11月17日、主要なエンド(内因性)カンナビノイドである「アナンダミド」が気管拡張作用をもたらすことがドイツの研究チームにより報告されました。
気管や細気管支といった呼吸の通り道を拡げる作用は、喘息やCOPD(閉塞性肺疾患)に有望となることを意味します。
メタコリンやセロトニンにより収縮させたマウスの気管組織において、アナンダミドは強力な気管拡張作用を誘導。マウスの気管組織ではCB1・CB2受容体とアナンダミドの分解酵素であるFAAH(脂肪酸アミドヒドラーゼ)の発現が確認されましたが、アナンダミドの気管拡張作用の要となっていたのはカンナビノイド受容体ではなく、FAAHによる分解産物「アラキドン酸」でした。
※アラキドン酸とは?
オメガ6脂肪酸の1つで、食事からしか摂取できない脂肪酸である「必須脂肪酸」に分類される。魚、肉、卵などに多く含まれる。
アナンダミドから分解されたアラキドン酸はCOX(シクロオキシゲナーゼ)によりプロスタグランジンE2へと変換され、プロスタグランジンE2受容体を活性化(気管拡張作用に関連していたのはEP2、EP4)。これにより気管においてcAMP(サイクリックAMP)が増加し、気管拡張作用が認められた可能性が示されました。
※COXとは?
プロスタグランジンの合成酵素。この酵素を阻害する代表的な薬がロキソニンやインドメタシンといった非ステロイド性抗炎症薬(N-SAIDs)。
※プロスタグランジンE2とは?
プロスタグランジンとは、炎症反応を始めとした多様な作用を持つ生理活性物質であり、そのうちの1つにプロスタグランジンE2がある。EP1、2、3、4の4種類の受容体と結合することで、痛みや発熱、分娩や血管拡張など様々な作用をもたらす。
※cAMPとは?
ホルモンや神経伝達物質が受容体(Gタンパク質共役型受容体)と結合することにより、二次的に作用をもたらす情報伝達物質。エネルギーの貯蔵・利用を媒介するATP(アデノシン三リン酸)から合成される。ここでは、プロスタグランジンE2がEP2およびEP4受容体に結合することでcAMPの合成が促進され、最終的に気管の平滑筋が緩められたという解釈となる(複雑になるため、細かい部分は割愛)。
これらはマウスの気管組織だけでなく、人の細胞(hTEPC:ヒト気管上皮細胞、hASMC:ヒト気道平滑筋細胞)においても観察されました。
さらにマウスの肺スライスを用いた検証により、FAAHは細気管支(肺の中の呼吸の通り道)においても発現しており、アナンダミドはこの部位でもFAAHを介して拡張作用をもたらすことも明らかに。
また、気管を拡張させる薬に「イソプロテレノール」という薬剤がありますが、マウスの気管組織を用いた検証では、イソプロテレノールは長時間の使用により気管拡張作用が徐々に弱くなる一方、アナンダミドでは作用が弱まることなく持続することも示されました。
ここまでは組織や細胞を用いた検証ですが、この研究では生きたマウスにおいても検証を実施。セロトニンによる気管収縮はアナンダミドを吸入させることにより抑制され、この作用には心血管系の副作用を伴わないことも示されました。
また、オボアルブミン(OVA)により喘息を誘発させたマウスでは、通常のマウスと比べてアナンダミドやアラキドン酸だけでなく、アナンダミドを合成する主な酵素(NAPE-PLD、ABDH4、GDE1)も減少していたことが明らかに。このマウスにおいてもアナンダミドを吸入させることにより、気管拡張作用が認められました。
これらの結果は、アナンダミドがFAAHによって分解されることから始まる代謝経路が、気道の収縮や弛緩において重要な役割を担い、閉塞性肺疾患の治療標的となる可能性を示しています。
なお、OVAにより喘息を誘発させたマウスでは、アナンダミドと同じく主要なエンドカンナビノイドとして知られる「2-AG」も減少していました。そのため2-AGを用いて検証を行った結果、2-AGにも強力な気管拡張作用があることが明らかに。ただしこれにはアラキドン酸は関与せず、この研究ではこれ以上の検証は行われませんでした。