ジストニア患者、医療用大麻の使用で主症状・痛み・QOLが改善

ジストニア患者、医療用大麻の使用で主症状・痛み・QOLが改善

- イスラエルの研究

6月29日、ジストニア患者が医療用大麻の使用により主症状、痛み、QOLの改善を認めていたことがイスラエルの研究者らにより報告されました。論文は「Frontiers in Neurology」に掲載されています。

ジストニアとは、自分の意思とは関係なく持続的に筋肉が収縮してしまう運動障害で、身体をねじるような運動や姿勢異常などが認められます。文字を書く時に手がこわばる(書痙)、目が開けづらい(眼瞼けいれん)、首が勝手に傾く(痙性斜頚)などの症状も有名です。

ジストニアは原因がはっきりせず発症する「一次性ジストニア」と、脳の病気(パーキンソン病やウィルソン病などの神経変性疾患、頭部外傷や脳炎、脳卒中、脳性まひなどによる脳障害)や薬の副作用(抗精神病薬や一部の吐き気止めなど)により発症する「二次性ジストニア」に分類されます。

一次性ジストニアはさらに、症状が認められる範囲に応じて全身性、局所性、分節性、片側性、多巣性などに分類されます。なお、遺伝性で発症したジストニアは、日本では難病に指定されています。

他にも、ピアノの演奏、野球、ゴルフなどでは、決められた動作時に運動障害が出現する「イップス」が認められることがありますが、これは「職業性ジストニア」とも呼ばれています。

ジストニアの治療は、二次性であればその原因に対処することになりますが、一次性の場合は主にリハビリや薬物療法が行われます。

薬物療法としては、ジストニアの種類に応じて、けいれんを抑える抗コリン薬やカルバマゼピン(抗てんかん薬)、筋弛緩作用のあるベンゾジアゼピン、ドーパミンの産生を促進するレボドパなどが用いられます。局所ジストニアでは、ボツリヌス毒素を薄めたものを症状が出ている部位に注射する「ボツリヌス療法」が有効です。

これらで改善がみられなければ、問題が起きている脳の部位に刺激を与える装置を植え込む治療(脳深部刺激療法)が適応となります。

しかし、これら全ての治療で十分な効果が認められない患者も一定数存在しており、他の代替療法が現在も求められています。

ジストニアと医療用大麻

ジストニアに対する代替療法の1つとして注目されているのが医療用大麻です。

現時点でジストニアの発症メカニズムははっきりと分かっていませんが、大脳基底核や小脳など身体の動きの調節に関わる脳領域で過活動が起こることにより、運動障害が生じていると推察されています。

大麻や大麻に含まれる有効成分「カンナビノイド」は、主にエンドカンナビノイドシステム(ECS)と呼ばれる神経系に作用することで医療効果をもたらすと考えられています。

ECSの構成要素であるCB1受容体は、主に脳や脊髄に存在。中でも、大脳基底核に高密度に発現していることが明らかにされており、この受容体の活性化は大脳基底核の過活動を抑制し、ジストニアに有効かもしれないという仮説が立てられています

この仮説に基づき、全身性及び分節性ジストニア患者に対し合成THC製剤「ナビロン」、頸部ジストニア患者に対し合成THC製剤「ドロナビノール」を用いた臨床試験が行われましたが、これらの有効性は認められませんでした。

ジストニア患者5名にCBD100〜600mg/日を6週間摂取してもらった研究では、全員でジストニアの症状が20〜50%改善されたものの、パーキンソン病を併発していた2名の患者においては、300mg/日を超える用量で運動低下と安静時の震えが悪化しています。

一方、単独あるいは小規模の患者を対象とした研究では有望な結果が報告されています。

術後後遺症により身体の右半分に麻痺・疼痛・ジストニアを発症した42歳の女性は、次第に車椅子に乗ることが困難になり、字も書けなくなっていきました。様々な治療が行われるも効果はなく、むしろ副作用に悩まされることに。しかし、大麻を吸うことでジストニアが著しく改善し、軽い散歩ができるほど歩けるようになり、文字も書けるようになりました。痛みもなくなり、オピオイドの中止にも成功。3ヶ月経った時点でもその効果は持続していたと報告されています

また、職業性ジストニアに悩む38歳のプロピアニストがTHC5mgを摂取したことで、治療前に演奏できなかった曲が演奏できるようになった症例や、ウィルソン病による全身性ジストニアを有していた25歳の患者が大麻を喫煙したことで著しい改善が認められた症例も存在。

眼瞼けいれん(局所ジストニア)に対しボツリヌス療法を行っていた患者が補助的に医療用大麻を使用した結果、4名のうち3名で症状の改善が認められたという研究報告もあります

いずれにせよ、ジストニアに対する医療用大麻やカンナビノイドのエビデンスは現時点でまだまだ不十分。しかしながら、アメリカの一部の州やイスラエルなどの国では、医療用大麻の適応症にジストニアが含まれています。

イスラエルにおける調査研究

そこでイスラエルの研究チームは、新たなエビデンスを追加するべく、「Tel Aviv Sourasky Medical Center」に通院し、ジストニアまたは眼瞼けいれんに対し医療用大麻を使用していた患者を対象とした調査を実施。2年分(2019年1月1日〜2021年1月1日)のカルテ情報を振り返った後、それぞれの患者と面談し、調査を行いました。

調査では個人や病気に関連した基礎情報に加え、大麻の使用状況、有効性、副作用が調べられ、評価されました。

参加者はジストニア、痛みQOLに対する医療用大麻の満足度を5段階(1:非常に不満〜5:非常に満足)で評価し、さらにジストニアに関しては、治療開始前からどの程度改善したかを0%(効果なし)〜100%(症状消失)で評価しました。

THC主体の製品がメイン

研究参加者は23名(男性12名、平均年齢52.7歳)。ジストニアの表現型別では、局所性6名、分節性5名、多巣性1名、片側性2名、全身性9名。13名が特発性、4名が遺伝性、6名がパーキンソン病治療薬(レボドパ)による副作用としてジストニアを発症。14名が医療用大麻に加え、その他の薬物療法を受けていました。

医療用大麻の使用期間は平均2.5年で、摂取頻度は平均3.3回/日。製品に含まれていた平均THC濃度は10.6%、CBD濃度は8.0%で、推定摂取量はTHC101.4mg/日、CBD51.4mg/日。なお、イスラエルのガイドラインによれば、ジストニアに対し初回に処方されるのは、THC:CBD=10:2の製剤(20g/月)となっています。

最も好まれた摂取方法は喫煙または気化摂取(47.8%)で、オイルが43.5%、喫煙とオイルの両方が9%でした。

ジストニア、痛み、QOLが改善

医療用大麻の満足度は、ジストニアで平均3.3、痛みで平均3.8、QOLで平均3.6。治療前後のジストニアの改善度は平均47.5%と評価され、肯定的な反応が示されました。

各症状に対する医療用大麻の満足度
出典「A single-center real-life study on the use of medical cannabis in patients with dystonia」

摂取方法による効果の差を検証した結果、吸入摂取(喫煙・気化)ではジストニアの改善率が78.5%であったのに対し、舌下摂取(オイル)では21%となっており、吸入摂取がジストニアの主観的改善と大きく関連していたことが明らかに。

また、広範囲にジストニアを発症していた11名の患者(全身性、片側性、多巣性)は、局所性または分節性ジストニアの患者11名と比較して、より高い有効性を実感していました(前者:平均63%、後者:平均32%)。

さらに、ジストニアの改善と医療用大麻の使用状況との関係性を分析した結果、ジストニアの改善は医療用大麻の消費量、製品のTHC濃度、THC摂取量の3つと正の相関関係にあることが明らかとなりました。

3名が医療用大麻の治療を中断

報告された主な副作用は口渇(65%)、鎮静(43%)、めまい(39%)など。

3名が不安(1名は幻覚も含む)、3名が気分の悪化を報告し、このうち5名の患者はTHC含有率の少ない製品に切り替えるなどすることで改善が認められましたが、1名は治療の中止を余儀なくされました。

他にも2名が有効性がないと判断し、治療を中断。

治療を中断した3名のうち、2名は治療開始数週間以内に、1名は治療開始から2年後に医療用大麻の使用を中断しました。

これらの結果から、研究者らは「THCを含有した医療用大麻製品は、広範囲に症状を認めるジストニア患者にとって、大麻ベースの医薬品の治療効果に関するさらなる研究の出発点として有望な可能性があります」と結論づけています。

しかし、研究参加者が少ないことや、同意した患者のみが研究に参加していることでバイアス(偏り)のリスクもあることから、今後もさらなる研究が必要であるとしています。

今回の研究以外にも最近、ジストニアに関する医療用大麻の研究報告が2つなされています。

イスラエルの研究チームは、ボツリヌス療法で改善が認められなかった眼瞼けいれんを有する患者をそれぞれ大麻オイル群(3名)、プラセボ群(3名)にランダムに振り分け、12週間の治療を実施。有効性をできる限り公平かつ正確に評価するため、患者及び治療者はそれぞれどの薬剤を使用しているか把握できないようにされました(前向きランダム化二重盲検プラセボ対照試験)。

その結果、大麻オイル群ではプラセボ群と比べ、眼瞼けいれん発作の持続時間が短く、発作回数も少ないことが明らかとなり、大麻オイルがボツリヌス療法の補助療法となる可能性が示されました。

米国カリフォルニア州の研究チームは、けいれん性発声障害(喉頭ジストニア)を有する患者158名(女性133名、平均年齢64.9歳)にアンケートを行った結果、53.8%が治療目的でカンナビノイドを使用した経験があり、このうち42.4%が「やや効果的」、45.9%が「効果がない」と評価したことを報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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