全米経済研究所(NBER)は2022年末、嗜好用大麻の合法化は雇用や収入の低下と関連せず、むしろ部分的にこれらを増加させていたことを報告。この研究は、サンディエゴ州立大学とベントレー大学の研究者らにより行われたものになります。
「嗜好用大麻の合法化」と聞いて、みなさんはどのような印象を受けますか?もしかしたら、「生産性のない社会になるのでは?」と思う人が多いかもしれません。ですが一方で、嗜好用大麻の合法化は新たな市場を生み出し、雇用を増加させるといった側面も期待されます。
今回報告された論文の導入部分では、嗜好用大麻の合法化が労働に与える影響の賛否について、以下のように述べられています。
労働にマイナスだとする意見
・認知機能や集中力を低下させる
・無動機症候群の有病率を増加させる
・過度の使用により、身体及び精神面の健康状態の悪化させる
・ハードドラッグへ移行させるリスクがある(ゲートウェイドラッグ)
労働にプラスだとする意見
・大麻の栽培、生産、販売など新たな市場が生まれ、雇用機会が増加
・健康問題における症状を緩和し、就労継続や再就職を可能にする
・ストレスを緩和し、精神面での健康を守る
・労働に負の影響を与え得る薬剤(オピオイドや向精神病薬など)を大麻に代替できる可能性がある(これにより少なくとも悪化せず、就労できる可能性が増加)
・大麻による前科がなくなることで、雇用における不平等さがなくなる
今回の研究は、嗜好用大麻の合法化が雇用と収入に与える影響について初めて調べたものになります。この検証は、アメリカの疾病対策予防センター(CDC)の薬物依存・精神衛生管理局(SAMHSA)によって収集された2000〜2020年のデータを用いて、嗜好用大麻の合法化前後で様々な差分分析を実施することにより行われました。
2020年までの間で、12の州とワシントンD.C.で嗜好用大麻が合法化され、このうち、10州とワシントンD.C.で販売が開始されていました。また、嗜好用大麻の合法化が大麻の使用率に及ぼす影響を調べたところ、嗜好用大麻の合法化により大麻の使用率が32〜58%増加していたことが分かりました。
では、このような状況の中で、雇用や収入にはどのような影響がみられたのでしょうか?
全体として、嗜好用大麻の合法化は統計的に有意ではない雇用の増加をもたらし、収入においては有意な影響が認められていなかったことが明らかに。年齢、性別、学歴、人種、産業別で検証してみても、嗜好用大麻の合法化が雇用や収入に影響を与えたとする証拠は認められず、また、合法化された州と隣接する州においても影響が認められていませんでした。
むしろ、嗜好用大麻の合法化は30〜49歳の労働者における短期的な雇用増加、21〜29歳のヒスパニック系の人々における雇用増加、16〜20歳の黒人における収入増加、農業分野における雇用増加と関連していたことが明らかとなりました。
この研究には、嗜好用大麻が合法化されてそこまでの期間が経っていないこと(短〜中期の影響しか分からない)、2020年以降新型コロナウイルスがもたらしたパンデミックによる影響(労働や生活状況の変化がもたらされた)といった限界点があります。ですが、ひとまず現段階において、嗜好用大麻の合法化が労働力に悪影響を及ぼしていなかったというエビデンスが初めて示された形となりました。