大麻成分CBDが歯痛を緩和 オピオイドに匹敵する可能性

大麻成分CBDが歯痛を緩和 オピオイドに匹敵する可能性

- アメリカの臨床試験

大麻成分CBDを摂取することで、中等度〜重度の歯痛を有する患者においてオピオイドに匹敵する鎮痛効果が認められたことがアメリカの研究者らにより報告されました。論文は「Journal of Dental Research」に掲載されています。

歯痛に対して一般的に使用される鎮痛薬には、N-SAIDs(ロキソニン等)やアセトアミノフェン(カロナール等)などがあります。これらで効果がない場合、アメリカではオピオイドが使用される場合もあります。

オピオイドは最も効果の高い鎮痛薬ですが、副作用のリスクがあるため、疼痛コントロールにおいて最終手段として使用されます。しかし、基礎疾患やアレルギーのためにN-SAIDsやアセトアミノフェンを服用できない人もおり、現時点でオピオイドに至るまでの選択肢は限られています。

このような中、注目されているのが大麻やカンナビノイドです。大麻は鎮痛効果があることで知られており、特に慢性疼痛において有効性が示されています

大麻に含まれる主なカンナビノイドであるTHCは鎮痛作用をもたらすものの、精神活性作用を伴うため、一般的に医療現場では受け入れられにくい傾向があります。

一方、もう1つの主なカンナビノイドであるCBDは精神活性作用がなく、鎮痛作用を有する可能性が明らかにされてきていることから、医療現場において期待が寄せられています。

歯痛に対するCBDの有効性を検証する初の臨床試験

アメリカの研究チームは、歯髄炎、歯髄壊死、根尖性歯周炎により中等度〜重度の歯痛を抱える患者に対し、CBDが標準的な鎮痛薬の代替となり得るのかを検証。研究者らによれば、この研究は急性歯痛に対するCBDの有効性を検証する初の臨床試験となります。

研究の対象となったのは、テキサス州の歯科クリニックに来院した18〜75歳の成人患者61名(女性65.5%、平均年齢44歳、ヒスパニック系68%、白人11%)。大麻を含む薬物検査で陽性反応が出た人、1ヶ月以内にオピオイドを使用した人、試験開始6時間前に鎮痛薬を服用した人などは研究から除外されました。

参加者はそれぞれCBD10群(20名)、CBD20群(20名)、プラセボ群(21名)にランダムに振り分けられました。CBD10群は体重1kgあたりCBD10mg、CBD20群は体重1kgあたりCBD20mgを服用するグループとなります。

割り当てられた試薬の服用後、7つの時点(15分後、30分後、45分後、60分後、90分後、120分後、180分後)において、痛みの程度、噛む力、副作用を評価。痛みが強い場合、試薬の服用から60分後には、追加で標準的な鎮痛薬を服用することが認められました。

痛みの強さはVASにて0(なし)〜100(最悪の痛み)で評価。また、参加者は研究前後において、痛みの強さについて「軽減した」「変化なし」「増強した」のいずれかで回答するよう求められました。

できる限り正当な評価を行うため、患者と評価者はそれぞれ誰が何を服用しているのか分からないようにされました(二重盲検ランダム化比較試験)。

この研究では、高濃度のCBDを含むオイル製剤である「エピディオレックス」が用いられました。エピディオレックスは一部の難治性てんかんに対し用いられており、アメリカではFDA(食品医薬品局)から承認を受けています。

なお、日本でも2023年12月に大麻法改正法案が成立し、エピディオレックスを利用できる道が開かれました。

CBDは30分以内に歯痛を緩和

ベースライン時の痛みの強さ(VAS)の中央値は、CBD10群で63、CBD20群で69、プラセボ群で63。治療から3時間後、VASの中央値はCBD10群で21、CBD20群で20、プラセボ群で48となり、CBD群で痛みの緩和が観察されました。この間、追加で鎮痛薬を使用した人はいませんでした。

CBD10群では30分後、CBD20群では15分後から鎮痛効果が現れ始め、CBD10群では120分後、CBD20群では60分後に、痛みの強さが50%減少。180分後の痛みの減少率は、CBD10群・20群共に最大で73%(プラセボ33%)であり、ベースライン時に報告された痛みの強さは、CBD10群・20群において27%まで減少しました。

グループ間で比較した結果、プラセボと比較してCBD10群では180分後、CBD20群では120分後と180分後において、有意な鎮痛効果が示されました。

痛みの強さについて「軽減した」と回答した人も、時間経過とともにCBD群で有意に増加していました。

痛みの強さの中央値
出典:Journal of Dental Research「Cannabidiol as an Alternative Analgesic for Acute Dental Pain」
出典:Journal of Dental Research「Cannabidiol as an Alternative Analgesic for Acute Dental Pain」

ベースライン時の噛む力の中央値はCBD10群で61、CBD20群で53でしたが、CBD群でのみこれらが有意に増加。CBD10群では90分後に86、180分後に80となり、CBD20群では90分後に59、180分後に66となりました。

これらの結果から、研究者らは「このランダム化臨床試験の結果は、急性歯痛に対する純粋なCBD製剤(エピディオレックス)の鎮痛効果を実証している」「CBD10とCBD20は類似した鎮痛特性を示し、高用量では有意な鎮痛効果の発現が早いことが示された」と述べています。

認められたCBDの鎮痛効果はオピオイドに匹敵

この研究ではCBDと標準的な鎮痛薬の効果を比較するため、NNT(治療必要数)も算出されました。NNTとは、ある介入を行った場合、1人に効果が現れるまでに何人に介入する必要があるのかを表す数字のこと。つまり、この数値が少ないほど、治療効果が高いことを意味します。

今回の研究において、CBD10群のNNTは3.1、CBD20群のNNTは2.4。

論文によれば、イブプロフェン(N-SAIDs)400〜600mgのNNTは2.5〜2.7、イブプロフェン200mg・アセトアミノフェン500mg併用のNNTは1.6、オキシコドン(強オピオイド)10mg・アセトアミノフェン500mg併用のNNTは2.3であることから、CBDのNNTは「急性歯痛に対するイブプロフェンとオキシコドン・アセトアミノフェン併用療法のNNTの報告範囲内に含まれる」とされています。

これらのことから、研究者らは「CBDの単回投与は現在の鎮痛レジメンと同程度に強力であり、急性の歯痛を効果的に管理できることが示された」と述べています。

CBDの副作用は最小限

報告された副作用として多かったのは、鎮静(CBD10群6名・CBD20群3名)、疲労感(CBD10群3名・CBD20群4名)、眠気(CBD10群3名・CBD20群3名)、下痢(CBD10群1名・CBD20群4名)、腹痛(CBD10群1名・CBD20群4名)など。

CBD10群ではプラセボと比較して180分以内に鎮静を経験する可能性が14倍高く、CBD20群では180分以内に下痢と腹痛を経験する可能性が10倍、鎮静を経験する可能性が8倍高いことが示されました。

CBD20群で認められた腹痛は180分後以降も有意に続きましたが、同日中には消失しました。

CBDで認められた鎮静について、研究者らはセロトニン(5-HT)1A受容体への作用がもたらしたリラックス作用や抗不安作用によるものと考察。下痢や腹痛に関しては、エピディオレックスの添付文書ですでに一般的な副作用として記載されています。

これらのことから、論文では「このような知見は、歯痛を管理するためには通常1回以上の鎮痛薬の服用が必要であるため、歯科患者に対するエピディオレックスの安全な使用を支持している」と述べられています。

最終的に、研究者らは今回の研究結果について「この研究は、純粋なCBDが副作用を最小限に抑えた安全な薬物プロファイルを維持しながら、急性歯痛患者に70%以上の鎮痛効果をもたらし、鎮痛効果中に咬合力を増加させられることを初めて示した。この新たな研究は、急性炎症性疼痛に対するオピオイドに代わる鎮痛薬としてのCBDの使用を促進し、最終的にはオピオイドの蔓延に対処する一助となり得る」と結論づけています。

なお、今回の研究ではサンプル数が少なかったため、年齢や性別による差異を検討できなかったことに加え、痛みと関連する身体的・精神的・社会的要因を考慮することができなかったと説明されています。

近年、CBDを始めとしたカンナビノイドは歯科領域において有望視され始めています。

ベルギーの研究チームは、CBDを始めとしたカンナビノイド(特にCBNCBC)が市販の歯磨き粉よりも歯垢(プラーク)内の細菌数を減少させたこと、さらにCBDあるいはCBGを配合した洗口液がクロルヘキシジンを含有した洗口液と同等の殺菌作用を示したことを報告

イスラエルの研究では、虫歯の主な原因菌である「ストレプトコッカス・ミュータンス」に対し、CBDが殺菌・予防効果を示したことが報告されています

歯科領域では人に対するカンナビノイドの研究がほとんど行われていないため、まだ有効性は不明瞭ですが、引き続き今後の研究に期待が寄せられます。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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