17年間に渡り神経痛に苦しんだ女性 医療大麻使用により「人生のセカンドチャンスを与えられた」

17年間神経痛に苦しんだ女性 医療大麻により「人生のセカンドチャンスを与えられた」

- イギリスの症例報告

大麻は鎮痛作用があることが知られており、特に慢性疼痛に対しては、「中程度のエビデンスがある」と結論づけたシステマティックレビューも存在します。

2023年3月に公開されたイギリスの国民健康サービス(NHS)のデータでは、2021年から2022年にかけ、認可された大麻由来医薬品の処方数は45%増加していたことが明らかになっています

しかし、イギリスにおける医療用大麻へのアクセスはまだまだ限定的であり、慢性疼痛に対する医療用大麻の処方は基本的に推奨されていません。そのため、大麻による治療を望む慢性疼痛患者は、民間クリニックにおいて自費で治療を受けなければなりません。このような状況に対し、国内の民間クリニックは、患者ができるだけ安価で医療用大麻の治療を受けられるよう奮闘しています

一方、イギリスには「Project Twenty21(T21)」と呼ばれる登録制度があります。この制度に登録した患者は、医療用大麻による治療を割引価格で受けることが可能になるとともに、治療経過からデータが収集されます。収集されたデータはドラッグ・サイエンス社によって国に提出され、必要に応じて医療用大麻を国民健康サービスで利用できるよう働きかけられます。

今回ご紹介するのは、この「T21」に登録した61歳の女性の症例。17年間神経障害性疼痛に苦しんだこの女性は、医療用大麻の使用により「人生のセカンドチャンスが与えられた」と語っています。

医療用大麻による治療までの経過

2001年、腱炎により手術を受けた後、特発性小径線維ニューロパチーを発症。

小径線維ニューロパチーとは末梢神経障害の1つで、多くの場合、手足の強い痛みから始まります。「焼けるような痛み」「チクチクするような痛み」などと表現され、通常では痛みが生じない程度の刺激で痛みを感じる「アロディニア(異痛症)」も認められます。

女性はこの神経痛に対し、神経障害性疼痛を緩和する薬であるプレガバリン(リリカ)を、1回300mgの用量で1日に2回服用(プレガバリンの最高用量)。それ以外にも非ステロイド性抗炎症薬(N-SAIDs)、抗うつ薬や抗てんかん薬などの鎮痛補助薬、カプサイシン外用薬などを組み合わせて使用し、17年間治療を続けてきました。

これらの治療により、痛みは比較的コントロールされていましたが、難聴、眠気、耳鳴り、錯乱、不安の増悪など、プレガバリンの長期服用による副作用と考えられる症状に悩まされ続けていました。

2021年1月、女性はGP(General Practitioner:日本で言うところのかかりつけ医)のもとへ受診。内服薬をプレガバリン(300mgx2回/日)の単剤のみとし、加えて市販のCBDをオイルにて30〜60mg/日の用量で摂取。

約6ヶ月後、CBDとプレガバリンの併用により鎮痛効果を得た彼女は、耳への悪影響に対する懸念から、プレガバリンの服用中止を希望。しかし、1回量が200mgを下回ると症状が再燃したことから、これ以上の減薬を断念。2021年4月より、鎮痛補助薬であるデュロキセチン(30mg/日)を追加しプレガバリンの減量を再度試みましたが、350mg/日以下の用量にすると耐え難い苦痛が生じました。

医療用大麻による治療

2021年6月、女性はT21を紹介され、8月初旬に登録。1mlあたりTHC10mg・CBD15mgを含む大麻抽出物(オイル)が処方され、必要に応じて1日に2回、1回0.1〜0.5mlの用量で服用を開始。

増量は2日ごとに0.1mlの用量で、徐々に行うよう指示されました。

医療用大麻の治療効果

大麻抽出物の使用開始時より、眠気の副作用が出現。そのため、増量は3〜5日ごとに0.1mlの用量で慎重に行われました。なお、これについて研究者は、大麻抽出物とプレガバリンによる相互作用により鎮静作用が増強された可能性があるとしています。

8月末には大麻抽出物を1回0.2〜0.4mlの用量で1日2回服用することで、プレガバリンの服用量を175mg/日にまで減量。9月から翌年1月までの間で、大麻抽出物の服用量は0.3ml/回(0.6ml/日)の量で安定し、プレガバリンの服用量は37.5mg/日にまで減量。女性はさらなる減量も可能だと感じており、プレガバリンの中止を目指しています。

副作用として、眠気以外にも鮮明な夢をみることがあることから、午後4時以降には大麻抽出物を服用していないとのこと。

医療用大麻による治療を受けてから約4ヶ月後。女性は「人生のセカンドチャンスを与えられた」と感じており、夫は彼女を「新しい女性」と表現しています。

研究者らは、症例報告から一般的な結論を導き出すことはできないとしつつも、「医療用大麻は臨床医に新たな治療の選択肢を提供し、特に、推奨される治療が全てうまくいかなかったり、部分的な鎮痛効果しか得られなかった場合に考慮されるべきである」としています。

また、症例の女性は以下のように述べています。

私は17年以上前から末梢神経障害を患っており、あらゆる種類の薬や治療法(伝統医療や代替医療)を数え切れないほど試してきました。ケタミン輸液も受けたことがありますし、脊髄刺激療法も2度試したことがあります。けれど、「T21」で処方された大麻の鎮痛効果に及ぶものは、何一つとしてありませんでした

私は薬の副作用に苦しみ、診断の初期には抑うつ状態にもなりました。常に痛みがあるので当然ながら気分は落ち込んでいましたが、今ではほとんど痛みを感じません。以前より2倍のことができるようになり、よりアクティブになりました!

治験に参加するよう私を説得してくれた、かかりつけ薬局の薬剤師ピーター・サンダーランドにとても感謝しています。家族も友人もみんな、私が今どれだけ元気で幸せか、口を揃えて話してくれます。

イギリスでは今年3月、慢性疼痛患者を対象とした国内初のオンライン医療用大麻クリニック「トリートイット(Treat it)」が開設。イギリスには偏頭痛、坐骨神経痛、がん性疼痛、関節痛、多発性硬化症、神経障害などの慢性疼痛を抱える患者が約800万人いるとされ、オピオイドなどによる現在の治療を医療用大麻に切り替えることで、約300万人の患者が恩恵を受けると推測されています。

プエルトリコ大学の研究チームが医療用大麻患者を対象に実施した調査では、医療用大麻の使用により鎮痛効果が確認され、さらに、回答者の89%がオピオイドよりも大麻のほうが効果的に痛みをコントロールできると報告しています。

フロリダ州立大学の研究者らによる調査では、回答者の90.6%が医療用大麻が自分の疾患や症状に対し「非常に役に立った」「とても役に立った」と回答し、79.3%がオピオイドの減量・中止を報告しています。

ニューヨーク保健省の研究者らは、医療用大麻データ管理システム(MCDMS)とニューヨーク州処方監視プログラムレジストリ(PMP)から抽出したデータを分析した結果、オピオイドを長期使用していた慢性疼痛患者において、医療用大麻を長期に渡り使用するほど、オピオイドの使用量が有意に減少していたことを明らかにしています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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