大麻とナノテクノロジー、がん性疼痛に対し有効性示す

水溶性ナノテクノロジー・カンナビノイド、がん性疼痛に有効性を示す

- オーストラリアのパイロット試験

大麻は鎮痛作用を有することで知られており、神経障害性疼痛など慢性疼痛を中心に有効性が報告されていますが、がん性疼痛に対しては報告に一貫性がなく、まだ有効とは結論づけられていません。

大麻による加療においてしばしば問題となるのは「投与方法」です。

大麻に含まれる有効成分であるカンナビノイドは、経口投与では肝臓によって代謝されるため、吸収率が低くなります。またカンナビノイドは脂溶性であり、食事によっても吸収に影響が及びます。

肝代謝を避ける方法として口腔粘膜からの投与経路がありますが、大なり小なり飲み込んでしまうことがあるため、吸収が不安定になることがあります。

一般的な大麻の摂取方法として知られている喫煙や吸入などといった肺からの摂取も、肝臓による代謝を避けることができますが、吸入する技術などによって吸収率にばらつきがみられたり、肺や気管への影響も懸念されています。

近年、上記のような状況から、カンナビノイドの吸収率を高めることを目的とした研究が行われるようになり、鼻粘膜や皮膚を介した投与経路や、ナノ薬物送達システムを活用した製剤化に注目が集まっています(詳しくはこちらをご参照下さい)。

※ナノ薬物送達システムとは?

ナノサイズの粒子に薬剤を搭載すること。薬剤の治療効果の向上や副作用の軽減などを目的とする。特に抗がん剤の開発において注目を集めている。

10月14日、水溶性ナノ粒子を活用したカンナビノイド口腔粘膜スプレーがコントロール不良のがん性疼痛に対し有効性を示したことが、オーストラリアの研究チームにより報告されました。

前述したように、口腔粘膜スプレーは吸収前に飲み込むことで吸収にばらつきが生じるリスクがありますが、水溶性ナノ粒子の活用により、安定した吸収がもたらされることが期待されます。

このスプレーはTHC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)を同じ比率で97.5%含み、さらに2.5%のCBDA(カンナビジオール酸)、CBG(カンナビゲロール)、CBC(カンナビクロメン)を含有。1噴霧(150μl)につきTHC1.25mg、CBD1.25mgが投与されるよう設計されました。

この研究では第1ステップとして、このスプレーを進行がん患者5名に2日間使用し、カンナビノイドの吸収率を評価。1日目は2噴霧(THC・CBD2.5mgずつ)/回、2日目には6噴霧(THC・CBD7.5mgずつ)/回で使用し、カンナビノイドの血中濃度が調べられました。

投与後、血中のTHC・CBD濃度は用量依存的に速やかに上昇。同じようにTHCとCBDをほぼ同じ比率で配合した大麻由来医薬品サティベックスよりも吸収率が優れ、安定している可能性が示されました

続いて第2ステップでは、オピオイド鎮痛薬を服用するも疼痛コントロールが不良であったがん患者25名に対し、この口腔粘膜スプレーを使用し、30日間に渡り安全性と有効性を評価(1〜9日目:漸増期、10〜15日:治療期、16〜30日:投与を中止し状態観察)。口腔粘膜スプレーは起きている間4〜8時間ごとに1回ずつ使用されました(漸増期では1〜3噴霧/回、治療期では2〜6噴霧/回)。

EORTC-QLQ-C30を用いたQOL評価では、全体的な健康状態、身体機能、感情機能、認知機能、疲労、痛み、呼吸困難、睡眠障害といった項目において有意な改善を報告。

NRSによる痛みの評価(0〜10で痛みの程度を評価。10に近づくほど痛みが強い)では、全体で12%の痛みの軽減が認められました。特に骨転移のある乳がん及び前立腺がん患者のサブグループでは、NRSの中央値が治験前の7.5から治療15日目では3.5となり、大きな改善が認められました(約40%の改善)

2018年に行われたサティベックスの治験でも同程度の痛みの改善が報告されていますが、その時の投与量はTHC換算で平均17.3mg/日。これに対し、ナノテクノロジーを活用した今回の口腔粘膜スプレーの使用量は、THC換算で平均6.4mg/日とおよそ2.7倍少なく、サティベックスよりも吸収率が高いことが示されました。

副作用としては眠気が最も多く、他にも疲労感、嘔気、口渇などが認められましたが、生命を脅かしたり、新たな治療介入が必要となるほどの重篤な副作用は認められませんでした(1名にのみ重度の嘔気が出現したが、治験中断により改善)。

これらをまとめると、水溶性ナノ粒子を活用したカンナビノイド口腔粘膜スプレーは、サティベックスよりも吸収率が高く安定しており、忍容性があり、なおかつコントロール不良のがん性疼痛に対し有効である可能性を示したということになります。

ただし今回の研究は参加者が少なく、比較する対照群もいなかったため、今後もより多くの研究が必要となります。

現時点で大麻由来医薬品には、口腔粘膜から吸収させるサティベックスと、経口から摂取するエピディオレックスセサメットマリノール、シンドロスしかありません。

新たな技術と共に大麻由来医薬品が生まれる未来は、おそらくそう遠くないでしょう。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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