英の民間企業・クリニック、医療大麻の費用負担軽減のため奮闘

イギリス民間企業・クリニック、医療大麻の患者費用負担軽減のため奮闘

- 何百万人もの患者のために

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2018年に医療用大麻を合法化したイギリス。

イギリスの医療サービスには、国が運営する国民健康サービス(NHS)と、私立病院や民間クリニックが運営するプライベート医療サービスの2種類があります。

NHSは税金で運営されており、加入者はGP(General Practitioner:日本で言うところのかかりつけ医)による診察料が原則無料となります。

一方、プライベート医療サービスは自由診療となるため、医療費が高額となります。

NHSの枠で医療用大麻の処方が可能となる状況は非常に限られています。具体的に、他の治療で効果が認められない以下の場合において、各々の大麻由来医薬品の処方が考慮されます。

・2歳以上でクロバザム(ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬)を服用中のドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん)、レノックス・ガストー症候群患者→エピディオレックス 

・化学療法の副作用による悪心・嘔吐を患う成人患者→ナビロン

・多発性硬化症による筋の痙縮やけいれんを患う成人患者→サティベックス

※状況により、慢性疼痛に対しても使用を考慮

なお、2023年3月1日からは、エピディオレックスの適応に結節性硬化症も加えられる予定です。

このように、NHS経由で医療用大麻にアクセスできるのは、限られた患者・医薬品のみとなっています。ですが、イギリスでは、上記以外の慢性疾患に苦しみ、様々な形で医療用大麻の使用を求めている人が大勢います。そのため、多くの人がプライベート医療サービス経由で、未承認の大麻製品を使用しているようです。

NHS Business Services Authority(NHSBSA)の報告によると、2018年11月から2022年7月の間で、認可された大麻由来医薬品の処方はNHSで11,976件、民間で140件である一方、未承認の大麻製品に関しては、NHSで5件未満、民間で89,239件となっていました。

つまり、イギリスでは多くの患者が高額な費用を払って、未承認の大麻製品を使用しているということになります。言い換えれば、経済的に恵まれていない人は、医療用大麻にアクセスするのが困難な状況であるとも言えます。

このような状況に対応するため、医療用大麻を取り扱う医薬品メーカーや民間のクリニックが立ち上がっています。

大麻ベースの医薬品に特化した医薬品メーカーGROW Pharmaは昨年、低所得または障害者給付金を受給している患者、及び退役軍人の患者を対象とし、医療用大麻の割引を行うとした「Grow Access Project」を開始。

このプロジェクトは、同社の製品を扱うINTEGROCARDIFといった民間の医療用大麻クリニックと共同で実施されています。具体的には、通常価格より大麻草1gあたり1ポンド安く、医療用大麻製品の購入が可能となっています。

INTEGROに関しては、プロジェクトに該当する患者のうち、先着500名に対し初診料を無料にするキャンペーンも実施しています。

また最近、別の医療用大麻クリニックMamedicaも、政府から給付金を受給している患者や退役軍人を対象として、ディスカウントを実施することを発表しています。

これにより、条件を満たした患者は初診料200ポンドを支払えば、以降生涯に渡って、診察、処方箋の再発行、クリニックによるサポートを無料で受けることができます。

イギリス成人2,000名を対象としてMamedicaが独自で実施した調査によると、社会的地位がD(肉体労働者)〜E(年金受給者、給付金受給者、アルバイト)の人のうち52%が、過去5年以内で自分の慢性的症状に合う治療を見つけられていないとのこと。また、PTSD患者のうち13%は、現在の治療やセラピーで症状の改善が実感できていないことも明らかになりました。

MamedicaのCEOであるジョン・ロブソン氏は「私たちは患者様との話を通じて、最良の医療用大麻サービスを提供する方法を学び、このプログラムを作りました」「私たちの治療は、他に治療法のない慢性疾患により、生活の質が低下している何百万人もの人々に対し、恩恵をもたらすことができると確信しています。Mamedicaを選んで下さった方々は、”患者様の健康が最優先”という私達の認識のもと、安全に治療を受けることができます」と述べています。

多くのイギリス国民が医療用大麻を求めている中、患者想いの彼らの行動は、大変胸を熱くさせてくれます。ですが、逆を言えば、患者が医療用大麻へのアクセスを可能とするために、「民間」の会社やクリニックがここまでしなければならない状況であるとも言えます。

このような状況に対し、今後イギリスは「国」としてどのように対応していくのでしょうか。

今後のイギリスの経過は、イギリス以上に限定的な形で医療用大麻の解禁を目指している日本において、重要となるかもしれません。

Cannabis Health News「UK cannabis clinic Mamedica launches new access scheme」https://cannabishealthnews.co.uk/2023/02/06/uk-cannabis-clinic-mamedica-launches-new-access-scheme/

Cannabis Health News「NICE recommends Epidyolex for treatment of tuberous sclerosis complex」https://cannabishealthnews.co.uk/2023/02/01/nice-recommends-epidyolex-for-treatment-of-tuberous-sclerosis-complex/

Cannabis Health News「Over 89,000 private cannabis prescriptions since 2018, fewer than five on the NHS」https://cannabishealthnews.co.uk/2023/01/17/over-89000-private-cannabis-prescriptions-less-than-five-nhs/

Cannabis Health News「Cannabis Clinic Cardiff joins Grow Access Project reducing barriers to prescriptions」https://cannabishealthnews.co.uk/2022/09/22/cannabis-clinic-cardiff-joins-grow-access-project-growpharma/

National Health Service「Medical cannabis (and cannabis oils)」https://www.nhs.uk/conditions/medical-cannabis/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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