不眠症患者の80%以上が医療用大麻の使用により睡眠薬を中止

不眠症患者の80%以上が医療用大麻の使用により睡眠薬を中止

- カナダの観察研究

カナダで不眠のために医療用大麻を使用している人々を調査した結果、回答者の80%以上がこれまで飲んでいた睡眠薬を飲まなくなり、代わりにTHCを豊富に含んだジョイントベイプを吸引していたことがワシントン州立大学の研究チームにより報告されました。論文は「Exploration of Medicine」に掲載されています。

不眠症とは、夜間に睡眠をしっかりとることができず、日中に眠気・だるさ・集中力低下などを感じ、活動に支障をきたす状態を指します。言い換えれば、睡眠時間が少なくても、日中の生活に影響がなければ不眠症ではないということになります。

このように言うと不眠症の人は少ないようにも感じますが、厚生労働省によれば、日本国内の成人のうち30〜40%が何らかの不眠症状を有しており、不眠症はもはや「国民病」とも表現されています

不眠症のタイプには、以下の4つがあります。

入眠困難:なかなか寝付けない(30分〜1時間以上)

中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてしまう

早朝覚醒:希望する時間よりも2時間以上早く起きてしまい、再入眠できない

熟眠障害:睡眠時間は確保できているが、眠りが浅く熟眠感がない

不眠症の原因としては、以下のようなことが挙げられます。

身体症状:痛み、かゆみ、咳、息苦しさ、頻尿、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)、睡眠時無呼吸症候群、更年期障害など

精神症状:うつ病、不安障害、PTSDなど。ほとんどの精神疾患では不眠を合併する確率が高い

薬の副作用:抗パーキンソン病、降圧薬、ステロイド、気管支拡張薬、抗結核薬、インターフェロンなど

その他:不規則な生活習慣、ストレス、夕方以降のカフェイン摂取、飲酒習慣、寝る前のスマホいじり(ブルーライトの曝露)など

医療用大麻は主に痛みに対して有効性が示されていますが、不眠症においてもよく使用されていることで知られています。例えば、2023年のカナダ大麻調査では、医療用大麻の適応症として最も多く挙げられたのは「睡眠障害・不眠(45%)」であり、慢性疼痛(33%)は2番目となっています。

不眠のために医療用大麻を使用中の患者を対象とした調査

ワシントン州立大学の研究チームは、カナダの医療用大麻ユーザー追跡アプリ「Strainprint」を通じて、不眠症のために医療用大麻を使用している患者を対象としたオンライン調査を実施。

調査の目的は、睡眠のために最も使用されている大麻製品を明らかにすること、睡眠薬の使用状況を調べること、大麻と睡眠薬のメリットとデメリットを比較することでした。

解析対象に含まれたのは1,216名(女性55.9%、平均年齢42.5歳[18〜77歳])。参加者の半数以上が入眠困難(82.2%)、翌日の疲労感(68.1%)、夜中に理由もなく目が覚める(67.1%)、再入眠困難(61.6%)、睡眠不足による翌日のパフォーマンス低下(53.9%)を訴えていました。

64.9%が上記のような睡眠の問題で5年以上悩んでいると回答。このような中、不眠のために医療用大麻を使用している期間が1年未満と回答したのは30.2%、1〜3年間と回答したのは38%、3〜5年間と回答したのは13.6%。68%が医療用大麻を「毎晩使用している」と回答しました。

参加者が抱える併存疾患・症状として多かったのは、胸焼け・胃の問題(79.4%)、不安(61.8%)、慢性疼痛(48.5%)、PTSD(28.6%)でした。

不眠のために求められたのは「THC、CBD、ミルセン」

大多数が医療用大麻の使用により心(83%)と身体(81%)がリラックスすると報告。56.2%が「より深い睡眠」、41.6%が「より長い睡眠」、36.3%が「途切れることのない睡眠」に大麻が役立つと回答しました。

睡眠のために大麻製品を選ぶ際、624名が特定のカンナビノイドテルペンについて考慮すると回答。具体的に好まれたカンナビノイドはTHC(78.8%)、CBD(47.1%)、CBN(18.1%)。これらの結果と一致するように、大多数(60%)がTHC濃度の高い製品を好むと回答しました。

テルペンの中で求められていたのはミルセン(49%)、リナロール(26.9%)、リモネン(24.7%)など。実際にこれらのテルペンは、げっ歯類の研究において鎮静作用が報告されています。

大麻の摂取方法として最も多く挙げられたのはジョイント(46.1%)で、次いでオイル(42.5%)、ドライフラワーの気化摂取(42.6%)、エディブル(34.9%)でした。

これらの結果について、論文では「総合すると、本研究で得られた自己報告による知見は、THC、CBD、ミルセンが睡眠関連の問題を軽減するのに有益である可能性を示す先行研究を支持するものである」と述べられています。

80%以上が睡眠薬を服用せず

過去に処方睡眠薬を服用していたのは53.2%、市販睡眠薬を服用していたのは60.6%。しかし、81.8%がこれらの睡眠薬を現在服用していないと回答しました。

大麻と処方睡眠薬を併用している人は7.9%、大麻と市販睡眠薬を併用している人は4.4%でした。

この結果に対し、研究者らは「サンプルの半数以上が過去に市販の睡眠補助薬や処方睡眠薬を使用したことがあると回答しているが、圧倒的多数(81.8%)は現在市販の睡眠補助薬や処方睡眠薬を使用していないと回答しており、大麻による薬物削減効果の可能性が示されている」と述べています。

大麻では翌朝によりリフレッシュし、集中できる

医療用大麻、処方睡眠薬、市販睡眠薬の3種類全てを使用したことのある526名は、各物質の有効性と副作用について回答を求められました。

その結果、処方睡眠薬や市販睡眠薬のみを使用した場合や何も使用しなかった場合と比べ、大麻を使用した翌朝ではよりリフレッシュし(88.6%)、集中でき(80%)、機能できる(74.9%)と報告した人が有意に多かったことが明らかに。他にも、医療用大麻では頭痛(76.4%)や吐き気(73%)がより少ないとも報告されました。

一方、大麻を使用した翌朝は処方睡眠薬や市販睡眠薬のみを使用した場合や何も使用しなかった場合と比べ、より眠気(22.4%)、不安(24.3%)、イライラ(22.6%)を感じると回答した割合も有意に多くなっていました。

副作用については、大麻の使用により目の充血(43.7%)や口渇(67.9%)が有意に多く報告されましたが、処方睡眠薬や市販睡眠薬では吐き気、不安、心拍数の増加を報告した割合が有意に多かったことが判明。また、処方睡眠薬では大麻と比べ、パラノイアが報告された割合も多くなっていました。

最後に、それぞれの平均睡眠時間について尋ねた結果、大麻の単独使用では6〜8時間の睡眠がとれていると回答した割合が最も多かったことが明らかに(63.2%)。この割合は処方睡眠薬では15.3%、市販睡眠薬では13.1%、大麻と睡眠薬の併用では14.9%、服用なしでは9.5%となっていました。

平均睡眠時間

全体としてこれらの結果は、研究参加者において睡眠薬よりも医療用大麻のほうが有益であると認識されていたことを示しています。

しかし、この研究には、医療用大麻使用者のみを調査対象としたこと(バイアスリスク)、主観的な評価しか存在しないこと(客観的所見の欠落)、睡眠以外の病状の緩和が関連している可能性があること、観察研究という性質から因果関係を明確化できないことなど、いくつかの限界があります。

したがって、医療用大麻が不眠症に対し有効なのかを検証するためには、より質の高い臨床試験の積み重ねが必要となります。

大麻による睡眠の改善は痛みの軽減とともに認められるなど、その他の主症状の改善とともに報告されるケースがほとんどです

実際のところ、現段階で不眠症にフォーカスした医療用大麻の臨床試験は少数しかなく、2023年に公開されたレビューによれば、睡眠障害に対する大麻の使用を支持する強固なエビデンスはないとされています。

しかし、今回の研究でも示されたように、すでに睡眠のために大麻を使用している人からは明確な改善が報告されており、睡眠にフォーカスした大麻の臨床試験も少しずつ実施されるようになってきています。

オーストラリア統合医療国立研究所(NIIM)の研究者らは、不眠症患者29名に大麻オイルを2週間服用してもらった結果、プラセボと比較して夜間のメラトニン量が有意に増加し、65%が臨床的に不眠症と診断されない状態になったことを報告

オーストラリアの医療用大麻患者1,600名を対象とした実態調査では、約8割が大麻の使用により睡眠が改善したと回答。ほとんどの人(94.5%/414名)がベンゾジアゼピンを減薬し、アルコールに関しても514名中62.5%が摂取量を減らしたと報告しました。

米国のニューイングランドの医療用大麻患者1,513名を対象とした調査では、医療用大麻の使用により65.2%が睡眠薬の減薬を報告。この研究では他にも、オピオイド(76.7%)、抗不安薬(71.8%)、偏頭痛薬(66.7%)、アルコール(42%)、抗うつ薬(37.6%)の減薬・減量が報告されています。

米国で最初に嗜好用大麻を合法化した州の1つであるコロラド州の調査では、嗜好用大麻使用者1,000名のうち74%が睡眠を促進するために大麻を使用していると回答。このうち84%が睡眠に大麻が「役立った」と実感しており、ほとんどが処方睡眠薬(83%)や市販睡眠薬(87%)を減薬・中止していました。

これを反映するように別のコロラド州の調査では、嗜好用大麻の販売開始後において睡眠薬の市場シェアが減少したことが明らかにされています

なお、今回の研究結果ではTHCやCBDが人気となっていましたが、近年ではCBNが「眠りのカンナビノイド」とも呼ばれ、注目を集めています。

人を対象としたCBNの研究はほとんどありませんが、大麻・CBD企業が実施した臨床研究では、就寝90分前にCBN20mgを経口摂取したことにより、夜間の覚醒回数が減少し、睡眠への主観的評価が向上したことが報告されています

ただし、大麻も睡眠薬も不眠に対処するための最終手段の1つであり、まずやるべきことは「生活習慣の改善」です。

具体的な行動としては、毎朝同じ時間に起きる(体内時計を整える)、朝日を浴びる(セロトニン・メラトニンの分泌促進)、適度な運動、昼寝は15時までに30分以内とする、夕方以降のカフェイン摂取を避ける、就寝90分前の入浴、就寝前にスマホを見ない(ブルーライトを避ける)などが挙げられます。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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