不安・PTSD患者、医療用大麻の使用で不安、抑うつ、疲労、社会活動が改善

不安・PTSD患者が医療用大麻の使用で不安、抑うつ、疲労、社会活動が改善

- オーストラリアの観察研究

不安障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を有する患者が医療用大麻を使用したことで不安、抑うつ、疲労、社会活動において改善を認めていたことがオーストラリアの研究チームにより報告されました。論文は「Journal of Pharmacy Technology」に掲載されています。

不安障害は最も身近な精神疾患ですが、標準治療で完全寛解に至る人は限定的。PTSD患者においても、およそ3分の1が標準治療で有効性が認められていません。また、ベンゾジアゼピンやSSRIなどの抗不安薬では依存性や副作用がしばしば問題となっています。

医療用大麻は主に「痛みの緩和」のために使用されていることで知られていますが、これに次いで多いのが「不安の緩和」です。

医療用大麻を使用している不安患者を対象とした観察研究

不安障害に対する医療用大麻の有効性と安全性を評価するため、オーストラリアの研究チームは現在進行中の「CACOS(CA Clinics観察研究)」のデータを用いて分析を実施。

CACOSでは慢性疼痛、精神疾患、神経疾患のために医療用大麻を使用している患者において、患者報告アウトカム(PRO)を用いたデータが収集されています。

今回の研究では、CACOSのうち不安障害のために医療用大麻を使用し、患者報告アウトカムに1回以上回答した人が解析対象とされました(2018年9月〜2021年6月)。

医療用大麻の有効性の評価には、患者報告アウトカムの1つである「PROMIS-29」を活用。このうち、過度の不安、疲労睡眠障害、社会的役割や活動に参加する能力(以下、「社会活動」と表記)、抑うつのドメインにおいて最終スコアを算出し、治療前後の値を比較。この結果をもとに、臨床的に「改善」「変化なし」「悪化」のいずれかに分類されました。

使用されていた医療用大麻製品の種類は患者によって異なっていたため、大きく「CBD単独」「CBD優位」「THCとCBDが同比率」「THC単独」「THC優位」の5つのグループに分けられました。ここで言う「優位」とは、その成分が他と比べて1.5倍以上含まれていることを指します。

また、この研究では使用量を明確に把握するため、オイルやカプセルを服用している患者のみが対象とされました。

不安・抑うつ・疲労・社会活動が有意に改善

198名(女性53%、年齢中央値48歳)が解析対象となり、このうち141名が特定不能の不安、57名がPTSD患者となっていました。

医療用大麻の摂取量の中央値は全体でCBD50mg・THC4.4mg/日、「CBD単独(112名)」で100mg/日、「CBD優位(20名)」でCBD25mg・THC6.3mg/日、「THCとCBDが同比率(96名)」でTHC・CBD20mg/日、「THC単独(10名)」で38mg/日、「THC優位(18名)」でCBD6mg・THC33.8mg/日。

全体の52.5%で不安の改善がみられ、それ以外にも抑うつ(42.4%)、疲労(48%)、社会活動(46%)において有意な改善が報告されました。これらの改善は「CBD単独」「THCとCBDが同比率」「THC優位」の製剤と有意に関連。一方、睡眠障害(13.1%)では改善がほとんどみられていませんでした。

PTSDと診断された人々では、52.6%で不安が改善し、抑うつ、疲労、社会活動においても有意な改善が認められていました。「CBD単独」は不安・抑うつの改善と関連した唯一の製剤であり、疲労と社会活動の改善においても関連性が有意となりました。

他にも「THCとCBDが同比率」の製剤では抑うつが改善される可能性が高く、疲労と社会活動の改善とも有意に関連。疲労の改善は「THC単独」の製剤とも有意に関連していました。

特定不能の不安患者では、全ての製剤で不安が有意に改善。抑うつでは「CBD単独」「THCとCBDが同比率」、疲労では「CBD単独」「CBD優位」「THCとCBDが同比率」「THC優位」、社会活動では「CBD単独」「CBD優位」「THCとCBDが同比率」の製剤が各症状の改善と有意に関連していました。

ただし、分散分析(ANOVA)では大麻製剤の種類と健康の転帰に有意差はなく、これは不安の種類を考慮しても同様という結果に。また、ロジスティック回帰分析により、各症状の改善とCBD・THC用量との間でも関連性がないことが確認されました。

60%が少なくとも1件の副作用を報告

医療用大麻の副作用における分析では568名(女性53.5%、年齢中央値48歳)が解析対象に含まれ、60%の患者から合計で1,314件の副作用が報告されました。

医療用大麻の摂取量の中央値は全体でCBD40mg・THC5mg/日、「CBD単独(297名)」で90mg/日、「CBD優位(75名)」でCBD27mg・THC8mg/日、「THCとCBDが同比率(257名)」でCBD18.8mg・THC19mg/日、「THC単独(19名)」で33mg/日、「THC優位(51名)」でCBD4mg・THC30mg/日。

最も報告された副作用の種類は「精神系」(41%)で、具体的には傾眠(31.3%)、不安(9.5%)、多幸感(5.1%)など。

それ以外の一般的な副作用として多かったのは、口渇(32.6%)、疲労(18.5%)、めまい(10.9%)など。1人の患者が経験した副作用の最大数は13件でした。

副作用が報告された割合が最も高かった大麻製剤は「CBD単独」(40.4%)で、傾眠(29.9%)と口渇(29.3%)が多く報告されました。

ロジスティック回帰分析では、THCと胃腸系の副作用、特に口渇と吐き気との間に有意な関連性が認められましたが、臨床的に有意である可能性は低いとされました。

これらの結果から、研究者らは「本研究において、医療用大麻を服用した参加者は不安障害の不安、抑うつ、疲労、社会的活動への参加能力の患者報告アウトカムを有意に改善したと報告しました。全参加者サンプル及び特定不能の不安障害とPTSDのサブセットにおいて、これら4つの転帰をすべて改善した唯一の製剤はCBD単独でした。参加者が経験した最も一般的な副作用は、口渇、傾眠、疲労でした」と述べています。

ただし、この研究は参加者の主観的評価に基づくものであることからバイアス(偏り)のリスクがあること、そして観察研究という限界から、医療用大麻の使用は今回報告された改善と「関連」はするものの「直接の要因」とは断定できないとしています。

今後の研究では、不安障害に最適な医療用大麻の投与量・投与方法・カンナビノイド比率の確立を目指す必要があり、また、社会不安障害や全般性不安障害など他の不安障害に対する医療用大麻の有効性についても、より具体的な分析を行っていくべきだと述べています。

最近イギリスの研究チームは、全般性不安障害で医療用大麻の治療を受けた302名の患者データを分析した結果、治療開始から6ヶ月後で39%が不安、50%が健康関連QOL、35%が睡眠の改善を認めていたことを報告

これと同様の研究は昨年PTSDにおいても行われ  、PTSD症状、睡眠、不安の有意な改善が報告されています。PTSD症状に関しては、特に「過覚醒状態」において大幅な改善が認められていました。

1月に公開されたイスラエルの観察研究でも、標準治療で有効性が認められなかったPTSD患者14名において、医療用大麻の使用がPTSD症状(再体験、回避・麻痺、過覚醒)や睡眠の改善をもたらしていたことが報告されています。

今回の研究では「CBD単独」の製剤が最も良好な転帰をもたらしていましたが、これに関連して米国コロラド州の研究チームは以前、11名のPTSD患者に標準治療と並行してCBD(カプセルまたはスプレー)を経口摂取してもらった結果、4週間後に91%でPTSD症状のスコア(PCL-5)の改善、8週間後には73%でさらなる改善が認められたことを報告

この研究で特徴的だったのは、悪夢を訴えていた人のうち50%でその改善が認められたことです。CBDの平均開始投与量(カプセル、スプレー、あるいはその両方)は33.18mg/日で、8週目では平均48.64mg/日となっていました。

また、今回の研究は大麻の「経口摂取」のみに焦点が置かれていましたが、最近の別の研究では大麻の「気化摂取」においても有効性が報告されています。

カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究者らは、PTSD患者に「THC10±2%・CBD10±2%」または「THC10±2%・CBD1%未満」の大麻を1日2g渡し、ヴェポライザーで3週間自由に気化摂取するよう指示。その結果、最終的な解析に含まれた患者数は5名と少なかったものの、大麻の気化摂取によりPTSD症状スコア(CAPS-5、PCL-5)の改善が認められ、有効性が示されました。

不安とCBD・医療用大麻についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照下さい

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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