギリスの研究では、医療用大麻による治療を開始した慢性疾患患者を追跡調査した結果、3ヶ月後に痛みやQOLが改善し、59.9%がオピオイドの使用を中止していたことが明らかにされています。

同じくイギリスの研究者は、17年間神経痛に苦しみ続けていた女性が医療用大麻の使用により痛みを改善し、辛い副作用をもたらしていた処方薬の減薬に成功した症例を報告。医療用大麻による治療から4ヶ月後、女性は「人生のセカンドチャンスを与えられた」と述べ、彼女の夫は彼女のことを「新しい女性」と表現しました。

ニューヨーク州保健省の研究者らは今年初め、オピオイド使用中の慢性疼痛患者において、医療用大麻の長期使用がオピオイドの使用量を減少させていたことを報告

慢性疼痛を認める疾患は数多くありますが、最近では進行がん慢性骨盤痛線維筋痛症多発性硬化症ジストニアなどの痛みに対し、医療用大麻が有効であったことが報告されています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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