脳内エンドカンナビノイドシステムの衰えは「中年期」に顕著に出る

脳内エンドカンナビノイドシステムの衰えは「中年期」に顕著に出る

- ドイツの基礎研究

記憶力や認知機能は50代から徐々に低下していくと言われていますが、現在では運動や趣味、コミュニケーションなどを定期的に行っていれば、脳の機能を保つことができるとも考えられています。

大麻は、私たちの身体に備わっているエンドカンナビノイドシステムに作用することにより様々な医療効果をもたらすと考えられていますが、そのシステムは認知機能にも大きく関わっています。

2012年の研究では、マウスのCB1受容体を欠損させることにより、生後3ヶ月(思春期)という早い段階から認知機能の低下が認められたことが報告されています。さらに2015年のマウスの研究では、記憶を司る脳領域である海馬において、加齢に伴い2-AG(主要なエンドカンナビノイドの1つ)が減少していたことも報告されています。

これらのことから、エンドカンナビノイドシステムが認知機能において重要な役割を担っていること、そして加齢に伴いその働きが弱まるといったことが考えられます。つまり、エンドカンナビノイドシステムの働きを助けることができれば、加齢による認知機能の低下を改善することができるかもしれません。

実際にドイツの研究者らは、生後12〜18ヶ月(老年期)のマウスに大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を低用量で慢性投与することにより、海馬の遺伝子発現が生後2ヶ月のマウス並みに回復したことを報告しています。

そして今回、その研究に携わったメンバーを含んだドイツの新たな研究チームは、年齢が異なるマウスにおいて脳内のエンドカンナビノイドシステムの働きに違いがあるのかを観察。その結果、エンドカンナビノイドの衰退が「中年期」のマウスにおいて顕著に認められていたことが明らかとなりました。

この研究では、思春期から老年期に渡る5つの年齢群のマウスを使用(本研究では生後2ヶ月のマウスを青年、6ヶ月を成人、9ヶ月および12ヶ月を中年、18ヶ月を老人と定義)し、認知機能に関わる4つの脳領域(海馬、視床下部、線条体、内側前頭前野)におけるエンドカンナビノイド(アナンダミド、2-AG)の量、CB1受容体の数などに違いがあるのかが比較されました。

その結果、生後9ヶ月(中年期)のマウスにおいて2-AGが顕著に減少していたことが明らかに。この減少は特に海馬においてみられ、線条体においても中程度観察されました。また、海馬では生後12ヶ月のマウスでも有意な減少が認められましたが、線条体では生後12ヶ月以降のマウスで変化が認められませんでした。

同じように海馬では2-AGの合成酵素であるDAGLα(ジアセルグリセロールリパーゼα)も有意に減少しており、特にこの減少は生後9ヶ月、12ヶ月のマウスにおいて大きくなっていました。

アナンダミドの減少は生後6ヶ月のマウスからみられ、9ヶ月で顕著となり、12ヶ月のマウスに至るまで認められました。この有意な変化は線条体と内側前頭前野においてのみ観察されました。

海馬におけるCB1受容体タンパクを調べた結果、生後9ヶ月のマウスにおいて顕著に増加していたことが発見される一方、生後12ヶ月、18ヶ月のマウスでは著しく減少していたことが分かりました。そのため、研究者らは生後9ヶ月のマウスにおけるCB1受容体タンパクの急増を「2-AG減少の代償かもしれない」と推察しています。

以上の結果から研究者らは「認知機能の低下や脳の老化に関連する病気の予防のために、カンナビノイド受容体を活性化する治療が最も有効となる時期は『中年期』であると考えられる」と結論づけています。

予防ではありませんが、今年7月には、アルツハイマー型認知症の男性にTHCを主成分とした大麻抽出物を極少量ずつ、22ヶ月に渡り使用したことにより、認知機能の改善とQOLが向上した症例が報告されています。

また8月には、アルツハイマー型認知症モデルマウスに対しTHCを極めて少量(0.002mg/kg)で単回投与したところ、生後6ヶ月(認知症発症初期)と12ヶ月(進行期)の両方のマウスにおいて、認知機能障害が緩和されたことがイスラエルの研究者らにより報告されています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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