12月12日、PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者が医療用大麻の使用により主症状、精神症状、QOLなどの改善を認めたことがイギリスの研究者らにより報告されました。
この研究は、医療用大麻を処方されたPTSD患者162名を対象とし、大麻の有効性や安全性を6ヶ月に渡り評価した前向き研究(先に仮説を立て、その後の経過や結果を見て仮説を検証する観察研究)です。
参加者の平均年齢は37.6歳で、男性が59.9%を占め、66.7%が不安障害やうつ病を合併。76.5%が抗うつ薬を服用中で、それ以外にもベンゾジアゼピン系薬(抗不安薬など)や睡眠薬などの服用も報告されました。
参加者の75.3%が治療開始前からすでに大麻を使用していることを報告。63.6%が毎日大麻を使用しており、使用量(1日の使用量<g> x 定期的に大麻を使用している年数)の中央値は10でした(※イギリスでは嗜好用大麻は違法ですが、社会的には寛容)。
大麻の有効性は治療開始から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に、参加者が主観的に状態を報告したものを数値化することによって評価。具体的に評価された状態(スケール)はPTSDの症状(IES-R:Impact of Event Scale-Revised)、健康関連QOL(EQ-5D-5L:EuroQOL 5-dimensions 5-levels)、睡眠の質(SQS:Sleep Quality Scale)、不安(GAD-7:Generalized Anxiety Disorder-7)、全体的な状態の変化(PGIC:The Patient Global Impression of Change)でした。
検証の結果、期間中全ての時点において、PTSDの症状(IES-R)、睡眠の質(SQS)、不安(GAD-7)で有意な改善が認められ、PTSD症状の中でも特に「過覚醒状態」において大幅な改善が報告されました。
※過覚醒状態とは?
PTSDの症状の1つ。ストレスのかかる状況でなくても、身体の中で慢性的にストレス反応が起きている状態。イライラ、集中困難、神経過敏、不眠などの症状が認められる。
健康関連QOL(EQ-5D-5L)に関しては「普段の生活」「不安・抑うつ」のドメインは全ての時点で、「身の回りの管理」と「痛み・不快感」は1ヶ月後と3ヶ月後で、「移動の程度」は3ヶ月後において有意な改善が認められました。
※EQ-5D-5Lについて
患者が主観的に健康関連のQOLを評価する尺度。「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」といった5つのドメインに対し、5段階で評価する。
興味深いことにPTSDの症状(IES-R)については、もともと大麻を使用している人では全ての時点において改善が認められたものの、大麻使用経験のない人では有意な改善が認められていませんでした。
医療用大麻の摂取方法で最も多かったのはヴェポライザーによるドライフラワーの喫煙(49.4%)。それ以外ではオイルの経口・舌下摂取が11.7%、喫煙とオイルの併用が29.6%(残りはデータ入手できず)。
摂取量の中央値はCBD5mg/日(0〜70mg/日)、THC145mg/日(100〜200mg/日)で、大多数の人がTHCをメインに大麻を摂取していました。
医療用大麻による副作用は33名から報告されましたが、軽度〜中程度のものが多く、生命に影響を及ぼすような重篤な副作用は認められませんでした。最も多く報告されたのは疲労感と不眠(12.4%)で、次いで頭痛(9.3%)、口渇(9.3%)、集中力低下(8.6%)。副作用の発症期間の中央値は1日〜10.5日でした。
これらの結果から研究者らは、PTSDに対する6ヶ月間の医療用大麻の使用は忍容性が高く、副作用が起きたとしても管理が可能であるとし、有効性に関しては観察研究の限界から、今後プラセボ(偽薬)と比較することによって検証していく必要があると述べています。