「大麻で逮捕」は大麻使用を抑制しない 新たなアプローチの必要性を示す研究結果

「大麻で逮捕」は大麻使用を抑制しない 新たなアプローチの必要性を示す研究結果

- アメリカの観察研究

ニューヨーク州立大学オルバニー校の研究によれば、米国において「大麻の禁止」は大麻の使用を抑制しておらず、むしろ罰則に対する認知度を高めることで、潜在的に危険性をもたらしている可能性があります。

1971年に米国のリチャード・ニクソン元大統領は「麻薬戦争」という言葉を使い、膨大な予算をつぎ込んで罰則を与え、多くの人々を刑務所に収監。この米国の動きは世界的に大麻の禁止をもたらしました。現在米国では州レベルで大麻の合法化が進んでいますが、連邦法では依然として違法となっており、規制物質法でスケジュールⅠ(乱用の危険があり、医療的価値が低い)の物質に分類されています。

大麻の禁止の主な目的は「制裁」という脅威により、その使用や流通を抑制することにあります。しかし、この禁止政策の有効性は科学的に証明されておらず、むしろほとんど効果がないことを示す報告すら存在します。実際、世界各国で大麻使用率は上昇傾向にあり、日本でも戦後「大麻取締法」により大麻が違法とされていますが、大麻による検挙数は年々増加しています

このような背景から、ニューヨーク州立大学オルバニー校の研究チームは、米国の各州における大麻の検挙率が大麻の使用状況や大麻使用によるリスクと罰則に対する認知の変化と関連しているのかを分析。

分析には、連邦捜査局(FBI)の統一犯罪報告書(UCR)と、薬物使用と健康に関する全米調査(NSDUH)のデータ(2002〜2013年)が用いられました。

「逮捕」は大麻の使用状況に影響を与えない

集計の結果、大麻所持による平均検挙率は1,000人あたり2.17人。11.4%が過去1年以内の大麻使用、平均して1.6%が過去1年以内に大麻の初回使用を報告。大麻の使用にリスクがあると認知していたのは34.1%、リスクがないと認知していたのは12.7%でした。

大麻所持に対する罰則として最も多く認識されていたのは罰金刑で、次いで保護観察、社会奉仕、懲役刑。

集計データを分析した結果、大麻による検挙率は年間の大麻使用率や大麻の初回使用率に有意な影響を及ぼしていなかったことが明らかに

一方、大麻所持による検挙率の上昇は、大麻使用のリスクや罰則に対する認知の増加と関連。検挙率の上昇に伴い、大麻所持の罰則として保護観察、社会奉仕、懲役刑が課されるという認識が増え、一方で罰金刑、罰則なしと認識する割合が減少していました。

最後に、2012年末にコロラド州とワシントン州が嗜好用大麻を合法化していたため、2013年のデータからこの2州を除外して、再度分析を実施。

同じように、大麻の検挙率は大麻の使用状況に有意な関連を与えておらず、大麻の罰則に対する認知は上昇(特に、社会奉仕、保護観察)。

興味深いことに、大麻使用によるリスクの認知度に関しては、先程と異なり、大麻の検挙率と有意な関連性が認められなくなりました。これに関して研究者らは「(嗜好用大麻の合法化により)大麻の使用が世間に受け入れられるという新規性が、リスクの認知に寄与する可能性があります」と述べています。

なお、2021年に嗜好用大麻が合法化されたニューヨーク州では、たばこやお酒よりも大麻のほうが公衆衛生上安全と認識されていたことが報告されています

罰則に替わる新たなアプローチの必要性

2002年から2013年にかけ、大麻による検挙率の上昇は、大麻使用に対するリスクや罰則への認知を増加させるも、大麻使用によるリスク認知に関しては嗜好用大麻合法州を分析から除外することで関連性が消失。そして、最も重要なのは、いずれの場合においても、大麻による検挙が大麻の使用状況に影響を与えていなかったということです。

大麻で罰則が与えられることを理解しながらも、大麻の使用が減ることはなく、毎年新たな大麻使用者が増え続けている状況。平たく言えば、大麻の犯罪化は「バレないように気をつけよう」という意識を高めるに過ぎず、大麻使用者を闇の中に覆い隠してしまうということです。

その結果、問題のある大麻使用、未成年による大麻使用の増加、品質が保証されない闇市場の大麻による害、裏社会とのトラブル、別の違法薬物の使用など、見えないところで様々な問題がもたらされる危険性が生じます。

今回の研究結果を受け、研究者らは以下のように述べています。

「(大麻使用の)抑止のために、特に取締りや刑事司法のプロセスにおいて、多大な資源が費やされています。抑止政策の基本的な目標は、単に使用を減らすだけでなく、大麻の使用に関連するコストや害を軽減することです。大麻の使用を刑事上の問題ではなく公衆衛生上の問題として優先させることで、これらの目標をよりよく達成できるかもしれません

大麻使用の犯罪化、特に逮捕は、(大麻の)使用や使用開始の数を制限できないだけでなく、問題のある使用から生じる健康や社会的影響を減らすことがほとんどできません。合法化の動きが広まる中、こうした懸念に対処するためには、他の形態の規制がより効果的であると考えられます

地域社会への教育、リスクのある人々(未成年や妊婦など)の保護、市場での入手制限など、大麻の合法的な市場において需要削減戦略を重視することは、従来の取締りよりも公衆衛生上の懸念を和らげる可能性があります。さらに、ハイリスク集団をターゲットにした予防の取り組みや、メンタルヘルスや物質使用のスクリーニングを優先することで、公衆衛生上の課題を推進することができます」

近年、世界は「麻薬戦争」を過ちと認め始め、様々な国や州で大麻の非犯罪化や合法化が進められてきています。ヨーロッパでは最近ドイツチェコルクセンブルクが合法化計画を明らかにし、米国では今年新たにデラウェア州ミネソタ州が嗜好用大麻を合法化することになりました。

今回の研究では、大麻による検挙が大麻使用の抑制に結びつかなかったことが明らかにされました。とはいえ、多くの人の想像通り、大麻を合法化すると、一般的に大麻の使用率はより上昇します。実際、カナダにおける2022年の実態調査では、2018年の嗜好用大麻合法化以降、大麻使用率が上昇していたことが報告されています。

大切なのは「どうすれば人々の安全、健康、命を守ることができるのか」ということ。研究でも示されたように、大麻の使用を抑制するための罰則的アプローチは成功しておらず、かえって公衆衛生上様々なリスクをもたらしている可能性があります。

一方で、「大麻を合法化したほうが危険なのでは?」と考える人も多いかもしれません。ところが、一般的に考えられる懸念のほとんどが、明確かつ科学的に立証されていません。むしろ、逆に状況が好転したとする報告も存在します。

最近カナダの研究チームは、国内の調査データを分析した結果、嗜好用大麻の合法化により大麻の使用率が上昇している中、問題のある大麻使用が増加していなかったことを報告

スタンフォード大学やペンシルベニア大学の研究者らは、2003〜2017年における保険加入者6,300万人以上のデータを分析した結果、米国における州レベルの大麻合法化が精神病関連の診断や治療の割合に影響を及ぼしていなかったことを報告しています

ミネソタ大学とコロラド大学の研究者らは2018〜2021年の間、4,043名の双子を対象とした縦断的研究を行った結果、嗜好用大麻の合法化によって他の違法薬物の使用状況に変化が認められなかったことを報告。これは、大麻の使用がよりハードな薬物の使用のきっかけになるという「ゲートウェイ仮説」を否定するものとなります。

連邦政府機関である米国疾病対策予防センター(CDC)が5月に発表したデータでは、アメリカで嗜好用大麻の販売店がオープンして以降、未成年の大麻使用率が最低値となっていたことが明らかにされています

全米経済研究所(NBER)は2022年末、嗜好用大麻の合法化が雇用や収入の低下と関連せず、むしろ部分的にこれらを増加させていたことを報告

大麻の使用は意欲ややる気を損なわせる「無動機症候群」を引き起こす可能性があるという指摘もありますが、ロンドン大学とケンブリッジ大学による研究では、週4日程度の大麻使用が無動機症候群の発症と関連しなかったことが報告されています。

2022年に米国の研究チームは、州レベルでの医療用大麻の合法化に伴い、自動車保険料が平均して年間22ドル減少していたことを明らかにし、全米で医療用大麻が合法化されれば、自動車事故に関連する医療費の減少は約11億7,000万ドルになる可能性があると報告

また、最近公開されたカナダの研究では、嗜好用大麻の合法化及びその販売店数はトロントにおける交通事故と関連性がなく、むしろ有意ではない事故の減少と関連していたことが報告されています。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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