慢性疾患患者、医療用大麻の使用によって症状やQOL改善 オピオイドの減薬・断薬も

慢性疾患患者、医療用大麻の使用によって症状やQOL改善 オピオイドの減薬・断薬も

- イギリスの観察研究

5月2日、慢性疼痛、不安障害、PTSDなどの慢性疾患患者が医療用大麻の使用により、疾患特有の症状、一般的な健康状態、QOLの改善に加え、オピオイドの減薬・中止を認めていたことがイギリスの研究者らにより報告されました。論文は「Drug Science, Policy and Law」に掲載されています。

イギリスは2018年に医療用大麻を合法化。しかし、医療用大麻における国民健康サービス(NHS)の適応は限られており、医療用大麻の治療を希望する多くの患者は民間クリニックで自費治療を受けています。このような状況に対し、国内の民間クリニックは、患者ができるだけ安価で医療用大麻の治療を受けられるよう奮闘しています

一方、イギリスには「Project Twenty21(T21)」と呼ばれる登録制度があります。この制度に登録した患者は、医療用大麻による治療を割引価格で受けることが可能になるとともに、治療経過からデータが収集されます。収集されたデータはドラッグ・サイエンス社によって国に提出され、必要に応じて医療用大麻を国民健康サービスで利用できるよう働きかけられます。

今回の研究はこのドラッグ・サイエンス社の研究チームによるもので、「T21」に登録された慢性疾患患者のデータから、医療用大麻の有効性と安全性を評価するための観察研究が行われました。

研究参加者はベースライン時で2,833名(男性64.3%、平均年齢40.3歳)。最も多かった疾患は慢性疼痛(52.1%)で、次いで不安障害(31.7%)、PTSD(6.1%)。このうち92.3%が併存する病状を報告。また、54.4%が日常的に大麻を薬として使用していると報告しました。

医療用大麻の有効性を評価するため、参加者は治療開始前と治療3か月後において、共通の健康状態及び疾患特有の症状に関する自己評価尺度に記入を行いました。

共通の健康状態では、一般的健康状態(EQ-VAS)、健康関連QOL(EQ-5D-5L)、気分(PHQ-9)、睡眠の質(PSQI)を評価。疾患特有の症状は、不安障害(GAD-7)、慢性疼痛(Brief Pain Inventory)、PTSD(PCL-C)でそれぞれ評価を実施。また、慢性疼痛患者では、オピオイドの使用状況についての報告も求められました。

健康状態、QOL、疾患特有症状において中程度以上の改善を報告

医療用大麻による治療開始から3か月後のフォローアップにおいて、1,410名のデータが入手されました。

この研究では、参加者が記入したベースライン時と治療3か月後の自己評価尺度に基づいて、「Cohen’s D」を算出。Cohen’s Dとは、2つのグループ間における平均値の差を示す指標のことで、効果の程度を表します。具体的に、0.2を小さい効果、0.5を中程度の効果、0.8を大きい効果と判断します。

共通の健康状態では、一般的健康状態(EQ-VAS)、健康関連QOL(EQ-5D-5L)、気分(PHQ-9)、睡眠の質(PSQI)の全てにおいて改善が報告され、Cohen’s Dは0.5〜0.79で、中程度の効果が認められていたことが明らかに。

疾患特有の症状も慢性疼痛、不安障害、PTSD全てにおいて改善が報告され、Cohen’s Dは0.62〜1.17で、中程度〜大きな改善が認められていました

サブグループ解析では、不安障害は慢性疼痛、PTSDよりも改善の程度が大きく、また、大麻未経験者では睡眠の改善の程度が大きいことが示されました。

慢性疼痛患者では、オピオイドの減薬・中止も

ベースライン時と治療3か月後の両方において、慢性疼痛患者800名のデータを入手。

このうち、ベースライン時にオピオイドの使用を報告したのは55.1%でしたが、3か月後には22.1%へと減少。つまり、医療用大麻の使用により59.9%がオピオイドの使用を中止したことになります。

報告されたオピオイドの使用量は、全てモルヒネミリグラム当量(MME)に換算されました(オピオイドには様々な種類があるため、標準化する必要がある)。ベースライン時の1日あたりの平均MMEは22.5でしたが、3ヶ月後には8.3にまで減少。Cohen’s Dは0.29でやや小さい効果となっていました。

ほとんどがTHC優位の大麻製品を使用

54種類の医療用大麻製品において、1人あたり平均2.01種類の処方が行われていました(1種類:31.2%、2種類:46.5%、3種類以上22.3%)。

ほとんどの人(全処方の64%)がTHC優位のドライフラワーを使用。それ以外には、THC優位のオイル(17.8%)、THCとCBDが同比率のオイル(11.8%)、CBD優位のオイル(4.5%)、THCとCBDが同比率のドライフラワー(1.4%)、CBD優位のドライフラワー(0.5%)の使用が報告されました。

医療用大麻の忍容性は良好

医療用大麻による副作用は41名から94件報告され、そのほとんどが軽度〜中程度と評価されました。

最も多く報告された副作用は口渇(15件)で、次いで眠気(11件)、目の充血(11件)、不安(10件)、頭痛(9件)、パラノイア(8件)、めまい(7件)、疲労(6件)など。

以上の結果から研究者らは、比較的大規模なこの研究において、医療用大麻の使用が「様々な慢性疾患における症状の軽減やQOLの改善と関連しており、大きな可能性を示しています」「これらの結果は、大麻が様々な症状の治療に安全かつ効果的であるという、数十年(あるいは数千年)かけて収集された急成長中のリアルワールドエビデンスと一致するものです」と述べています。

さらに、今後も継続的な研究は必要としつつも、「蓄積された証拠を考慮すると、医療専門家が過去に大麻の有効性を十分に研究してこなかったことを理由として、人々によるこれらへのアクセスを拒否することは、ますます通用しないものとなっています」と結論づけています。

医療用大麻は、標準治療で十分な効果が得られない、あるいはその治療の副作用で苦しんでいる慢性疾患患者の代替医療として活用されており、多くの病状において症状やQOLの改善が報告されています。

5月1日、オーストラリアの研究者らは、慢性疾患患者3,148名を対象とした追跡調査において、医療用大麻による治療が様々な病状で健康関連QOLの長期的な改善をもたらしていたことを報告。最も一般的な疾患はがん以外の慢性疼痛(68.6%)、がん性疼痛(6.0%)、不眠症(4.8%)、不安(4.2%)でした。

慢性疾患患者2,833名を対象としたイギリスの前向き研究でも、医療用大麻の使用により健康関連QOL、睡眠の質、不安などの長期的な改善が報告されています。最も多かった慢性疾患はがん以外の慢性疼痛(39.3%)で、次いで不安(23.8%)、線維筋痛症(15.1%)、神経障害性疼痛(11.9%)、PTSD(8%)となっていました。

また、今回の研究では慢性疼痛患者でオピオイドの減薬・中止が報告されましたが、このような報告は他にもみられています。

ニューヨーク州保健省の研究者らは2023年初め、オピオイド使用中の慢性疼痛患者において、医療用大麻の長期使用がオピオイドの使用量を減少させていたことを報告

プエルトリコ大学の調査では、医療用大麻の使用により鎮痛効果が確認され、さらに、回答者の89%がオピオイドよりも大麻のほうが効果的に痛みをコントロールできると報告しています。

フロリダ州立大学の研究者らによる調査では、回答者の90.6%が医療用大麻が自分の疾患や症状に対し「非常に役に立った」「とても役に立った」と回答し、79.3%がオピオイドの減量・中止を報告しています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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