THC主体の大麻抽出物の使用で認知症の症状が改善 介護者の負担も軽減

THC主体の大麻抽出物の使用で認知症の症状が改善 介護者の負担も軽減

- イタリアの観察研究

今年2月、THCを主体とした大麻抽出物(オイル)を用いることで、アルツハイマー型認知症患者の問題行動や認知機能が改善したことがイタリアの研究者らにより報告されました

イタリアのモデナ市にあるモデナ・レッジョ・エミリア大学(University of Modena and Reggio Emilia)の研究者らは、セカンドオピニオン医療ネットワーク(Second Opinion Medical Network)を利用したアルツハイマー型認知症患者を対象に、大麻抽出物を用いた3ヶ月間の観察試験を実施。

セカンドオピニオン医療ネットワークとは、罹患した症状や疾患に対する診断や治療に満足できない患者が、幅広い専門家に対し個別に臨床診断を申請できる医療機関システムのことです。

研究参加基準は、アルツハイマー型認知症の症状が24週間以上続き、適切な治療を受けており、行動障害(NPIスコア>2)、興奮(CMAIスコア>4)、認知障害(MMSEスコア<10)を認めていることでした。

※NPI(Neuropsychiatric Inventory)

妄想、幻覚、興奮、抑うつ、不安、多幸感、無気力、イライラ、異常行動、夜間の行動障害、食欲及び摂食障害、介護者の苦痛の12項目の頻度と重症度を評価する指標。症状の重症度は1〜3点(1=軽度、2=中等度、3=重度)、介護者の苦痛は0〜5点(0=苦痛なし、5=極度の苦痛)で評価。

※CMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)

焦燥感や攻撃性に関する29の行動を7段階で評価するもので、スコアが高いほど症状を認める頻度が高いことを示す(0=全く起こらない、6=1時間に数回)。

※MMSE(Mini Mental State Examination)

見当識、記憶力、計算力などを評価する認知機能検査。満点は30点で、23点以下で認知機能低下と判断する。

30名の患者(女性21名、平均69.4歳)が条件を満たし、この研究に参加。これらの患者は主な症状として興奮、睡眠障害、認知機能障害、食欲不振とそれに伴う体重減少を認めていました。

治療に使用されたのは、オランダの大麻企業「ベドロカン(Bedrocan)」製造のTHC主体の大麻抽出物(Bedrocan®:THC22%、CBD0.4%含有)。

投与は経口で0.5ml/日から開始され、5週目には最大量の1ml/日にまで増量。9週目から徐々に減量し、11週目には投与開始時と同量にするよう指示されました。

その他の内服薬は使用せず、睡眠障害に対しクエチアピン(多元受容体作用抗精神病薬)を服用していた患者が3名いましたが、これも研究の1週間前より中止とされました。

有効性の検証は、前述したNPI、CMAI、MMSEを介護者が治療前と治療3ヶ月後で評価することにより実施。

3ヶ月間の治療の結果、NPIではアルツハイマー型認知症における典型的な問題行動が有意に減少したことが明らかに。特に興奮、無気力、イライラ、睡眠障害、摂食障害において有意な改善がみられ、その結果として介護者の苦痛にも軽減が認められました

CMAIでは、身体的及び言語的攻撃行動の頻度が全ての患者において減少。一方、質問を繰り返す、指で叩くなどの常同行動は多く観察されました。

MMSEでは、治療前は10点未満の重度の認知障害が認められていましたが、治療により45%の患者が軽度〜中等度(15〜17点)にまで改善。

全体として、介護者からの報告は極めて肯定的であり、治療終了時には大声を出す、服を破る、日常生活動作(洗濯・着替え・階段昇降・摂食行動など)への要求が有意に減少したとのこと。食欲に関しては70%の患者において増加が報告されました。

治療期間中、副作用は特に報告されませんでしたが、持続的な興奮を認めていた1名の女性患者(88歳)のみが、治療開始30日後に服用を中止していました。

研究者らは今回の研究により、「アルツハイマー型認知症におけるTHCとCBDを含む大麻抽出物の有効性と安全性を実証した」と述べつつ、サンプルサイズが小さいこと、比較対照群がいないこと、介護者の主観的評価にのみ頼っていることなどの限界があるとし、「今後さらなる研究が必要である」と結論づけています。

2022年9月、ドイツの研究者らはマウスの研究において、エンドカンナビノイドシステムの衰えが中年期以降に認められたことを明らかにしています。この研究者らは2017年に、生後12〜18ヶ月(老年期)のマウスに低用量のTHCを慢性投与することにより、海馬の遺伝子発現が生後2ヶ月のマウス並みに回復したことも報告しています

2022年7月にブラジルの研究者らは、22ヶ月間のTHCマイクロドージング(体感を感じないほどの微量摂取)が認知機能とQOLの改善をもたらした症例を報告しています  。

2022年9月に公開されたイスラエルの研究では、認知症患者60名に対しCBDフルスペクトラムオイルを16週間投与した結果、攻撃性、興奮性、睡眠障害などにおいて改善が認められています

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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