線維筋痛症患者、医療用大麻の使用により重症度、痛み、睡眠、不安、QOLの改善を報告

線維筋痛症患者、医療用大麻の使用により重症度・痛み・睡眠・不安・QOLの改善を報告

- イギリスの観察研究

5月18日、線維筋痛症患者が医療用大麻の使用により、重症度、痛み、睡眠、不安、QOLの改善を認めていたことがイギリスの研究者らにより報告されました。論文は「Brain and Behavior」に掲載されています。

線維筋痛症とは、全身の筋骨格系の慢性疼痛を主症状とした原因不明の疾患。痛みだけでなく、頭痛やめまい、逆流性食道炎といった自律神経症状、うつ病や不眠といった精神症状など、多様な症状が認められます。40〜50代女性に好発し、日本でも約200万名の患者がいると推定されています。

線維筋痛症に根治治療はなく、痛みや随伴症状に対する対症療法が行われます。具体的には、プレガバリン(神経障害性疼痛治療薬)やトラマドール(弱オピオイド)などの鎮痛薬、抗うつ薬や抗てんかん薬などの鎮痛補助薬による薬物療法に加え、運動療法、認知行動療法、心理療法などの非薬物療法が活用されます。しかし、この中でも薬物療法における有効性は限られており、現在も新たな治療法が求められています。

医療用大麻は主にエンドカンナビノイドシステムに作用することで医療効果を発揮すると考えられています。このような中で、線維筋痛症はエンドカンナビノイドの欠乏が原因となっている可能性が指摘されており、このことから医療用大麻が線維筋痛症に対し有効なのではないかという期待が高まっています。

事実、医療用大麻は一般的に痛み不安睡眠障害に対して用いられることが多く、これらは線維筋痛症の臨床症状によく当てはまるものとなっています。さらに、線維筋痛症の主症状である「慢性疼痛」に対する医療用大麻の有効性には中程度のエビデンスがあるとするシステマティックレビューも存在します。

ただし、線維筋痛症に特化した慢性疼痛に対する医療用大麻のエビデンスは、現時点でまだ限定的となっています

線維筋痛症患者における観察研究

このような背景から、イギリスの超名門校「インペリアル・カレッジ・ロンドン(Imperial College London)」の研究者やロンドンにある医療用大麻クリニック「サファイア・メディカル・クリニック(Sapphire Medical Clinic)」の医師らは、線維筋痛症に対する医療用大麻の有効性や安全性を分析することを目的とした12ヶ月間の観察研究を実施。

研究の対象となったのは、イギリス医療用大麻レジストリ(UKMCR:United Kingdom Medical Cannabis Registry)に登録を行い、サファイア・メディカル・クリニックで医療用大麻による治療を1ヶ月以上継続した線維筋痛症患者306名(女性70.3%、平均年齢44.7歳)。

併存疾患として多かったのは、不安・うつ病(54.3%)、関節炎(32%)、高血圧(12.4%)など。また、48.7%が現在の大麻使用、13.4%が過去における大麻使用経験を報告。大麻未経験者は37.9%となっていました。

医療用大麻の有効性を評価するため、患者は治療開始1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後に、線維筋痛症症状の重篤度(Fibromyalgia Symptom Severity)、痛み(VAS:Visual Analogue Scale)、睡眠の質(SQS:Sleep Quality Scale)、不安(GAD-7:Generalized Anxiety Disorder-7)、治療による状態変化(PGIC:The Patient Global Impression of Change)、健康関連QOL(EQ-5D-5L:EuroQOL 5-dimensions 5-levels)に対する自己評価を実施。また、オピオイドの処方を受けていた患者においては、1日あたりのオピオイドの消費量も算出されました。

※EQ-5D-5Lについて

患者が主観的に健康関連のQOLを評価する尺度。「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」といった5つのドメインに対し、5段階で評価。

医療用大麻の使用により、重症度、痛み、睡眠、不安、QOLが改善

入手可能であった290名(94.8%)のデータを集計した結果、摂取方法として最も多かったのは経口・舌下オイル(40.7%)。喫煙・気化摂取は12.1%、これら両方の組み合わせは47.2%となっていました。

THC摂取量の中央値は100(20〜195)mg/日、CBD摂取量の中央値は20(20〜35)mg/日で、主にTHC優位の製品が使用されていることが明らかに。

医療用大麻を使用した結果、参加者は治療開始1、3、6ヶ月後において、線維筋痛症の重症度、痛み、睡眠の質、健康関連QOL(普段の生活、身の回りの管理、痛み・不快感、不安・抑うつのドメイン)の有意な改善を報告。不安は1、3ヶ月後においてのみ有意な改善が認められ、治療による状態変化では3か月後から6ヶ月後にかけてスコアの上昇(改善)が認められていました。

さらに、ベースライン時にオピオイドの処方を受けていた134名における経口モルヒネ当量の中央値は24(12〜36.8)mg/日でしたが、フォローアップ終了時には20(10〜30)mg/日にまで減少。ただし、この数値に臨床的意義はないと研究者らは述べています。

副作用は23.5%(72名)の患者から979件報告され、この割合はイギリス医療用大麻レジストリ全体の中でも高くなっていました。主な副作用として報告されたのは疲労(24.5%)、口渇(22.6%)、集中力低下(21.6%)、倦怠感(21.2%)、頭痛(20.9%)、傾眠(19.3%)などで、生命を脅かしたり障害を残すほどのものは認められませんでした。

なお、大麻経験者は未経験者と比べ、医療用大麻によって多くの領域で改善が認められ、副作用を経験する割合が少ないことも示されました。

論文の結論部分で研究者らは「本研究の結果、睡眠、不安、健康関連QOLに加え、線維筋痛症特有の症状において関連した改善があることが示されました。大麻の使用歴があると報告した人は、治療効果に対する反応が大きいように思われました。さらに、オピオイドの処方において非臨床的有意な減少が観察されました。大麻ベースの医療製品の忍容性は概ね良好でしたが、線維筋痛症における有害事象の発生率は、イギリス医療用大麻レジストリに含まれる他の疾患よりも高くなっていました」と述べています。

ただし、観察研究という限界からこれらの因果関係を証明することは困難であるため、今後ランダム化比較試験を実施し、有効性を検証していく必要があるとしています。

エビデンスとしてまだ不十分ではあるものの、今回の研究以外にも、CBDやTHCなどのカンナビノイドや医療用大麻が線維筋痛症に対し有効である可能性を示す報告が存在します。

2022年にブラジルの研究者らは、CBDを主成分とした大麻抽出物が線維筋痛症モデルマウスの痛みや抑うつ状態を改善したことを報告

ミシガン医学大学の研究者らによる2021年の調査では、アメリカの線維筋痛症患者2701名のうち32.4%がCBDを使用中であり、痛みを中心とした様々な症状の改善を報告していたことが明らかにされています。

2007年のカナダの研究では、線維筋痛症患者40名がナビロン(合成THC製剤)を使用した結果、プラセボと比較し痛みやQOLに有意な改善が認められています。

線維筋痛症の女性患者30名を対象としたイスラエルの前向き研究では、医療用大麻の治療から1ヶ月後において、QOL、一般的健康状態、心身の健康において著しい改善が認められていたことが報告されています。

カナダのマギル大学とモントリオール大学の研究者らは、線維筋痛症患者323名を対象とした前向き研究において、医療用大麻の使用により痛みの減少が認められていたことを報告。この減少には、抑うつや不安といった否定的感情や睡眠の改善が部分的に関係している可能性があるとしています。

なお、今回の研究では、臨床的な意義は見出されなかったものの、医療用大麻の使用によりオピオイドの減量が認められました。これに関連し、ニューヨーク州保健省の研究者らは2023年初め、オピオイド使用中の慢性疼痛患者において、医療用大麻の長期使用がオピオイドの使用量を減少させていたことを報告しています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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