4月24日、米国連邦政府機関である国立衛生研究所(NIH)は、高齢者の慢性疼痛における幻覚剤(サイケデリクス)を用いた治療の安全性と有効性を検証する研究のために、840万ドル(約12億9,600万円)の資金提供を行う計画を発表しました。
ここで言う「幻覚剤」とは、シロシビン、DMT、LSD、メスカリン、MDMAなどの”古典的な”サイケデリクスのことを指し、大麻やケタミンは含まれません。また、”幻覚剤を用いた治療”とは、心理療法と幻覚剤を組み合わせた治療(幻覚剤支援療法)のことを指します。
この計画は2段階(フェーズ)の臨床試験から構成されます。フェーズ1の臨床試験では、健康な高齢者を対象とし、幻覚剤を用いた治療の安全性を検証。フェーズ2の臨床試験では、がん性疼痛、筋骨格系痛、末梢神経障害、帯状疱疹後神経痛、頭痛などの慢性疼痛を有する高齢者において、安全性と有効性の検証が行われます。
国立衛生研究所は研究機関に対し、フェーズ1において最長2年間、フェーズ2において最長3年間支援を行う予定。計画によれば、2025〜2026年度には年間340万ドル(約5億2,500万円)、2027〜2029年度には年間500万ドル(約7億7,100万円)が研究機関に提供される予定となっています。
研究機関は2024年9月10日より助成金を申請をすることが可能。研究の最短開始日は2025年7月からとされています。
幻覚剤を用いた治療は近年、特にメンタルヘルスを中心とした疾患において期待が高まっています。
実際に今回の計画の中でも、国立衛生研究所はその背景について「幻覚剤支援療法の有効性を示す証拠は、うつ病、不安(特に実存的苦悩)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、物質使用障害などで特に注目されている」と説明しています。
米国FDA(食品医薬品局)はすでに、うつ病に対するシロシビン治療、PTSDに対するMDMA治療、全般性不安障害に対するLSD治療を画期的治療に指定しています。PTSDに対するMDMA治療に関しては現在優先審査が行われており、早ければ今年8月に新薬として承認される可能性があります。
また、米国FDAは2023年6月、幻覚剤を用いた研究における考慮事項を定めたガイダンスの草案を発表しています。
オーストラリアは2023年7月より、PTSDに対するMDMA治療、難治性うつ病に対するシロシビン治療を合法化。2024年2月には、国内初となる幻覚剤クリニックを開院しました。
日本でも2023年、大手製薬会社である大塚製薬が幻覚剤医薬品企業の買収を発表しています。
※為替は記事公開時点のレートで計算しており、リンク先の記事と日本円の数字が異なることがあります。最新の米ドル・円の相場はこちら。
Marijuana Moment「Feds Announce Plan To Fund Research On Using Psychedelics To Treat Chronic Pain In Older Adults」https://www.marijuanamoment.net/feds-announce-plan-to-fund-research-on-using-psychedelics-to-treat-chronic-pain-in-older-adults/
Department of Health & Human Services「Safety and Early Efficacy Studies of Psychedelic-Assisted Therapy for Chronic Pain in Older Adults (UG3/UH3 Clinical Trial Required)」https://grants.nih.gov/grants/guide/rfa-files/RFA-AG-25-004.html
U.S. Food and Drug Administration「FDA Issues First Draft Guidance on Clinical Trials with Psychedelic Drugs」https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-issues-first-draft-guidance-clinical-trials-psychedelic-drugs