医療大麻使用により、慢性疾患患者がQOLの改善を報告

医療大麻使用により、慢性疾患患者がQOLの改善を報告

- イギリスの観察研究

2月27日、医療用大麻の使用によって慢性疾患患者のQOL改善が認められたことが、イギリスの研究チームにより報告されました。論文は「Expert Review of Clinical Pharmacology」に掲載されています。

研究対象となったのは、ロンドンにある医療用大麻クリニック「サファイア・メディカル(Sapphire Medical)」に受診し、イギリス医療用大麻レジストリ(UKMCR:United Kingdom Medical Cannabis Registry)に登録を行った慢性疾患患者。これらの患者データを追うことで、医療用大麻が健康関連QOLに及ぼす影響が調べられました(前向き研究)。

医療用大麻の有効性を評価するため、患者は治療開始1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後(その後は6ヶ月ごと)に、健康関連QOL(EQ-5D-5L:EuroQOL 5-dimensions 5-levels)、睡眠の質(SQS:Sleep Quality Scale)、不安(GAD-7:Generalized Anxiety Disorder-7)、治療による状態変化(PGIC:The Patient Global Impression of Change)に対する自己評価を実施。

解析対象に含まれた患者数は2,833名(平均年齢42.2歳、男性56.9%)。自己評価を実施した患者は1ヶ月後で2,314名、3ヶ月後で1,598名、6ヶ月後で953名、12ヶ月後で208名となっており、平均フォローアップ期間は226.2日でした。

報告された慢性疾患は全部で31種類。このうち最も多かったのはがん以外の慢性疼痛(39.3%)で、次いで不安(23.8%)、線維筋痛症(15.1%)、神経障害性疼痛(11.9%)、PTSD(8%)など。

医療用大麻の摂取方法(2,614名が回答)として多かったのは、オイルの経口・舌下摂取(30.3%)、ドライフラワーの気化摂取(23.7%)、これらの組み合わせ(38.2%)。一般的に使用された製品は、THCオイル(20mg/ml)、CBDオイル(50mg/ml)、ドライフラワー(THC19%、CBD0.1%未満)など。1日あたりのカンナビノイドの摂取量の中央値は、CBDが20mg、THCが110mgでした。

医療用大麻の使用により、健康関連QOL(EQ-5D-5L)は1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後において「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」全てのドメインで改善。12ヶ月後では「普段の生活」を除く全てのドメインで改善が認められました。

※EQ-5D-5Lについて

患者が主観的に健康関連のQOLを評価する尺度。「移動の程度」「普段の生活」「身の回りの管理」「痛み・不快感」「不安・抑うつ」といった5つのドメインに対し、5段階で評価する。

不安(GAD-7)と睡眠の質(SQS)に対する自己評価も、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後で有意な改善が報告されました。

期間ごとに改善の程度を比較した結果、各評価とも1ヶ月後と3ヶ月後の間で改善が認められていましたが、3ヶ月後と6ヶ月後、6ヶ月後と12ヶ月後の間においては差がみられず。これは言い換えれば、3ヶ月後までに認められた改善が、その後も持続していたことを意味します。

治療開始6ヶ月以降でも健康関連QOLの改善が認められる要因を分析した結果、その要因として「BMI(Body Mass Index)30以上」「女性」が特定されました。このことは、肥満または女性において、医療用大麻の有効性が高くなる可能性を示しています。

※BMIとは?

肥満度を示す指数。

BMI=体重(kg)÷ {身長(m)の2乗}

18.5未満は痩せ、18.5〜25未満は標準、25以上は肥満と判断される。

大麻使用は耐性を生じる可能性があることで知られているため、嗜好用大麻の使用状況別における解析も実施されました(※イギリスでは嗜好用大麻は違法だが、社会的には寛容)。

71.3%の慢性疾患患者が現在あるいは過去の大麻使用を報告。1ヶ月後においてのみ、現在及び過去の大麻使用者は未経験者よりも健康関連QOL(EQ-5D-5L)で大きな改善を報告し、それ以外の時点では差がみられませんでした。つまり、ベースで大麻を使用している人でも、医療用大麻から恩恵を受けられることが示された形となりました。

医療用大麻による副作用は16.7%の患者から5,176件報告され、ほとんどが軽度(77.7%)あるいは中等度(79%)のものでした。具体的に多かったのは疲労感(14.4%)、口渇(12.3%)、傾眠(11%)、倦怠感(10.9%)、不眠(10.6%)など。

副作用が認められやすい要因を分析した結果、「女性」では副作用を報告する割合が高く、一方、「現在の大麻使用者」ではその割合が有意に少なかったことが明らかとなりました。

これらの結果から、研究者らは「この観察研究では、慢性疾患患者において、大麻由来製品による治療の開始から12カ月に渡り一般的な健康関連QOL、または睡眠と不安に特化した症状の改善と関連することが示された。ベースライン時に違法な大麻を摂取していた参加者が医療用大麻を開始した後も改善を経験した。ほとんどの患者は治療によく耐えたが、大麻由来製品を開始する前には副作用のリスクを考慮する必要がある。特に女性や大麻未経験者は、副作用を経験する可能性が高くなる」と述べています。

この研究には、比較対照群がいないという限界があります。また、イギリスでは従来の治療で改善しない病状に対して医療用大麻の使用が認められることから、研究参加者の病状の多くは中等度〜重度であると考えられるため、病状が軽度な患者では有効性が認められない可能性があるとも述べられています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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