パーキンソン病に有効なカンナビノイドの黄金比が示される

パーキンソン病に有効なカンナビノイドの黄金比が示される

- カナダとアメリカの基礎研究

大麻にはカンナビノイドテルペンなどの様々な有効成分が含有されており、それぞれ異なったメカニズムで体内に作用します。そのため、これらの成分は組み合わせ次第で固有の成分では認められない医療効果を発揮することがあります(アントラージュ効果)。

これまでの研究により、大麻はパーキンソン病に対して有効性を示してきていますが、確実に医療用として使用するためには、どの成分をどのように組み合わせることで最も高い有効性が認められるのかを把握する必要があります。

ゼブラフィッシュの写真
ゼブラフィッシュは脊椎動物のモデル実験動物として比較的最近登場した小型熱帯魚。胚が透明、飼育が容易、世代時間が短い、突然変異や遺伝子改変動物の作製が容易等の利点がある。近年は哺乳動物モデルの代替としての需要も高まる。

これを見定めていくため、カナダとアメリカの研究チームはパーキンソン病に対するカンナビノイドとテルペンの有効性を細胞株とゼブラフィッシュを用いて検証。その結果が10月5日に報告されました

細胞株において、パーキンソン病に対する有効性は主にカンナビノイドで認められ、動物モデルにおいては、単独のカンナビノイドでは有効性が認められませんでしたが、3種類のカンナビノイドの組み合わせでは認められました。さらにこの3つの混合物には、それぞれのカンナビノイドの量に黄金比が存在することが示されました。

カンナビノイドとテルペンの神経保護作用

カンナビノイドとテルペンにおける神経保護作用を、パーキンソン病を誘発する神経毒であるMPP+で処理した細胞株(CATH.a)を用いて検証。

使用されたカンナビノイドはCBD(カンナビジオール)、CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)、CBG(カンナビゲロール)、CBDV(カンナビジバリン)

テルペンはリモネン、リナロール、ネロリドール、α-ピネン、フィトール。

CBC以外のカンナビノイドは10μMの用量で神経保護作用を示し、最も高い効果はCBDにおいて認められました。テルペンはいずれも神経保護作用を示しませんでした。

続いてマイナーカンナビノイド(この研究ではCBC、CBG、CBDVのことを指す)とテルペンを全て混ぜたもの(混合物①)、マイナーカンナビノイドのみを全て混ぜたもの(混合物②)、テルペンのみを全て混ぜたもの(混合物③)を用いて有効性を検証。混合物Aが最も優れた効果を示し、やや劣る形で混合物②も有効性を示しました。混合物③ではほとんど有効性が認められませんでした。

さらに混合物①〜③にCBD、CBN(この研究では主要なカンナビノイドと定義)をそれぞれ加え、神経保護作用が増強されるのかを評価。CBDでは神経保護作用が顕著に増強され、CBNでもある程度の増強が認められました。

カンナビノイドとテルペンのドーパミン放出に対する影響

パーキンソン病では、中脳の黒質におけるドーパミン細胞が変性・脱落し、ドーパミンが放出されなくなることにより様々な症状がもたらされます。

そこで今回の研究では、細胞株(PC12)を用いて前項目のカンナビノイド、テルペン、混合物①〜③がドーパミン放出に与える影響も検証。

成分単独でドーパミンの放出を増加させたのはCBDとCBN。この効果はCBNのほうが優れていました。その他のカンナビノイドとテルペンはドーパミンの放出に影響を与えませんでした。

混合物①〜③では神経保護作用と同様、全てのマイナーカンナビノイドとテルペンを組み合わせた混合物①が最も高い効果を示しました。

前項と同様、混合物①にCBD・CBNをそれぞれ加えた結果、CBDでは作用が増強されましたが、CBNでは変化が認めれませんでした。

マイナーカンナビノイドだけを組み合わせた混合物②とCBDでも、混合物①ほどではないものの作用の増強が認めれられましたが、CBNとの組み合わせでは逆に作用が減弱するという結果に。

テルペンだけを組み合わせた混合物③とCBD・CBNの組み合わせでは、ともに緩やかな作用の増強が認められました。

パーキンソン病動物モデルにおける検証

細胞株における検証により、神経保護作用とドーパミン放出作用は主にカンナビノイドにおいて認められました。

そこで次は、カンナビノイドのみを用いてパーキンソン病モデルのゼブラフィッシュ(幼生)に対する有効性が検証されました。ドーパミン神経を変性させる神経毒6-OHDAを使用することにより、ゼブラフィッシュはパーキンソン病様の症状や活動量の低下が生じていました。

まずはこのモデルに対する有効性をCBD、CBN、CBC、CBG、CBDVそれぞれ単独で検証しましたが、有意な改善は認めれませんでした。

続いてそれぞれのカンナビノイドを同量で3つ組み合わせて使用することで有効性を評価。9通りの組み合わせで検証した結果、以下の3つの組み合わせで有意に改善が認められたことが明らかとなりました。

混合物A:CBD、CBC、CBDV
混合物C:CBD、CBC、CBN
混合物G:CBD、CBG、CBDV

これらの混合物は500nMの用量で有効性を示し、それ以下の用量(250nM、100nM)では有効性は限定的でした。

カンナビノイドの黄金比率の検証

さらにこの研究では同様のモデルにおいて、混合物A、C、Gにおけるカンナビノイドの黄金比率(最も高い効果をもたらす比率)の検証が行われました。

それぞれのカンナビノイドは166.6nM(最大量)、83.3nM(最大量1/2)、16.6nM(最大量1/10)のいずれかの量で組み合わせられ、そのバリエーションは63種類にも及びました。

検証の結果、前項のオリジナルの混合物よりも高い有効性を示したのは、以下の5通りの用量での組み合わせでした。

・混合物A(CBD:166.6nM、CBC:166.6nM、CBDV:83.3nM)

・混合物A(CBD:83.3nM、CBC:83.3nM、CBDV:83.3nM)

・混合物G(CBD:166.6nM、CBG:83.3nM、CBDV:83.3nM)

・混合物G(CBD:83.3nM、CBG:83.3nM、CBDV:166.6nM)

・混合物G(CBD:16.6nM、CBG:166.6nM、CBDV:83.3nM)

※混合物Cではいかなる比率でも前項のオリジナルを上回らなかった。

まとめ

以上の結果をまとめると

・CBDは神経保護作用に優れ、なおかつドーパミン放出も促進した。

・CBDのこれらの作用は、他のカンナビノイド・テルペンと組み合わせることにより増強した。

・CBNは単独でドーパミン放出作用を有するが、マイナーカンナビノイドのみの混合物③との併用で作用が減弱した。

・テルペンでは神経保護・ドーパミン放出作用はほとんど認められなかった。

・動物モデルにおいて、カンナビノイドは単独ではほとんど有効性が認められなかったが、3種類のカンナビノイドの組み合わせ(混合物A・B・C)では有効性が認められた。

・混合物A・C・Gの中に含まれるカンナビノイドの量には、最も高い有効性を発揮する黄金比率が存在した。

今回の基礎研究では、パーキンソン病に有効な大麻の成分を絞り込み、最小限の成分・量で最大の効果をもたらす5つの組み合わせが同定されました。

この研究チームは、今後これらの混合物を用いて、より高度な動物実験で検証を行っていく予定となっています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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