CBDフルスペクトラム、認知症患者の興奮や攻撃性を緩和

CBDフルスペクトラム、認知症患者の興奮や攻撃性を緩和

- イスラエルのランダム化比較試験

認知症の症状といったら、まず何が思い浮かぶでしょうか?

認知症の症状は、中核症状とBPSD(行動・心理症状)の大きく2つに分けられます。中核症状は記憶や認知機能の低下といった認知症の根幹となる症状です。一方、BPSDは中核症状に伴い生じる二次的な症状であり、興奮や暴力行為、不潔行為、異食や誤飲、不眠、妄想、不安や抑うつなど、人によって様々な症状が認められます。

BPSDが出現すると患者自身が苦痛を感じるだけでなく、介護者にとっても大きな負担となり、自宅で介護するのが難しい状況となります。

BPSDへの対応は介護者の関わり方や環境調整が最も大切にはなりますが、実際は脳の働きを鎮める薬が使用されることが多いです。高齢者に対しこのような薬を使用すると、足元がフラフラして転んで骨折したり、上手く食事が食べられず肺炎を起こしたりするなど、様々なリスクを伴うことになります。そのため、こういった薬に代わる別の治療が現在も模索されています。

実はその中の1つとして、大麻草に含まれるカンナビノイドが注目されています。

2016年の研究では、アルツハイマー型認知症患者11名に対しTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含む大麻抽出物を4週間使用したところ、BPSDの有意な改善が認められたことが報告されています。ですが、BPSDに対するCBD(カンナビジオール)をメインとした臨床試験はまだほとんど行われていません。

そこでイスラエルの研究者らはCBDを主成分とした大麻抽出物「アビデケル(Avidekel)」を用いて、二重盲検でランダム化比較試験を実施。その結果、プラセボ(偽薬)と比較してアビデケルが認知症患者の興奮や攻撃性を有意に軽減したことが報告されました。

※ランダム化比較試験(RCT)とは?

特定の研究対象を2つ以上のグループにランダムに分け、治療薬や治療法の有効性を検証する研究。1つのグループでは効果を検証したい薬を、別のグループ(対照群)ではプラセボや既存薬を使用し、それらの結果を比較することにより有効性を検証する。対象者が何の薬を飲んでいるのか分からないようにする試験を「単盲検」、対象者だけでなく研究者(治療者)もそれを把握できないようにする試験を「二重盲検」と呼び、後者のほうがバイアス(偏り)がかかりにくく信憑性が高い。

RCTのエビデンスレベルは、数多くの研究を統合して分析するメタアナリシスやシステマティックレビューに次いで高いとされている。

アビデケルにはCBD30%、THC1%、CBC(カンナビクロメン)1%、CBG(カンナビゲロール)0.5%、CBDV(カンナビジバリン)0.5%といったカンナビノイドが含まれており、1滴あたりCBDが11.8mg、THCが0.5mg含有されていました。

研究に参加した認知症患者は60名(認知症の種類に指定はなし)。平均年齢は79.4歳で、60%(36名)が女性となっていました。40名にアビデケルを、20名にプラセボをそれぞれ16週間にわたり舌下に投与。朝・昼・晩に1滴ずつから開始し、2日ごとに1回1滴ずつ増量。増量は21滴/回まで、あるいは副作用が生じるまで行われました。

アビデケル群の8名が途中で試験を中断したため、16週間治験に参加できたのは52名(アビデケル群32名、プラセボ群20名)となりました。中断理由は途中から予定通りに診察を受けることができなくなったなど、副作用に関連したものはありませんでした。

主な評価はCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)が4点以上減少した患者の割合によって行われました。このスケールは焦燥感や攻撃性に関する29の行動を介護者が7段階で評価するもので、スコアが高いほど重症度が高いことを意味します。

研究の結果、16週目のCMAIはアビデケル群で平均10.7点、プラセボ群で2.5点減少し、アビデケル群において有意にスコアが改善。この有意差は治療開始14週目より認められました

CMAIが4点以上減少した割合はアビデケル群で60%(24名)、プラセボ群で30%(6名)、8点以上減少した割合はそれぞれ50%(20名)、15%(3名)となりました(※この解析結果は「中断者も含めた60名全員」のものとなっています)。

CMAIのうち改善が多く認めれた行動項目は「性的な誘惑をする」「物を投げる」「つばを吐く」「自分や他人を傷つける」「異食や誤飲」などでした。

なお、アビデケルの平均投与量は14.9滴/回(CBD:175.8mg、THC:7.4mg)で、プラセボは17.9滴/回でした。

これらの結果が認知症の重症度によって異なるのかを調べるため、MMSE(認知機能を評価するスケールで、23点以下で認知機能低下と判断)が15点以上の患者と14点以下の患者との間でCMAIの比較が行われましたが、特に差は認められませんでした。なお、研究期間中においてアビデケル群でもプラセボ群でもMMSEのスコアの改善は認められませんでした。

評価はCMAIだけでなくNPI-NH(攻撃性や焦燥感だけを評価するCMAIとは異なり、BPSDを包括的に評価するスケール)によっても行われ、アビデケル群ではプラセボ群と比較して「興奮・攻撃性」の項目で29.4%、「睡眠障害」の項目で22.5%の改善が認められました。

副作用の発現率はアビデケル群とプラセボ群において有意差は認められませんでしたが、アビデケル群では眠気(48.6%)、混乱・見当識障害障害(45.9%)、記憶力低下(32.4%)が主に報告されました。

研究者らは「今回の結果は、CBDを主成分とした大麻抽出物が比較的安全に認知症患者の興奮や攻撃性を緩和できる可能性を示している。今後はより大規模なランダム化比較試験で認知症の種類ごとに有効性を検証する必要がある」と述べています。

また「CBDの効果発現に時間がかかること」や「大麻の単一成分だけでは有効とはならない可能性」についても言及しています。

今月2日に公開されたレビュー論文では、様々なカンナビノイドの組み合わせがアルツハイマー型認知症に対し有効となる可能性について述べられています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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