米国FDAがLSDベースの薬を不安障害の画期的治療薬に指定

米国FDAがLSDベースの薬を不安障害の画期的治療薬に指定

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3月7日、バイオ医薬品企業「MindMed社」はLSDベースの治療薬「MM120」が不安障害に対する「画期的治療薬」として米国FDA(食品医薬品局)に指定されたことを発表しました

画期的治療薬(Breakthrough Therapy)とは、重病に対する新薬の開発・審査期間を短縮することを目的としたFDAの制度のこと。予備的な研究において利用可能な治療よりも高い改善を示した薬剤がこの対象となります。

LSD(リゼルグ酸ジエチルアミド)はライ麦の麦角菌から合成されるサイケデリクス(幻覚剤)であり、「エル」や「アシッド」とも呼ばれています。

MM120(リゼルギドD酒石酸塩)はLSDの酒石酸塩(LSDを安定化したもの)であり、セロトニン(5-HT)2A受容体を部分的に活性化することで抗不安・抗うつ作用などが期待されています。

MindMed社は2023年、全般性不安障害患者198名を対象とし、MM120の有効性と安全性を検証する第2相試験(比較的少人数の患者に対する臨床試験)を実施。参加者はMM120投与群(用量ごとに25μg群、50μg群、100μg群、200μg群)とプラセボ投与群にランダムに振り分けられました。

主要評価項目はHAM-A(ハミルトン不安評価尺度)。この評価尺度では、17点未満で軽度、18〜24点で軽度〜中等度、25〜30点で中等度、それ以上で重度の不安障害と評価されます。他にも、1点(正常)から7点(非常に重度)で精神状態を評価するCGI-S(臨床全般印象・重症度スコア)も用いられました。

最終解析対象に含まれた194名は治験開始以降、少なくとも1回以上HAM-Aスコアの改善を経験。最も高い成果が認められたのはMM120を100μg投与した群であり、その有効性は治験開始2日目から観察され、さらなる改善を認めながら12週間持続したと報告されています。

研究開始時の参加者のHAM-Aの平均は約30点(重度)でしたが、治験開始12週間後には-21.9点となり、プラセボ(-14.2点)と比較して有意に改善。臨床反応率は65%で、臨床寛解率は48%を示しました。CGI-Sも平均4.8点から2.2点となり、持続的な改善が認められました。

MM120の忍容性は基本的に良好であり、認められた副作用は一過性で、軽度から中等度のものがほとんど。高用量投与により10%以上で認められた副作用は錯覚、幻覚、多幸感、不安、異常思考、頭痛、知覚異常、めまい、振戦、吐き気、嘔吐、異常感、散瞳、多汗と報告されました。

不安障害における現行の薬物療法ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やセロトニン1A部分作動薬などが用いられていますが、これらの薬効が発現するまでには少なくとも2週間はかかります。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性があるものの、依存性が問題となるため、長期の服用は推奨されていません。

このような中、MM120がわずか2日間で12週間に渡る抗不安作用を発揮し、高い寛解率をもたらしたことは注目に値します。さらに驚くべきことに、参加者は事前に服用中の抗不安薬や抗うつ薬を減薬しており、最終的にこれらを断薬した状態で治験に臨んでいました。

つまり、MM120は併用薬もなく、精神療法も行わず、単剤のみで高い効果をもたらしたということです。なお、FDAは最近PTSDに対するMDMA支援療法の新薬申請を受理しましたが、この治療にはMDMAの投与だけでなく、トークセラピーも治療の一環として組み込まれています。

MindMed社によれば、第2相試験の有望な研究結果とこれまでの他の研究結果から、FDAはMM120を全般性不安障害に対する「画期的治療薬」に指定。今後同社は2024年前半にFDAとの第2相試験終了会議を経た後、2024年後半に第3相試験(新薬誕生に向けた最終段階の治験)を開始する予定です

治験責任医師であり、カリフォルニア大学サンディエゴ校の精神医学名誉教授であるデビット・ファイフェル(David Feifel)博士は「私は20年以上に渡って精神医学の臨床研究を行い、不安治療のために開発中の多くの薬剤の研究を見てきた。MM120が迅速かつ持続的な有効性を示し、(その効果が)単回投与後12週間持続したことは本当に驚くべきことだ」

「これらの結果は、MM120が不安症の治療において潜在的な可能性を有していることを示している。患者の不安を緩和するために日々奮闘している私たちは、今後の第3相臨床試験の結果を楽しみにしている」とコメント。

MindMed社のCEOであるロバート・バロウ(Robert Barrow)氏は「FDAがMM120を全般性不安障害の画期的治療薬として指定することを決定したこと、そして当社のフェーズ2b試験で得られた持続的なデータは、全般性不安障害に苦しむ人々の間に存在する膨大で未充足なニーズに対応する上で、この治療薬が重要な役割を果たす可能性があることをさらに実証している」と述べました。

近年サイケデリクス治療においては、特にシロシビンとMDMAが注目されています。難治性うつ病に対するシロシビン治療、PTSDに対するMDMA支援療法はすでにFDAから画期的治療薬に指定されており、米国医師会がこれらの治療に対し承認した医療コードも2024年1月より有効となっています。

さらに、オーストラリアでは2023年7月より、難治性うつ病に対するシロシビン治療、PTSDに対するMDMA治療が合法化されています。2024年2月1日には国内初となる幻覚剤クリニックも開院しました

これらのサイケデリクスと比べ、LSDはそこまで注目されていないように感じられますが、予備的な研究では様々な有効性が報告されています。

例えば、前述のMM120は大うつ病性障害患者を対象とした第2相試験においても有望な結果を残しており、不安障害における治験と同様、プラセボと比較して迅速かつ持続的な改善をもたらしています

オーストラリアのメルボルンに本社を置く製薬会社「MindBio Therapeutics」は、LSDのマイクロドージング(微量投与)が気分を改善し、うつ病などの精神疾患の治療に役立つ可能性があることを報告。同社はLSDのマイクロドージングが睡眠の改善にも有益となる可能性も報告しています

さらに、「South African medical journal」に掲載されたレビューでは、LSDとシロシビンは感情が大きく関与する慢性疼痛においても有効となり得ることが指摘されています。レビューによれば、これらの物質は痛みを直接的に緩和するのではなく、痛みの経験をよりよくコントロールするのに役立つ可能性があると説明されています

Marijuana Moment「LSD-Like Drug Wins FDA ‘Breakthrough Therapy’ Status For Treatment Of Generalized Anxiety Disorder」https://www.marijuanamoment.net/lsd-like-drug-wins-fda-breakthrough-therapy-status-for-treatment-of-generalized-anxiety-disorder/

MindMed「MindMed Receives FDA Breakthrough Therapy Designation and Announces Positive 12-Week Durability Data From Phase 2B Study of MM120 for Generalized Anxiety Disorder」https://ir.mindmed.co/news-events/press-releases/detail/137/mindmed-receives-fda-breakthrough-therapy-designation-and-announces-positive-12-week-durability-data-from-phase-2b-study-of-mm120-for-generalized-anxiety-disorder

Benzinga「Groundbreaking Study: LSD Tartrate Reduces Anxiety Effectively, Says MindMed」https://www.benzinga.com/markets/cannabis/23/12/36244224/groundbreaking-study-lsd-tartrate-reduces-anxiety-effectively-says-mindmed

Compass Pathways「Compass Pathways receives FDA Breakthrough Therapy designation for psilocybin therapy for treatment-resistant depression」https://compasspathways.com/compass-pathways-receives-fda-breakthrough-therapy-designation-for-psilocybin-therapy-for-treatment-resistant-depression/

Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies – MAPS「FDA Grants Breakthrough Therapy Designation for MDMA-Assisted Therapy for PTSD, Agrees on Special Protocol Assessment for Phase 3 Trials」https://maps.org/news/media/press-release-fda-grants-breakthrough-therapy-designation-for-mdma-assisted-psychotherapy-for-ptsd-agrees-on-special-protocol-assessment-for-phase-3-trials/

Business Wire「MindMed Collaborators Announce Positive Topline Data from Phase 2 Trial of Lysergide (LSD) in Major Depressive Disorder (MDD)」https://www.businesswire.com/news/home/20230414005081/en/MindMed-Collaborators-Announce-Positive-Topline-Data-from-Phase-2-Trial-of-Lysergide-LSD-in-Major-Depressive-Disorder-MDD

Psychedelic Spotlight「Phase II Study Shows LSD Is Effective In Treating Major Depressive Disorder」https://psychedelicspotlight.com/phase-ii-study-shows-lsd-is-effective-in-treating-for-major-depressive-disorder/

Psychedelic Spotlight「New Study Says LSD and Psilocybin Could Outperform Opioids for Pain, Without Developing Tolerance」https://psychedelicspotlight.com/lsd-and-psilocybin-could-outperform-opioids-for-pain/

Marijuana Moment「LSD And Psilocybin Could Be Powerful Treatments For Pain—Without Opioids’ Dwindling Effects Over Time, Study Says」https://www.marijuanamoment.net/lsd-and-psilocybin-could-be-powerful-treatments-for-pain-without-opioids-dwindling-effects-over-time-study-says/

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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