神経痛患者、医療用大麻の使用で痛みと睡眠が改善

神経痛患者、医療用大麻の使用で痛みと睡眠が改善

- ドイツの観察研究

8月17日、慢性的な神経障害性疼痛を有する患者が、主にTHCを多く含む医療用大麻を使用したことで痛みや睡眠の改善を認めていたことがドイツの研究者らにより報告されました。論文は「Medical Cannabis and Cannabinoids」に掲載されています。

神経障害性疼痛とは、何らかの原因で神経が障害されることにより生じる痛みのこと。電気が走るような痛みに加え、しびれも伴います。具体例として、帯状疱疹後の痛みや坐骨神経痛、抗がん剤治療の副作用や糖尿病による末梢神経障害などが挙げられます。

神経障害性疼痛は慢性化すると、精神的な影響も相まって痛みへの感受性が高くなり、通常では痛みを感じない程度の刺激で痛みを感じるアロディニア(異痛症)が認められやすくなります。

オピオイドは最も効果の高い鎮痛薬として知られていますが、神経障害性疼痛においては有効性が乏しい傾向にあります。プレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)といった神経障害性疼痛を緩和する薬もありますが、これらの有効性も限定的です。

大麻は鎮痛作用があることで知られており、この有効性は特に神経障害性疼痛を始めとした慢性疼痛において報告されています。

今回の研究舞台は2017年に医療用大麻を合法化したドイツ。ドイツでは、従来の治療法で有効性が認められない場合に医療用大麻が処方されますが、ドイツ疼痛学会は医療用大麻による治療の主な適応症の1つとして神経障害性疼痛を挙げています。

気化摂取による大麻の鎮痛効果を評価

ドイツの研究者らは、医療用大麻治療の遠隔プラットフォーム「Algea Care」の患者データを活用し、神経障害性疼痛に対する医療用大麻の有効性と安全性を評価しました。

解析対象に含まれたのは、18歳以上で3ヶ月以上神経障害性疼痛に悩まされていた患者99名(平均年齢38歳、男性87%)。参加患者は自由なタイミングで大麻の花をヴェポライザーで気化摂取するよう指示されました。

患者は4〜6週間ごとに医師からのオンライン診療を受け、痛みと睡眠障害の程度を0(なし)〜10(想像できる最悪の状態)のいずれかで評価しました。

6週間以内に痛みと睡眠が改善

ベースライン時の疼痛スコアの中央値は7.5。96%以上が自身の痛みを7以上と評価していました。

医療用大麻による治療開始から6週間後の初回フォローアップ診察の時点で、疼痛スコアの中央値は3.75となり有意に改善。その後6ヶ月に渡り5回のフォローアップ診察が行なわれましたが、疼痛スコアの中央値は3.5〜3.0とわずかに減少し、悪化することなく維持されました。

疼痛スコアで7以上の強い痛みを訴えていた患者は15%に減少し、84%の改善率が示されました

出典:Medical Cannabis and Cannabinoids「Medical Cannabis Alleviates Chronic Neuropathic Pain Effectively and Sustainably without Severe Adverse Effect: A Retrospective Study on 99 Cases」

医療用大麻治療前に使用していた鎮痛薬の種類ごとにグループ分けしてみても、医療用大麻による鎮痛効果は同様でした。

鎮痛薬の追加使用についての情報は91名から得られ、このうち50%は医療用大麻以外に追加で鎮痛薬を服用していないにも関わらず、疼痛スコアの中央値が4.0にまで減少。医療用大麻以外にも鎮痛薬の追加使用を継続していた人の疼痛スコアの中央値は3.5でした。

睡眠に関しては多くの患者が重度の睡眠障害に苦しんでおり、ベースライン時の睡眠障害スコアの中央値は8。医療用大麻治療開始から6週間後、睡眠障害スコアの中央値は2にまで減少し、この改善は観察期間である6ヶ月まで維持されました

出典:Medical Cannabis and Cannabinoids「Medical Cannabis Alleviates Chronic Neuropathic Pain Effectively and Sustainably without Severe Adverse Effect: A Retrospective Study on 99 Cases」

また、医療用大麻による治療開始から6週間後の初回フォローアップ診察の時点で、患者の90%が全身状態の改善を報告。6ヶ月間を通して、99%の患者が1回以上のフォローアップ診察で全身状態の改善を報告しました

64%以上の患者がTHC16〜22%の大麻を使用

使用された医療用大麻のTHC含有量は12〜22%と幅がありましたが、最も多かったのはTHC16〜22%でした(全患者の64%)。

医療用大麻の1日最大使用量は0.15〜1gで、最も多かったのは0.3g/日(58%)。次いで0.15g/日(16%)、0.5g/日(12%)となっていました。

医療用大麻の使用タイミングは患者によって異なり、決められた時間に使用した人もいれば、痛みが出現した時に使用した人もいました。

安全性は概ね良好

6回のフォローアップ診察を通して得られた307件の回答のうち、91%で良好な治療耐性が報告されました。

医療用大麻の使用により粘膜組織の乾燥(18件)、疲労(16件)、食欲の変化(9件)、めまい(3件)、吐き気(3件)、落ち着きの無さ(3件)などの軽度な副作用は報告されましたが、精神病頻脈呼吸障害睡眠障害性機能障害といった重篤な副作用は報告されませんでした。

医療用大麻による鎮痛効果は迅速かつ持続的

これらの結果を受け、ドイツの研究者らは以下のように述べています。

「本研究の結果、慢性神経障害性疼痛は医療用大麻で効果的、持続的かつ安全に治療できることが実証されました。最大の疼痛緩和は6週間以内に達成。短期間では改善しないという慢性神経障害性疼痛の可塑的な特徴を考慮すると、医療用大麻の効果は比較にならないほど迅速です。このコホートでは、以前に使用された他の鎮痛薬の効果が限定的であったり全くなかったりしたので、40%以上の改善は成功とも言えます」

「効果の持続性と安定性は疼痛治療にとって重要な問題です。本研究では最長6ヵ月間の追跡調査を行い、疼痛スコアがほぼ減少したレベルで安定していることが示されました

「鎮痛効果は大麻治療前に使用した鎮痛薬に関係なく得られました。鎮痛薬を併用しても期待する効果が得られない従来のケースでは、医療用大麻が強力な代替薬となる可能性があります。また、他の薬剤との併用も選択肢となり得ます」

「本研究で患者の睡眠障害が大きく改善したのは、おそらく痛みの症状が改善したためだと考えられます。しかし、医療用大麻の直接的な効果が関与している可能性もあります。いずれにせよ、この治療により大多数の患者において、生活の質にとって重要なパラメータである睡眠の質が十分に改善されました」

ただし、これらは単一施設から得られた結果であること、男性患者が多いこと、大麻の吸入に寛容な患者を選択したことによるバイアス(偏り)のリスクがあるなど、多くの限界があります。そのため、医療用大麻の有効性を実証するためには今後もさらなる研究が必要となります。

今回の研究以外でも最近、THC20%を超える大麻が神経障害性疼痛の緩和に有効であったことがアメリカにおいて報告されています。アメリカの医療用大麻合法州のほとんどが大麻の適応症として慢性疼痛を挙げていますが、神経障害性疼痛を明確に適応症としているのは10州のみとなっています。

医療用大麻を推奨する医師と患者をつなぐプラットフォーム企業「NuggMD」は、神経障害を有する患者603名(男性50.4%、女性48.4%)を対象とした調査を実施。248名は神経障害性疼痛の緩和を第一目的として、355名は神経障害性疼痛の緩和を二次的な目的として大麻を使用していました。

合計592名が医療用大麻使用前後の疼痛レベルについて回答。大麻の使用前、86.2%(520名)が10段階中6以上の痛みがあると回答し、平均疼痛レベルは7.46となっていました。

出典:NuggMD「New Survey Suggests Medical Cannabis as Effective as Opiates for Neuropathic Pain」

医療用大麻の使用後、平均疼痛レベルは3.44にまで減少。また、痛みレベルが10段階中6以上であると回答した520名のうち、51.7%が痛みレベルが3以下になったと報告しています。

出典:NuggMD「New Survey Suggests Medical Cannabis as Effective as Opiates for Neuropathic Pain」

これらのデータは、医療用大麻による平均疼痛緩和レベルが10段階中4.2であることを示しています。先行研究と比較すると、この鎮痛効果は一部の患者にとって「オピオイドに匹敵する」とNuggMD社は述べています。

この調査において特徴的だったのは、大多数の人がTHC20%以上を含む医療用大麻製品を使用していたことです。また、およそ9割が喫煙や気化摂取により大麻を摂取していました。

医療用大麻による副作用を報告したのは18名と少数で、具体的に不安、口渇、めまい、食欲増進、心拍数の増加、パラノイアなどが挙げられました。

これらの結果について、NuggMD社は「我々の調査結果は、高THCの大麻を使用した人が神経障害に対してより顕著な痛みの緩和を見出したことを実証しました」と述べています。

そして、医療及び嗜好用大麻市場では今回の調査で使用されたような高THC製品が流通しているにも関わらず、大麻研究において米国麻薬取締局(DEA)から認可を受けた低THCの大麻製品しか使用できない現状を疑問視するとしています。

このような状況は今後、米国麻薬取締局が米国保健福祉省の勧告を受け入れることで改善される見込みです。

なお、米国の非営利医療委員会「The Board of Medicine」は最近、オピオイドに替わる鎮痛薬としてカンナビノイドを処方するための診療ガイドラインを提唱。このガイドラインでは、神経障害性疼痛を含む様々な痛みに対するカンナビノイドの投与方法が記載されています。

これによれば、第一選択として使用されるカンナビノイドはCBDであり、THCを使用する際には多くてもTHC:CBD=1:1までの量が推奨されています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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