がん患者、大麻製品の使用で睡眠・痛み・吐き気等の症状を大幅に改善

がん患者、大麻製品の使用で睡眠・痛み・吐き気等の症状を大幅に改善

- オハイオ州の観察研究

米国オハイオ州内のがん患者を調査した結果、一部のがん患者は睡眠、痛み、吐き気等の症状を管理するために大麻を使用しており、これにより大幅な症状の改善を認めていたことが明らかにされました。論文は「Cancer Research Communications」に掲載されています。

オハイオ州は2016年に医療用大麻を合法化。今年11月には住民投票により嗜好用大麻の合法化が承認され、12月7日より施行されることとなりました。

オハイオ州内のがん患者を対象とした実態調査

オハイオ州立大学の研究者を中心とした研究チームは、がん患者の大麻及びCBD製品の使用状況を明らかにすることを目的とし、オハイオ州立大学総合がんセンターに通院中の患者を対象とした実態調査を実施。調査は2021年7月〜2022年8月にかけて行われました。

参加者は大麻の使用状況、使用理由、有効性について回答。使用状況に関しては大麻製品とCBD製品を明確に区別しており、このような区別はがん患者に対する大麻の実態調査において「史上初」とされています。

14%が過去30日以内に大麻及びCBD製品を使用

解析対象となった患者は934名(年齢中央値63歳、女性55%、非ヒスパニック系白人89%)。49%が局所限局性のがんを患っており、81%ががん治療を受療中。肺がん乳がん、悪性黒色腫(メラノーマ)、血液がんの罹患者が約54%を占めました。

現在(過去12ヶ月以内に)大麻及びCBD製品を使用していると報告した人は15%(142名)。過去30日以内の使用は14%で報告されました。

がんの種類別で大麻・CBD製品の使用率が高かったのは、子宮頸がんや精巣がんなど一部の生殖器がん(33%)、膵臓がん(28%)、複数のがん(27%)、大腸がん(23%)。子宮がん(4%)、食道がん(6%)、前立腺がん(9%)では使用率が低くなっていました。

現在の大麻・CBD製品の使用を報告した患者の34%は、がんと診断された後に使用を開始。71%が医師から処方を受けていませんでした。

現在の大麻・CBD製品使用者のうち、9%(参加者全体で1%)がCBD製品のみ、37%(参加者全体で6%)が大麻製品のみ、31%が両方の製品の使用を報告(それ以外は不明との回答)。

投与経路として最も人気があったのは経口摂取(66%)で、次いで気化摂取(61%)、外用(9%)。大麻製品のみの使用では気化摂取が最多(69%)。

経口摂取ではキャンディー(80%)や焼き菓子(39%)、気化摂取ではジョイント(59%)やパイプ・ボング(51%)による摂取が多数となりました。

大麻・CBD製品の1週間あたりの使用頻度の中央値は4.5日/週。気化摂取(5.5日/週)では経口摂取(3.5日/週)や外用(0.6日/回)よりも使用頻度が高くなっていました。

大麻・CBD製品を使用した日において、1日の使用回数の中央値は2回/日とされました。

大麻製品の使用理由と有効性

大麻・CBD製品の使用理由として多かったのは、睡眠(57%)、ストレス(56%)、痛み(51%)、食欲(49%)、吐き気(38%)などの緩和。

大麻・CBD製品の有効性については、1点(最小)〜10点(最大)の10段階で自己評価されました。

最も改善が報告されたのは睡眠と吐き気で、中央値は9点。ストレス、痛み、不安抑うつ、病気の対処では8点となり、大麻・CBD製品により中〜高度の改善が認められていました。抗がん作用については最も低く、中央値は7点となりました。

大麻の使用理由と有効性
出典:Cancer Research Communications「Marijuana and Cannabidiol Use Prevalence and Symptom Management Among Patients with Cancer」

これらの結果から研究者らは、「臨床医は、相当な割合のがん患者が大麻製品を使用し、その使用により症状の緩和を経験しているとの報告があることを認識すべきである」

「大麻使用に対してより寛容になる可能性が高い法的状況の進展に伴い、がん患者における大麻使用の有病率は今後も増加することが予想される」と述べています。

この研究には、大麻製品の使用に基づいた研究参加によるバイアス(偏り)、人種の多様性の欠如、単一施設のみのデータ、大麻の使用量やカンナビノイド含有量に関するデータの欠如、オハイオ州内で嗜好用大麻が違法など、様々な限界があります。

がん患者が経験した大麻の有効性に関しては、現時点で確立されたエビデンスが限られていることから、引き続きさらなる研究が必要とされています。

今回の研究でも示されたように、大麻やカンナビノイドはがん患者の症状管理において有益となる可能性があります。

ニューヨークのがんセンターで実施された研究では、がん患者163名が医療用大麻に興味を持った理由として多かったのは、睡眠(53%)、食欲(46%)、痛み(47%)、不安(46%)などの改善。このうち、CBD経験者は痛み(21%)・不安(17%)・睡眠(15%)の改善を、THC経験者は食欲(40%)・睡眠(32%)・吐き気(28%)・痛み(17%)の改善を報告していました。

イスラエルのがん患者324名が参加した研究では、6ヶ月に渡る医療用大麻の使用により、不安、うつ病、睡眠、QOLにおいて約60%の人が肯定的な結果を報告。痛みに関しては50%以上で改善が認められ、研究開始時、オピオイドを含むその他鎮痛薬を服用していた患者74名のうち、40%が鎮痛剤の服用を中止していました。

オーストラリアの研究では、コントロール不良の疼痛を有するがん患者25名が、THCとCBDを同比率で含有した口腔粘膜スプレーを使用することで、心身機能、痛み、睡眠、認知機能の有意な改善を報告。

コロラド大学ボルダー校の研究者らは、がん患者が市販の大麻エディブル(大麻食品)製品を摂取することで、痛み、睡眠、認知機能の改善を認めていたことを報告しました

他にも、大麻やカンナビノイドは抗がん剤による悪心・嘔吐末梢神経障害などにおいても有効性が示されています。

なお、ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者は最近、大麻ががん免疫療法に与える影響を調べるために、国立がん研究所から320万ドル(約4億7,800万円)の資金提供を受けたことを発表しました

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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