大麻で救われた4人の物語

大麻で救われた4人の物語

- ポーランドの症例報告

日々医療技術が進歩し、多くの人たちが救われるようになっている現在。

しかし当然のことながらそんな現在の医療においても、みんなが救われているわけではありません。推奨される治療を受けても十分に効果が認められず、様々な症状で苦しんでいる人々がいます。このような人たちは諦めるしかないのでしょうか?

そんな人たちの「助け舟」として存在するのが、医療用大麻です。大麻は現行治療と比べてエビデンスレベルが低いため治療の第一選択となることはありませんが、現行治療で十分に効果が認められなかった疾患や症状に対して使用することで、病状を好転させる場合があります。

2022年8月2日、実際に現行治療で症状が改善せず苦しんでいた4名の人々が大麻使用により救われたという症例報告が公開されたため、紹介します。

目次

症例① 
– 重症うつ病、双極性障害疑いと診断されたA氏 –

A氏(38歳男性)は2020年6月、母と妻とともに精神科クリニックを受診した。

1ヶ月前から行動が変わって無口となり周囲から孤立し始め、仕事中にも同僚から集中力が欠けていると指摘されるようになった。不眠に悩むにようにもなり、連日ビールを1、2本飲んでいた。

医師からは中等度のうつ病と睡眠障害と診断され、就労不能と言い渡された。治療としては抗うつ薬であるベンラファキシン(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)とアゴメラチン(ノルアドレナリン・ドパミン脱抑制薬)が処方された。

1ヶ月後、部分的に改善は認められた。しかし実行機能障害(計画を立て、行動する能力の低下)や注意力の散漫さは改善せず、怒鳴られても反応が著しく鈍くなった。これらのことからラモトリギン(気分安定薬)を50mg/日から開始し、200mg/日まで増量。これにより改善傾向となるも、かゆみと不安の副作用が出現したため、結局ラモトリギンは中止となった。

その後A氏は「働きたい」と訴えたため、ベンラファキシンを中止し、ボルチオキセチン(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)の服用を開始することとなった。

しかし2ヶ月後には疲労感と集中力欠如だけでなく、持続的な悲しみや無力感、悪夢、自殺企図などが認められるようになった。重度のうつ病と診断され、同時に双極性障害の可能性もあるとして経過観察されることとなり、再度就労不能を言い渡された。ボルチオキセチンは中止となり、セルトラリン(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の服用が開始となった。

このタイミングで寝る前にTHC(テトラヒドロカンナビノール)を20%含む大麻のバッズ(200mg)を喫煙する治療も開始された。すると次の診察時には睡眠の質、気分、活動性に著しい改善がみられたと報告。この効果は治療開始から4日目には認められていた。A氏は「数年ぶりに自分らしさを感じられるようになった」と話し、再度就労を希望した。

それから3、4ヶ月、睡眠の質、気分、精神運動性、集中力は安定し経過。セルトラリンとアゴメラチンの服用は中止となり、THC20%の大麻を150〜300mgの用量で継続した。今まで吸っていたタバコもやめ、お酒も時折飲む程度となった。

現在は150mg/日の大麻を定期的に喫煙している。タバコは吸わず、お酒も飲んでいない。

A氏はこう語った。

「よく眠れるようになったし、気分も安定したし、記憶力もよくなった。大麻の治療効果には本当に満足してる」

症例②
– 偏頭痛に悩んでいたB氏 –

B氏(女性)は医学生であった19歳の時から偏頭痛に悩まされるようになった。発作は主に左側に出現。はじめは月に数回程度であったが、12〜14回出現するようになった。検査をするも、頭部に器質的な障害は認められなかった。

医大を卒業し医師となり、月に8〜10回夜勤をするようになった。この頃、避妊のためホルモン剤も服用していたが、頭痛の頻度が増加したため、2ヶ月後に服用を中止した。

頭痛に対してはイブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどといった非ステロイド性抗炎症薬(N-SAIDs)を多量に服用し、より強い痛みではメタミゾール(非オピオイド鎮痛薬)も使用し、加えてステロイドの静脈内投与もしていた。

その後経済的理由もあり、偏頭痛治療薬であるスマトリプタン(トリプタン製剤)を服用するようになった。偏頭痛発作はまれに右側にも生じ、その痛みは左側よりも重度で、エレトリプタン(トリプタン製剤)とステロイドとN-SAIDsの併用でしか抑えることができなかった。

このような経過で、彼女はカンナビノイド医療を受けることにした。CBD(カンナビジオール)5%とCBG(カンナビゲロール)5%を含むフルスペクトラムオイルを2〜3滴/日で使用し始めた。治療開始時には月に15回ほどみられていた発作が、最初のひと月で4回にまで減少した。

翌月にはオイルを毎日ではなく、それなりの頻度で夕方に2滴摂取するようにした。それでも発作の頻度は4回/月で安定していた。

休暇で2週間海外旅行に行った際、大麻に関する規制状況が分からなかったためオイルを持っていかなかった。症状はみられず経過したが、帰国後最初の夜勤時に右側の発作が出現。痛みは10段階中10に及ぶほど強く、エレトリプタン、ステロイド、N-SAIDs、CBDオイルを使用しても緩和しなかったが、翌日THCを20%を含む乾燥大麻を使用することにより、15分で痛みが消失した。

現在B氏は定期的にCBD・CBGを含むフルスペクトラムオイルを使用することで偏頭痛発作を予防し、発作出現時にはTHCを含む乾燥大麻を使用するようにしている。

症例③ 
– 三叉神経痛に苦しんでいたC氏 –

C氏(65歳)は歯科手術後に右側の三叉神経痛を発症した。

三叉さんさ神経痛とは?

三叉神経は目から鼻周囲に分布する眼神経(V1)、上あご全体に分布する上顎神経(V2)、下あご全体に分布する下顎神経(V3)の3枝からなる混合神経で、顔面の感覚や咀しゃく筋の運動を司る。

三叉神経痛とはこの神経分布に沿って片側性に、突発的で刺すような激痛が間欠的に生じる疾患。洗顔、ひげそり、食事、会話、冷たい風などにより誘発され、痛みは数秒から数十秒続く。

血管による三叉神経の圧迫が原因となる特発性三叉神経痛と、その他の病気が原因となり発症する症候性三叉神経痛があるが、それ以外にも歯科治療で三叉神経が傷つくことにより発症する場合もある。

発症から6日後に神経ブロックを行うも、麻酔後に頬・鼻の下からあごにかけてしびれやこわばりが出現。加えて局所的に激痛もみられ、食事どころか会話もできなくなった。

これによりC氏は救急外来を受診。痛みにより最高血圧は200を超えていた。

治療はガバペンチン(神経障害性疼痛治療薬)の服用を1日3回100mgから開始し、2日ごとに増量し、最終的に600mgまで増量。頓服としてイブプロフェン、トラマドール(弱オピオイド)を使用し、眠れないときには睡眠薬も使用。リハビリテーションも行った。

3年間治療を続けたが状態は改善しなかった。不眠に悩まされ、旅行中など気候が変わるとよだれが出るとともに顔面に激痛が生じ、会話と食事によっても症状が出現していた。ひどいときは10段階中10にも及ぶ激痛で、目に涙を浮かべながら苦悶表情をみせていた。

そこでC氏は医療用大麻ライセンスを取得した。THC19%・CBD1%未満の乾燥大麻を200mg/日で使用開始。1回につき1パフを3回/日から開始し徐々に増量。2週間後には1回4パフで3回/日使用した。さらにCBDオイルの舌下投与も1回1滴を2回/日(10mg/日)から開始し、3日に1滴ずつ増量していった。

1ヶ月後、痛みのコントロールは良好で、気分や睡眠障害も改善した。はじめは喫煙のたびに15分間程度の心拍の増加を認めたが、2週間後にはみられなくなった。ガバペンチンを減量し、大麻は1回5パフを3回/日で継続することとなった。

2ヶ月後、C氏はCBDを30mg/日で使用し、大麻は200mg/日の用量で必要に応じて5〜6回使用していた。大麻増量時に軽度のめまいはみられたが、2週間後には治まっていた。

5ヶ月後、CBDの摂取は75mg/日にまで増量され、大麻使用は3回/日となっていた。痛みや睡眠に問題はないが、CBDを減量しようとしたら、顔面にしびれが出現した。なお、このときにはガバペンチンやその他の薬を全て中止していた。

大麻による治療開始から1年が経過。D氏は痛みを生じることなく、夜もぐっすり寝ることができており、特に副作用もみられていない

症例④
– 皮膚リンパ腫に伴う慢性疼痛によりオピオイドを多量に使用していたD氏 –

D氏(49歳男性)はこれまでにB細胞性リンパ腫(2011年、抗がん剤にて治療)、精巣腫瘍(2013年、手術と抗がん剤にて治療)、乾癬による度重なる入院(薬物療法と光線療法にて治療)といった既往歴があり、さらに右腕にフォコメリア(先天性奇形)を有していた。

D氏は2014年に皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉腫)と左すねに巨大潰瘍を発症。2017年に骨髄移植を実施し、翌年にはリンパ球の輸注(輸血)も行った。その間左すねの潰瘍は改善と悪化を繰り返し、治癒することなく3年以上が経過していた。

2018年5月、D氏は炎症性・神経障害性の激しい痛みを訴えたため、緩和ケアを紹介された。痛みの程度にはばらつきがあったが、突発的な痛み(突出痛)が生じると10段階中10(数字が大きいほど痛みが強い)と評価するほど強い痛みを感じ、キッチンの端に座りこみ泣くこともあった。A氏は自身が感じる痛みを「つねられ、焼かれ、刺され、しびれ、電気が走るような感じ」と表現していた。

緩和ケアを受診する前からオキシコドン(強オピオイド)・ナロキソン(オピオイド拮抗薬)の配合錠とモルヒネ(強オピオイド)を服用していたが、効果は乏しかった。緩和ケアではデュロキセチン(鎮痛補助薬)の服用を開始し、突出痛にはフェンタニル(オピオイド)の経鼻薬を使用することとなった。

これにより一時は痛みをコントロールできたが、2019年3月と6月に左すねの潰瘍が炎症を起こすとともに痛みが増強したため入院。炎症は日々の処置により改善した。増強した痛みに対しガバペンチンやプレガバリンといった神経障害性疼痛治療薬を使用したが、効果はなかった。

その後抗炎症作用、鎮痛、オピオイドの減量を目的とし、大麻による治療が開始された。CBDオイルを1回1滴、2回/日から使用開始し(15mg/日)、やがて30mg/日にまで増量した。

さらにTHCを19%含む乾燥大麻(品種:レモンスカンク)の喫煙を100mg/日から開始し、その後200mg/日にまで増量。はじめは4〜6時間ごとに使用し、慣れてきてからは鎮痛効果が得られるまで15分ごとに2〜4回の追加使用が認められた。

これらの治療により、D氏の1日のオピオイドの使用量はモルヒネ換算で120〜200mg減少

具体的には治療開始から6日目でオキシコドン・ナロキソン配合錠は90mg/日から60mg/日に、突出痛に対し使用していたフェンタニル経鼻薬(1回200μg)の使用は8回/日から2回/日にまでに減少し、治療14日目には経鼻薬から舌下錠(100μg)に変更した。

オピオイドの減量は達成されたが鎮痛効果は目立って認められず、なおかつ治療費が高かったこともあり、乾燥大麻は中断しCBDの使用のみ継続した。

現在ではCBDの使用も中止しているが、オピオイドの使用量は増加することなく経過している。

大麻・カンナビノイド医療の可能性

大麻は精神活性作用を有することから日本では有害なものとして捉えられがちであり、実際に現時点では違法薬物として扱われています。

大麻の精神作用はカンナビノイド受容体の活性化によりもたらされていると考えられてますが、近年このエンドカンナビノイドシステムの活性化が様々な疾患に対し有効である可能性が指摘されてきています。そのうちの1つとしてうつ病が挙げられます。

偏頭痛はエンドカンナビノイドの欠乏により生じている可能性が指摘され、今年5月に公開されたレビュー論文では、大麻使用により発作が減少した研究報告が複数紹介されています。

さらに、大麻は主に炎症性疼痛や神経障害性疼痛などの慢性疼痛に対し有効性を示しており、オピオイドの減量や中止にも寄与すると考えられています。

確かに大麻による治療のエビデンスは不十分であり、有効性に一貫性がないこともあることから、現時点で治療の第一選択とはなり得ないでしょう。

ですが現行治療で報われていない人々がいるのも事実であり、その代表例が今回の症例で報告されたような慢性疼痛や精神疾患、難病などで苦しむ患者さんです。

現行治療で十分に治療効果が認められない人たちにとって、大麻が救いとなる可能性があること。今回の症例報告を通して、このことが1人でも多くの人に伝われば幸いです。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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