医療用大麻が高齢患者の生活機能を改善 処方薬の減薬も

医療用大麻が高齢患者の生活機能を改善 処方薬の減薬も

- イスラエルの観察研究

Biomedicines」に掲載された論文によれば、高齢者における医療用大麻の使用は症状の緩和や処方薬の減薬をもたらし、生活機能に改善をもたらす可能性があります。

人は高齢になるほど痛みや睡眠障害などの症状を抱えやすく、生活機能やQOLが低下する可能性が高くなります。

処方薬はこれらの症状を改善しますが、高齢者では持病が増えるにつれ服用する薬の種類や量が増え、副作用に悩まされることが少なくありません。特にオピオイドや睡眠薬などの薬では、加齢による筋力低下と相まって転倒する危険性も高まります。

このような中、医療用大麻は痛み睡眠障害不安など様々な症状において有効性が示されており、この多面的な効果は処方薬の減薬QOLの向上にも役立つ可能性があります。

近年、大麻が合法な国や地域では若年成人を中心に大麻の使用が増加していますが、高齢者においても増加傾向にあります。例えば、2021年にアメリカで行われた調査では、50〜80歳の12.1%が過去1年以内に大麻を使用していたことが報告されています。

米国高齢者の10人に1人以上が大麻を使用しているというこのデータは、日本の大麻生涯経験率がわずか1.4%であることを考えると、驚くべき数値です。

医療用大麻が高齢患者に与える影響を調査

イスラエルの研究チームは初めて医療用大麻治療を受ける65歳以上の高齢者を対象に、医療用大麻が高齢患者の生活機能、病状、服薬状況に及ぼす影響を調査(前向き研究)。

対象となった患者は119名(平均年齢79.3歳、女性62.2%)。参加者が抱えていた病状として最も多かったのは神経障害性疼痛を含む非特異的な慢性疼痛(47.9%)で、次いでパーキンソン病(7.6%)、がん(3.4%)、整形外科領域の疼痛(2.5%)、認知症(1.7%)でした。

医療用大麻治療の開始前と6ヶ月後において、参加者は生活機能(ADL、IADL)、抑うつ(GDS)、痛み(VAS)の程度を自己評価。治療から6ヶ月後には、医療用大麻の効果に対する認識、食欲、副作用、服薬状況についてのアンケートも行われました。

評価尺度の詳細は以下の通り。

ADL(カッツ日常生活動作スケール)
入浴、着替え、排泄、食事、移動に関する動作を0(要介助)〜6点(自立)で評価。点数が高いほど自立していることを示す。

IADL(ロートン手段的日常生活動作スケール)
電話、買い物、家事、金銭管理、服薬管理などに関する能力を0(要介助)〜8点(自立)で評価。点数が高いほど自立していることを示す。

老年期抑うつ尺度(GDS)
抑うつの程度を0〜15点で評価。5点以上はうつ病の可能性があり、点数が高いほど抑うつの重症度が高いことを示す。

痛みの評価(VAS)
痛みの強さを0(なし)〜10点(最悪の痛み)で評価。

医療用大麻の効果に対する認識
著しい改善、中等度の改善、わずかな改善、変化なし、わずかな悪化、中等度の悪化、著しい悪化のいずれかで評価。

食欲の変化
著しい増加、わずかな増加、変化なし、わずかな減少、著しい減少、大麻摂取直後のみ変化のいずれかで評価。

8割以上が状態改善、半数以上が処方薬の中止を報告

6ヶ月間の医療用大麻使用により、86.4%が全身状態の改善を報告。抑うつスコア(GDS)は治療前の6.4点から5点へと有意に改善。痛みも有意に軽減され、6ヶ月間で平均3.3点の改善が認められました(治療前8.8点→治療後5.5点)。

医療用大麻の効果に対する認識
出典:Biomedicines「Medical Cannabis Is Not Associated with a Decrease in Activities of Daily Living in Older Adults」

一方、大麻の使用は一般的に食欲を増進させることで知られていますが、今回の研究で食欲の増加が認められたのは24.7%であり、大多数の参加者(56.8%)が変化しなかったと回答しました。

医療用大麻による治療から6ヶ月後、52.9%の参加者が少なくとも1つの処方薬を中止。このうち23.5%がオピオイド、7.6%がベンゾジアゼピン、5.9%が抗うつ薬(SSRI、SNRI、NaSSA)、5%が降圧薬の中止を報告しました。

逆に処方薬が増えたと報告したのは20.2%であり、このうちオピオイドの使用が増えたと報告した人は3.4%のみでした。

調査で報告されたオピオイドの使用量は、全てモルヒネミリグラム当量(MME)に換算(オピオイドには様々な種類があるため、標準化する必要がある)。治療前の1日あたりの平均MMEは49.0でしたが、治療後には27.9にまで減少していました。

論文によれば、オピオイドの使用量減少に対する臨床的に重要な最小限の差は「28.2%」であり、今回の研究では「43%の減少が認められた」と述べられています。

医療用大麻の安全性は比較的良好

参加者の医療用大麻の主な投与経路はオイルによる経口摂取(51.3%)。喫煙・ベイプは7.6%であり、オイルと喫煙・ベイプの両方で服用していた人は9.2%でした。

参加者が使用した大麻製品に含まれるTHCCBDの比率はまばらであり、最も多かったのはTHC5%・CBD10%(11.8%)の製品。次いでTHC15%・CBD3%(10.9%)、THC10%・CBD2%(9.2%)、THC3%・CBD15%(8.4%)となっていました。

医療用大麻の副作用を経験した人は36.1%。このうち7.9%は副作用を「重度」と自己評価し、1.7%で医療介入が必要となりました。

最も報告が多かった副作用はめまい(11.8%)であり、次いで口渇(7.6%)、ハイな感覚(7.6%)、疲労感(5.9%)、吐き気(5.9%)など。

また、参加者の25.2%が今後医療用大麻による治療を継続しないと回答。その理由として「効果がなかったから」(36.7%)、「副作用のため」(23.3%)、「医療用大麻免許の更新に官僚的な困難さがあった」(23.3%)などが挙げられました。

これについて研究者らは、「大麻の使用を中止した患者の割合が比較的多いことは、大麻が全ての病気を助ける魔法の治療薬ではないという考えを裏付けている」と述べています。

手段的日常生活動作が改善

医療用大麻治療前後の生活機能は、ADL(入浴、着替え、排泄、食事、移動に関する動作)では変化がみられず(平均4.4点→4.5点)、IADL(電話、買い物、家事、金銭管理、服薬管理などに関する能力)では統計的にも臨床的にも有意な改善が認められました(平均4.1点→4.7点)。

大麻が生活機能に与えた影響について、研究者らは「おそらく治療によって得られた満足度と相関」しており、具体的には「慢性疼痛、気分、全身状態の改善」と「ベンゾジアゼピンなど特定の薬物の減少」によりもたらされたと考察。

加えて、「これらの変化により、高齢者は社会でより自立して活動できるようになるが、ADLスコアに反映される排泄、着替えなどの機能を改善することはできない。したがって、医療用大麻がIADLを改善しても、ADLを改善しないことは驚くべきことではない」と述べています。

最後に各評価尺度の関連性を分析したところ、80歳未満の年齢と抑うつスコア(GDS)の改善、男性とIADLスコアの改善で有意な関連性が認めれましたが、大麻の種類や使用頻度では特に関連性が認められませんでした。

今回の研究結果から、研究者らは「6ヵ月間の治療後にIADLとGDSのスコアが向上したことから示されるように、高齢者における医療用大麻は身体機能と気分を改善することができる。さらに、(医療用大麻は)全身状態の改善に寄与すると認識されており、疼痛やオピオイドを含む鎮痛薬の使用を減少させる」と結論づけています。

ただし、この研究は観察研究という性質から因果関係を判断できないこと、医療用大麻の有効性を比較する対照群が存在しないこと、参加者によって使用した大麻製品がバラバラであったこと、参加者が慢性疼痛患者に偏っていたことなど、いくつかの限界があります。

そのため、高齢者における医療用大麻の有効性を明確にするためには、今後もさらなる研究が必要となります。

高齢患者における医療用大麻の可能性は他の研究においても報告されています。

今回の研究メンバーにラファエル・ミシューラム(Raphael Mechoulam)博士を加えた研究チームは、2018年にも同様の研究を実施しています。65歳以上の高齢者2736名を対象としたこの調査では、主に痛み(66.6%)やがん(60.8%)のために大麻が処方されており、6ヶ月間の治療により93.7%が症状を改善したと報告。報告された痛みの中央値は8から4へと減少し、18.1%がオピオイドの中止・減薬を報告しました。

65歳以上の高齢者9766名を対象としたカナダの調査でも、大麻の適応症として最も多かったのは疼痛(67.7%)であり、ほとんどの人(81%)がオイルにて大麻を摂取。大多数で痛み(72.7%)、睡眠(64.5%)、気分(52.8%)の改善が認められ、35.6%がオピオイドの減薬、19.9%がベンゾジアゼピンの減薬を報告しました。

平均年齢63歳の医療用大麻患者157名を対象としたオーストラリアの調査では、回答者の53.5%が医療用大麻は自身の病状に有益であると回答。有効性を感じている割合が多かったのは、疾患別では神経障害性疼痛・末梢神経障害(66.6%)、パーキンソン病(60.9%)、多発性硬化症(60%)、片頭痛(43.8%)、慢性疼痛(42.1%)、脊椎症(40%)であり、症状別では睡眠(80%)、痛み(51.5%)、筋肉のけいれん(50%)となっていました。

また、医療用大麻は高齢になるほど有病率が高くなる認知症においても有効な可能性があります。

2023年2月に公開されたイタリアの研究では、認知症患者30名にTHC主体の大麻オイルを使用した結果、興奮、無気力、イライラ、睡眠障害、摂食障害といった周辺症状だけでなく、中核症状である認知機能においても改善が認められたことが報告されています。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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