ニューヨーク州でオピオイドを使い続けていた慢性疼痛患者において、医療用大麻の長期使用がオピオイドの使用量を減少させていたことが、州の保健省や大麻管理局の研究者らにより1月30日に報告されました。この論文は医学誌「JAMA Network Open」にて掲載されています。
この研究は、医療用大麻データ管理システム(MCDMS)とニューヨーク州処方監視プログラムレジストリ(PMP)から抽出したデータを元に、慢性疼痛患者における医療用大麻の使用がオピオイドの使用に及ぼす影響を8ヶ月間調べたものです。
対象となったのは、120日以上(あるいは10回以上)オピオイドを処方を受け、医療用大麻の治療を開始した慢性疼痛患者。医療用大麻の使用を30日以上継続した4,041名(47〜65歳・中央値57歳、女性58.8%、以下、長期使用者と表記)と、30日未満のみ使用した4,124名(44〜62歳・中央値54歳、女性57.5%、以下、短期使用者と表記)の合計8,165名において、両グループ間の比較が行われました。
オピオイドには様々な種類の薬剤があることから、使用量を標準化するために、全てモルヒネミリグラム当量(MME)に換算されました。
医療用大麻の使用前、約半数が50MME未満、3分の1以上が90MME以上、残りは50〜90MME未満の量でオピオイドを使用。1日使用量の平均は短期使用者で31.4MME、長期使用者で30.7MMEとなっていました。
以下、医療用大麻使用から8ヶ月後の変化を、ベースライン時におけるオピオイドの使用量別に記載。
・オピオイドの使用量が50MME未満/日だった患者
短期使用者では30.0MME/日となり、ベースライン(31.4)から4%減少。長期使用者では16.0MME/日となり、ベースライン(30.7)から48%減少。
・オピオイドの使用量が50〜90MME未満/日だった患者
短期使用者では60.8MME/日となり、ベースライン(66.6)から9%減少。長期使用者では35.4MME/日となり、ベースライン(66.9)から47%減少。
・オピオイドの使用量が90MME以上/日だった患者
短期使用者では149MME/日となり、ベースライン(174.0)から14%減少。長期使用者では87.2MME/日となり、ベースライン(176.2)から51%減少。

図を見てみると、医療用大麻を使用する期間が長くなるほど、オピオイドの使用量が減少していることが分かります。
以上のことから、オピオイドを長期使用していた慢性疼痛患者において、医療用大麻を長期に渡り使用するほど、オピオイドの使用量が有意に減少することが明らかとなりました。
研究者らは「本研究により、医療用大麻の長期使用は、オピオイドの使用量減少と関連していることが明らかとなった。この減少は、ベースライン時に高用量のオピオイドを処方されている患者において、特に大きかった。これらの調査結果は臨床医にとって、オピオイドを長期使用している患者の負担を軽減し、おそらく過剰摂取のリスクを減少させるという、医療用大麻の潜在的なベネフィットに関する確固たるエビデンスとなるだろう」と結論付けています。
今回の研究では、医療用大麻の使用量や種類、THCやCBDなどカンナビノイドの比率が不明となっているため、今後はこれらを踏まえた上での検証や、医療用大麻をオピオイドの代替及び併用療法として使用することの利点とリスクについて評価する必要があるとしています。
2023年1月18日に公開された別の論文では、アメリカの州レベルの嗜好用大麻の合法化がコデイン(麻薬性オピオイド鎮痛薬)の調剤量の減少と関連していたことが、コーネル大学の研究者らによって報告されています。
これらの報告は、オピオイド危機が問題となっているアメリカにおいて、大きな意味を持つと言えそうです。
※オピオイド危機について
オピオイド鎮痛薬は現時点で最も効果の高い鎮痛薬であるが、アメリカではこのオピオイドの過剰摂取や誤用が社会問題となっており、1999年から2019年にかけ、これらによる死亡者数は約4倍になったことが報告されている。
なお、オピオイドによる死亡原因は主に「呼吸抑制」である。