THCマイクロドージング、認知症患者の認知機能とQOLを改善

THCマイクロドージング、認知症患者の認知機能とQOLを改善

- ブラジルの症例報告

2022年7月12日、THC(テトラヒドロカンナビノール)を主成分とした大麻抽出物のマイクロドージング(体感を感じないほどの微量摂取)がアルツハイマー型認知症患者の認知機能とQOLを改善した症例がブラジルの研究者らにより報告されました。

その患者はブラジル在住のイタリア系の75歳の白人男性。45年間の喫煙歴があったものの、特に既往歴はなし。研究に参加する2年前に記憶力の低下、見当識障害(時間や場所を認識できない)、物忘れ、同じ話を繰り返すなどといった症状を認め、自立した生活が困難に。神経心理検査の結果、軽度のアルツハイマー型認知症と診断されていました。

認知症の進行を遅らせるためにメマンチンを内服していましたが、認知機能は悪化する一方で、さらにめまい、頭痛、便秘といった副作用や転倒がみられるようになったため、服用を中止していました。

今回の研究では、この男性に対し22ヶ月間に渡りTHCを主成分とした大麻抽出物(THCCBD=8:1)のマイクロドージングが行われました。使用量はTHCを基準に調節。THC500μg/日の5ヶ月間の使用から開始され、以降22ヶ月に至るまで300μg〜1mgの範囲内で使用されました。

治療による認知機能の評価は治療開始前、開始後30日目、90日目、150日目、210日目、240日目、270日目、360日目、420日目、480日目、540日目、660日目にMMSEとADAS-Cogによって行われました。これらの評価と臨床所見により随時使用量が変更されました。

※MMSE、ADAS-Cogとは?

MMSEは見当識、記憶力、計算力などを評価する認知機能検査。満点は30点で、23点以下で認知機能低下と判断する。
→スコアが高いほど正常

ADAS-Cogは記憶力、言語能力、見当識などを評価する認知機能検査。0点が正常で、スコアが高いほど認知機能が低下していると判断する(最高点は70点)。
→スコアが低いほど正常

その結果、治療開始前のMMSEは21点、ADAS-Cogは25点でしたが、早くも治療開始30日目においてMMSE25点、ADAS-Cog10点と認知機能の改善が認められました。この認知スコアの改善は治療開始から研究期間中(22ヶ月間)安定し経過。さらに研究が終了した後も服用を続け、治療開始から42ヶ月目においてもMMSEは24点、ADAS-Cogは10点で維持しているといいます。

なお、THCは最高1mg/日で投与されましたが、最も有効であったのは500μg/日であったため、研究期間中この用量で最も多く使用されました。

THCマイクロドージングによる認知機能評価の経過
出典:「Cannabinoid extract in microdoses ameliorates mnemonic and nonmnemonic Alzheimer’s disease symptoms: a case report」

ある日の診察において、この男性は以下のように話しました。

「以前は物忘れがひどかったけど、治療を開始してからは一度もなくなった。前は時々自分がどこにいるのか分からなくなったけど、今はそれもない。道に迷うことがあったから一人で出かけれられなかったけど、今日は一人でバスに乗ってここまできたよ」

さらに、有効性が認められたのは認知機能だけではありませんでした。

「治療開始直後から日々の生活にハリが出て、ワクワクするようになったよ。それだけじゃなくて、夜もよく眠れるようになったことに気づいたんだ」

日本では高齢化が進んでおり、総務省の報告によれば2021年時点で日本の総人口の29.1%が65歳以上であり、これは世界最高レベルとなっています。そしてこの割合は2040年には35.3%になる見込みとなっています。

厚生労働省が公開しているデータでは、2012年時点で高齢者の15%(約462万人)が認知症であり、その割合は2040年には21.4〜25.4%(約802万〜953万人)になると推定されています。認知症にはいくつか種類がありますが、最も多いのはアルツハイマー型認知症(67.6%)です。

ブラジルに住むたった1人のアルツハイマー型認知症の男性に認められた大麻の可能性。ほんの小さな報告にすぎないかもしれませんが、大きな希望を感じさせてくれました。

「大麻使用罪」を創設し、大麻に対する規制強化を進めようとしている現在の日本。

今回の症例を知り、あなたはどう考えますか?

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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