これまでの臨床試験の結果から医療用大麻とオピオイドの有効性を比較した結果、医療用大麻はがん以外の慢性疼痛に対してオピオイドと同様に有効であり、オピオイドよりも服用を中止するリスクが少ないことがカナダの研究チームにより報告されました。論文は「BMJ Open」に掲載されています。
痛みを抑える薬にはアセトアミノフェン(カロナール等)、N-SAIDs(ロキソニン、イブプロフェン等)、オピオイド(モルヒネ等)、ガバペンチノイド(リリカ等)などがあります。この中でオピオイドは最も高い鎮痛効果を有しており、日本では主にがん性疼痛に使用されています。
しかし、がん以外の慢性疼痛(特に神経障害性疼痛)では十分な効果が認められない傾向にあります。また、鎮静、吐き気、便秘などの副作用が認められることがあり、過剰な使用では呼吸抑制が認められる危険もあります。
そのため、WHO(世界保健機構)の除痛ラダーが示すように、オピオイドは強い痛みに対して最終手段として使用することが望ましいと考えられています。
このような中、オピオイドの代替として期待されているのが「大麻」です。大麻は鎮痛作用を有することで知られており、特に慢性疼痛において有効性が報告されています。
大麻とオピオイドの有効性と安全性を比較
カナダのマックマスター大学の研究チームは、2021年3月までに報告された臨床試験の結果を分析し、オピオイドと医療用大麻の有効性と安全性を比較する研究を実施(ネットワークメタアナリシス)。
分析対象には、3ヵ月以上非がん性慢性疼痛を抱えた患者が20名以上参加し、4週間以上の追跡が行われたランダム化比較試験(医療用大麻、オピオイド、プラセボのいずれかの間で有効性の比較が行われた臨床試験)が含まれました。
解析対象に含まれた臨床試験は90件。このうち66件はオピオイドとプラセボ、23件は医療用大麻とプラセボ、1件はナビロン(合成THC製剤)とジヒドロコデイン(弱オピオイド)が比較されました。
また、29件が神経障害性疼痛患者、60件が神経障害性疼痛以外の患者、1件が両者混合の患者を研究対象としていました。
なお、医療用大麻の吸入による臨床試験はフォローアップ期間が不十分であったため、今回は解析対象に含まれませんでした。
レビューに組み入れられた参加者全体(22,028名)の平均年齢は56歳で、58%が女性。疼痛を有する平均期間は8.1年で、試験登録時の平均疼痛スコア(VAS:0〜10で痛みの強さを評価、数値が高いほど痛みが強い)は6.05でした。
大麻とオピオイドの有効性は同様
ほとんどの試験(83%)が少なくとも1つの領域でバイアス(偏り)のリスクが高いと判定。また、72%の試験で20%以上の転帰データの欠落が認められました。
このような中、中程度の確実性を持つエビデンスにおいて、オピオイドはプラセボと比較して痛み、身体機能、睡眠をわずかに改善。これと同様に、医療用大麻は低〜中程度の確実性を持つエビデンスにおいて、プラセボと比較してオピオイドと同様の効果をもたらしていました。
医療用大麻とオピオイドの鎮痛効果は、82件の臨床試験(患者19,693名)から得られた確実性の低いエビデンスにより、両者で差がないことが示唆されました。
44件の臨床試験(患者12,727名)から得られた中程度の確実性を持つエビデンスからは、身体機能に対する医療用大麻とオピオイドの有効性は、おそらく両者間でほとんど差がないと判定。
睡眠に対する有効性についても、32件の臨床試験(患者8,201名)から得られた確実性の低いエビデンスを検討した結果、医療用大麻とオピオイドとの間でほとんど差がないことが示されました。
一方、中〜高度の確実性を持つエビデンスでは、医療用大麻とオピオイドは両者ともプラセボと比較して役割、感情、社会的機能において有効性を認めていませんでした。
また、これらから得られたエビデンスは、神経障害性疼痛とそれ以外の慢性疼痛との間で特に差がありませんでした。
副作用による中止は医療用大麻で少ない
副作用による服用中止は、22件のエンリッチメント試験(特定の集団に焦点を当てた臨床試験)と51件の非エンリッチメント試験で報告されました。
中〜高度の確実性を持つエビデンスから、医療用大麻とオピオイドは共にプラセボと比較して、副作用による服用中止が認められる確率が高かったことが明らかに。
エンリッチメント試験における確実性の低いエビデンスは、副作用による服用中止は医療用大麻とオピオイドとの間でほとんど差がないことを示唆。
一方、非エンリッチメント試験における中程度の確実性を持つエビデンスでは、オピオイドよりも医療用大麻のほうが副作用による服用中止が少ない可能性が示されました。
研究者らは論文の結論部分で、非がん性慢性疼痛患者22,028名を登録した90件の試験を分析した結果、「低〜中程度の確実性のエビデンスにより、医療用大麻はオピオイドと比較して疼痛、身体機能、睡眠において同様にわずかな改善をもたらし、有害事象による中止がより少ないことが示された」と述べています。
ただし、今回分析に含まれた臨床試験のほとんどは、大麻とオピオイドの転帰を直接比較していません。そのため、これらの結果は間接的な比較から導き出されています。
このことから、研究者は「今後の研究では、慢性疼痛に対するオピオイドと大麻の有効性を直接比較し、長期的な有益性と有害性を知るために患者を十分に追跡調査すべきである」と述べています。
アセトアミノフェン、N-SAIDs、オピオイドに続く新たな選択肢として、慢性疼痛に対する大麻の使用を支持するエビデンスが近年着実に積み重ねられています。
米国保健福祉省(HHS)は2023年8月、大麻に医療効果があることを認め、その文書の中で「有効性に関する最大のエビデンスは、疼痛(特に神経障害性疼痛)の適応における大麻の使用で存在する」と明記しています。
アイルランドの保健研究委員会(HRB)は医療用大麻の有効性と安全性を包括的に評価した結果、神経障害性疼痛に関するエビデンスは「有望」であり、「中〜高度の確実性を持つエビデンスは大麻、混合カンナビノイド、THC:CBD(同比率)の顕著な有益性を示した」と報告しています。
最近の観察研究では、がん、女性の骨盤痛、線維筋痛症、多発性硬化症、ジストニア、腰背部痛、脊髄損傷などの慢性疼痛において、大麻の有効性が報告されています。
このような中、米国の非営利医療委員会「The Board of Medicine」は2023年8月、オピオイドに替わる鎮痛薬としてカンナビノイドを処方するための診療ガイドラインを提唱しました。
なお、アメリカの研究チームは最近、中〜重度の急性歯痛を有する患者において、CBDがオピオイドに匹敵する鎮痛効果を示したことを報告しています。