大麻が外傷から脳を保護する可能性を示す最新の研究結果

- アメリカの観察研究

外傷性脳損傷で救急搬送された患者の臨床経過を分析したところ、大麻使用者では非使用者と比べて回復が早く、退院後の経過が良好であったことが報告されました。論文は「Neuropsychiatric Disease and Treatment」に掲載されています。

外傷性脳損傷(TBI)とは、交通事故、格闘技やアメフトなどのコンタクトスポーツ、転倒や転落など、外部から頭に強い力が加わることにより脳組織がダメージを受けた状態のことを指します。

外傷性脳損傷は脳震盪のような軽いもので済む場合もありますが、ダメージを受けた部位やその程度、治療までの時間によっては、致命的になることも多いです。そのため、外傷性脳損傷が疑われる場合、すぐに医療機関で検査・処置を行うことが重要となります。

また、命に別状がなかったとしても、障害の部位や程度によっては麻痺、感覚障害、集中力や記憶力の低下、遂行機能障害など、様々な後遺症が認められる場合もあります。

大麻やカンナビノイドは多くの研究により神経保護作用を有する可能性が指摘されており、外傷性脳損傷においてもその有効性が期待されています。実際、全米で最も高い人気を誇るプロスポーツであるNFLは、カンナビノイドの神経保護作用を検証する研究のために資金提供を行っています

外傷性脳損傷患者の臨床経過を分析

アラバマ大学バーミンガム校の研究チームは、大麻の使用が外傷性脳損傷の臨床転帰に及ぼす影響を明らかにするため、外傷性脳損傷により救急搬送された患者の臨床経過を分析。分析には、2014年1月〜2016年12月にアラバマ大学バーミンガム病院の救急外来に搬送された外傷性脳損傷患者の電子カルテのデータが用いられました。

研究チームはこれらのデータを介して、それぞれの患者の入院期間、死亡率、入院中及び退院後の転帰を分析。なお、この研究において大麻使用者とは、入院時の尿検査において大麻の陽性反応が認められた者を指します。

大麻使用者は回復が早く、退院後の障害も少ない

解析対象に含まれたのは、3,729例の患者データ。このうち、大麻使用者は22.2%を占めていました。

全体的に、大麻使用者は入院時の重症度が高かった(GCSが低スコアであった)にも関わらず、非使用者と比べて退院時の障害の程度(mRS)が低かったことが明らかに。mRSで「障害なし」と分類された患者は、大麻使用者では49.2%、非使用者では27.2%となっていました。

GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)

意識レベルを評価する指標。15点満点で、スコアが低いほど重症度が高いことを示す(軽度:14〜15点、中等度:9〜13点、重度:3〜8点)。

mRS(modified Rankin Scale)

脳や神経の疾患による障害の程度を評価する尺度。0(障害なし)〜6(死亡)で評価する。

入院時の重症度(GCS)

       

大麻使用者

非使用者

重度

17.3%

13.8%

中等度

8.2%

8.5%

軽度

74.5%

77.6%

退院時の障害の程度(mRS)

    

大麻使用者

非使用者

障害なし

49.2%

27.2%

わずか

22.8%

27.2%

軽度

9.0%

15%

中等度

8.7%

15.2%

中〜重度

5.0%

8.1%

重度

1.6%

2.4%

死亡

3.9%

4.8%

大麻使用者は非使用者よりも入院期間が短く(4日以上の入院:36.6%:45.0%)、自宅に退院する割合が高くなっていました(83.9%:74.9%)。また、統計的に有意ではなかったものの、大麻使用者では死亡率が低い傾向も示されました(3.9%:4.8%)。

入院期間

   

大麻使用者

非使用者

1日間

49.5%

39.8%

2日間

7.2%

8.4%

3日間

6.8%

6.9%

4日以上

36.6%

45.0%

退院後においても、大麻使用者は非使用者と比べ、3ヶ月後(76.7%:69.6%)、6ヶ月後(92.6%:85.6%)、利用可能な最終記録(94.9%:90.7%)において、有意に転帰が良好(mRSのスコアが0〜2)であることが明らかとなりました。

退院後のmRS(良好の割合)

       

大麻使用者

非使用者

3ヶ月後

76.7%

69.6%

6ヶ月後

92.6%

85.6%

最終調査時

94.9%

90.7%

最後に、回帰分析の結果、他のいかなる要因を考慮しても、大麻検査で陽性であることは独立して入院期間の短さと退院後の良好な転帰と関連していることが示されました。

これらの結果から、著者は「大麻検査で陽性の外傷性脳損傷患者では、陰性の患者と比較して、短期及び長期の転帰が良好であることが示された」

「統計学的に有意ではないにせよ、(スクリーニングで)大麻が陰性と判定された患者の死亡率は、陽性と判定された患者の死亡率に比べ、数値的に高い。このことは最近のレビューで示唆されているように、中等度または重度の外傷性脳損傷において大麻をさらに調査する必要がある可能性を強調している」

「この大規模な後ろ向き研究において、我々は外傷性脳損傷の前に嗜好用大麻を使用することで、短期及び長期の神経保護効果が得られる可能性があることを示した」と述べています。

ただし、この研究は観察研究という性質上、大麻と外傷性脳損傷の転帰との間の因果関係を明確にできないことや、実際の大麻の使用状況やカンナビノイド含有量についての情報がないことなど、いくつかの限界があります。

そのため、今回の研究結果は、今後より質の高い研究を実施することで、外傷性脳損傷に対する大麻やカンナビノイドの有効性を検証することの必要性を訴えるものと言えるでしょう。

大麻やカンナビノイド(特にCBD)が外傷性脳損傷において有効となる可能性は、主に動物での研究において報告されています。

例えば、メキシコの研究チームは外傷性脳損傷モデルマウスにCBDを経口投与した結果、グルタミン酸の過剰放出の抑制、死亡率の低下、感覚運動機能の改善が認められたことを明らかにし、CBDが短期及び長期的に、軍人やコンタクトスポーツ選手など外傷性脳損傷を発症するリスクがある人々に有益となる可能性があることを報告しています

また、別の観察研究では今回の研究とは異なり、大麻検査で陽性反応が出た外傷性脳損傷患者において、死亡率が有意に低かったことが報告されています。さらに他の研究では、死亡率だけでなく、入院期間、人工呼吸器の装着日数、集中治療室の入室率が低かったことも報告されています

さらに、インディアナ大学の研究チームはヘディング後のサッカー選手において、大麻使用者では非使用者よりも脳へのダメージが少なかったことを明らかにしています

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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