2022年4月6日、皮膚リンパ腫患者の大麻の使用状況を調査した論文が、アメリカの皮膚科医らにより公開されました。
皮膚リンパ腫とは、リンパ球が腫瘍化し増殖していくことで、皮膚病変をもたらす悪性腫瘍です。最も発症頻度が高いのは皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症とセザリー症候群で、皮膚リンパ腫のうち半数以上を占めます。
※リンパ球とは
免疫を担う細胞。B細胞、T細胞、NK細胞がある。
それぞれの主な役割は以下の通り。
・B細胞:異物の認識し、抗体を作る
・T細胞:異物を認識し、免疫細胞の活性化や抗体産生を促進する
・NK細胞:異物を即時に攻撃する
治療はステロイド外用薬、放射線治療や光線治療、化学療法やインターフェロンによる免疫療法などがあり、病期や病状に応じて行われます。
予後は種類にもよりますが、例えば菌状息肉症では、早期においては良好となっています。ですが、他臓器にまで転移している進行例では予後が不良となっており、1〜2年で死に至ると言われています。
症状は多様で、紅斑や結節、皮疹などがみられますが、中でも多くの人がかゆみに悩まされています。皮膚T細胞リンパ腫患者のうち66%がかゆみに苦しんでいるというデータも存在します。
今回の研究は2019年7月から2週間に渡り、皮膚リンパ腫患者を対象に行った匿名オンラインアンケートによるものです。
有効回答者数は119名で、大多数(74%、88名)が菌状息肉症あるいはセザリー症候群で、次いで末梢性T細胞リンパ腫(31%、26名)でした。
かゆみを抑えるために使用しているものとして多かったのは、軟膏や局所ステロイド薬でした。これらによるVASスケール(症状の改善度合いを10段階で評価。数値が高いほど改善度が高いことを意味する)は平均して3.15でした。
回答者のうち55%(60名)が大麻を使用したことがあり、現在も使用している人は22%(24名)で、このうち皮膚リンパ腫と診断された後に使用し始めた人は10名でした。これは統計上、皮膚リンパ腫の人は一般の人と比べて大麻を使用する割合が高いことを示しています。
使用方法として最も多かったのは喫煙(54%)や気化摂取(46%)で、次いで経口摂取(33%)、外用薬(29%)でした。かゆみに対しては気化摂取・外用薬が一般的であったと報告されています。
大麻の使用目的として最も多かったのは不安やうつ、ストレスへの対処(15名、63%)で、次いで痛みの改善(11名、46%)でした。特にかゆみのために大麻を使用していると回答した人は6名(25%)でした。
全体として大麻の使用により治療効果を実感しており(VASスケール:6.2)、かゆみにおいても中程度の改善(VASスケール:6.6)が報告されています。
回答者のほとんどががんにおける大麻の情報に関心を持っており、約70%が医療機関からの情報提供を求めていました。ですが実際に医療者から情報を得たのは1名しかおらず、大半がインターネットやSNS、友人を通して情報を得ていました。この結果を受けて研究者らは、医療従事者への教育や、医師・患者間でオープンにコミュニケーションがとれるような取り組みが必要であると述べています。
なお、研究者らは前年に皮膚リンパ腫患者における統合医療の活用状況についても調査しており、292名のうち59%(約170名)が何かしらの補完代替療法を活用し、特にかゆみに苦しんでいる人たちにおいてその傾向が強かったことを報告しています。このことから、現行治療ではかゆみを十分にコントロールできていない人が、大麻などの補完代替療法に助けを求めているのだろうと、研究者らは推察しています。
現行治療ではどうにもならない部分を、大麻や他の補完代替医療に求める人がいるということを、医療従事者は認識する必要があると言えるでしょう。