大麻合法化から5年が経過したカナダ もたらされた成果と問題点 -後編-

大麻合法化から5年後のカナダ もたらされた成果と問題点 -後編-

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2018年10月17日、主要経済国の中で初めて嗜好用大麻を合法化したカナダ

これによりカナダでは、18歳以上の成人による乾燥大麻30gまでの所持、共有、購入や、4株までの大麻の自家栽培が認められるようになりました(ケベック州とマニトバ州を除く)。

カナダが嗜好用大麻を合法化した主な目的は、品質が保証された大麻を供給することで公衆衛生と安全を守ること。適切な規制により未成年の大麻使用を抑制すること。大麻関連犯罪・違法市場を減らすこと。

大麻合法化から5年が経過した現在、カナダはどのような成果を得て、どのような問題に直面しているのか。

前編に続き、この記事ではカナダ統計局が新たに公開したレポート「Research to Insights: Cannabis in Canada」と、サイモンフレーザー大学の研究者らが「Canadian Medical Association Journal」に掲載した論文について紹介していきます。

目次

カナダ統計局のレポート「Research to Insights: Cannabis in Canada」

「Research to Insights」とは、厳選された研究トピックについて幅広い知見を紹介するレポートのこと。トピックと関連する政治課題をよりよく理解するために、質の高いデータと手法を用いた研究から得られたエビデンスが引用・統合されます。

10月16日に公開されたレポート「Research to Insights: Cannabis in Canada」では、大麻合法化後から5年が経過したカナダにおいて、大麻使用率、合法大麻市場、合法大麻へのアクセス、公衆衛生に関する様々な統計データが紹介されています。

大麻の使用状況

・大麻が合法化されて以降、大麻の使用率は増加。過去1年以内の大麻使用を報告したのは、2017年で14.8%、2019年で21.3%、2021年で22.4%。

・未成年の大麻使用率はほとんど変化していない。15〜17歳の未成年において過去1年以内の大麻使用を報告したのは、2015年で17.5%、2017年で14.2%、2019年で17.3%、2021年で15.6%。

・大麻使用率が最も高い年齢層は18〜24歳。過去1年以内の大麻使用を報告したのは、2017年で31.4%、2019年で40.8%、2021年で39%。

・大麻使用率には地域差がある。例えば、ブリティッシュコロンビア州、アルバータ州、オンタリオ州などでは大麻使用率が高いものの、ケベック州では他州と比べて大麻使用率が低い(ちなみに、ケベック州では大麻の自家栽培が禁止されており、大麻を使用できる年齢も21歳以上とされている)。

・新型コロナウイルスのパンデミック中に行われたいくつかの研究では、日常生活の変化とそれに関連したストレス反応により大麻の消費量が増加した可能性が示されている。

過去1年以内の大麻使用を報告した割合
出典:Research to Insights: Cannabis in Canada

合法大麻市場の状況

・2018年末の合法大麻小売店の店舗数は200軒未満であったが、2020年末には約8倍増加し、2022年第2四半期までにさらに倍増。2023年第1四半期の時点で店舗数はカナダ国内で3,332軒となっている。

・カナダの合法大麻市場は2018年10月から2022年12月にかけて成長したが、2023年から減少に転じている。大麻セクターの国内総生産は2022年3月〜2023年2月まで110億ドルを超えていたが、2023年7月時点では約108億ドルとなっている。

・大麻セクターはカナダ経済全体の約0.5%を占めている。

・2022年の嗜好用大麻の年間販売額は約45億ドルであり、年々増加している(2021年は約38億ドル)。

合法大麻小売店の店舗数
出典:Research to Insights: Cannabis in Canada

合法大麻市場へのアクセス

・少なくとも一部の大麻製品を合法的な手段で入手したと報告した人は2018年で23%であったが、2019年では47%、2020年では68%と年々増加。

・少なくとも一部の大麻製品を違法な手段で入手したと報告した人は2018年で51%であったが、2019年で38%、2020年で35%と減少してきている。

・2023年上半期の時点で、カナダで消費されている医療及び嗜好用大麻製品の総額の70%以上が合法大麻市場の製品となっている。合法化された直後の2018年第4四半期では22%であったため、大幅な増加となった。

出典:Research to Insights: Cannabis in Canada

大麻関連犯罪

・大麻合法化前では、大麻所持罪が大麻関連犯罪の大半を占めていた。現在では大麻関連犯罪の大半が不法な輸出入によるものとなっている。

・人口10万人あたりの大麻関連犯罪件数は2017年までは100件を超えていたが、2022年では28件と激減した。

出典:Research to Insights: Cannabis in Canada

公衆衛生

・2023 Health Reportsの調査によれば、過去1年間の大麻使用者(30万人)のうち4.7%が大麻の使用においてコントロール障害を経験。コントロール障害は依存症の重要な要素である。

・大麻の使用パターンや依存に陥りやすい人々の特徴について理解が深まれば、より効果的な政策、予防、教育プログラムに役立てられるとレポートでは述べられている。

・大麻使用者がコントロール障害に直面するリスク因子は以下の通り。

頻繁な大麻使用
男性
18〜24歳(これ以上の年齢と比較した場合)
独身(既婚や内縁関係と比較した場合)
低所得世帯(高所得世帯と比較した場合)
不安障害または気分障害と診断されたことがある
15歳以下での大麻使用開始(16〜17歳で開始した人と比較した場合)

サイモンフレーザー大学の論文

10月10日、カナダの名門州立大学であるサイモンフレーザー大学の研究者らは利用可能なエビデンスをもとに、カナダの大麻合法化が国内に及ぼした影響について考察を行い、「Canadian Medical Association Journal」に論文を掲載しました。

これによれば、大麻の合法化は反対派が予想していたような”公衆衛生上の災難”をもたらすことはなかったものの、全体として成功したとも言えない状況とされています。

一方、大麻の合法化により大麻関連犯罪が激減したことは、実質的に大麻の犯罪化によるスティグマや生活上の不利益を防ぐことに繋がっており、大きな社会的利益であると評価。

総じて、大麻合法化による影響を結論づけるのに、”5年という期間は短すぎる”と著者は述べています。

公衆衛生への影響

カナダ大麻調査によれば、大麻使用率は2017年の22%から2022年の27%にまで増加。ほぼ毎日あるいは毎日大麻を使用する人の割合は24〜25%で比較的安定している。

オンタリオ州の成人を対象とした研究では、2001年から2019年にかけて、大麻使用率、毎日の大麻使用、大麻使用に関連した問題が有意に増加したことが報告されている。

・未成年の大麻使用率に関しては、合法化前の高い水準からほぼ安定して経過している(減少も増加もしていない)。

・ほとんどの研究が大麻の合法化以降、大麻に関連した救急外来受診と入院件数が増加したと報告。例えば、オンタリオ州とアルバータ州では2015年4月から2019年12月にかけて、大麻関連疾患と大麻中毒による未成年の救急外来受診件数が20%増加したことが報告されている

オンタリオ州の研究では、大麻関連の救急外来受診件数が大麻合法化後(大麻小売店数に制限あり)で即時に12%増加、店舗数の制限撤廃後で即時に22%増加したが、時間経過とともに減少した。

別のオンタリオ州の研究では、大麻の合法化前後でカンナビノイド嘔吐症候群(CHS)による月間の救急外来受診数が約13倍に増加した(2014年1月では人口10万人あたり0.26件、2021年6月では3.43件)。

今年1月に公開された研究では、大麻合法化直後の1年間で4つの州において、大麻中毒に関連した子供(0〜9歳)の救急外来受診率がほぼ3倍に増加し、その後エディブル製品の販売を許可した州ではさらに受診率が倍増したことが報告されている。

・ただし、これらのデータのいくつかは議論の余地があると著者は述べている。その理由として、いくつかのデータは大麻が合法化される前から明らかに変化する傾向が見られていたため、合法化後の数字はこの延長に過ぎないという可能性が挙げられる。また、新型コロナウイルスの流行による影響も無視できない。

安全への影響

・合法大麻市場へのアクセス状況については、上記のカナダ統計局のレポートと同様のデータが引用され、大麻合法化により品質が保証された大麻へのアクセスが増加したと述べられている。

カナダ大麻調査によれば、大麻の影響下での車の運転は大麻の合法化以降でわずかに減少〜横ばいで経過している。

・一方、ブリティッシュコロンビア州の研究では、交通外傷で受診したドライバーのうち血中のTHC値が1mlあたり2ng以上であった人は、大麻合法化前後で2倍以上に増加したことが報告されている(合法化前3.8%→合法化後8.6%)。

社会への影響

・大麻関連の取締りや逮捕は大麻合法化後で激減。2015年から2021年にかけ、成人では男性で83%、女性で74%減少し、未成年では男性で53%、女性で62%減少した。

・論文の著者は、合法化前の大麻取締りのほとんどが個人消費を焦点としており、非常に恣意的で差別的な取締りが行なわれてきたことについて触れている。

・その上で、著者は「大麻関連の取締りの減少は、カナダで嗜好用大麻の使用が法的に禁止されていた時に生じた刑事罰や犯罪記録、これらにより生じる何万人ものカナダ人の個人的なスティグマやその他の不利益(例えば、仕事、旅行、社会的機会の制限)を実質的に防ぐことにつながる」と述べ、この点に関する大麻合法化の成果を強調している。

・総じて、公衆衛生面や社会面などを包括して大麻合法化の影響を評価する方法は現時点でまだ未発達であり、結論を出すには時期尚早であると著者は述べている。

まとめ

大麻の合法化から5年が経過したカナダにおいて、どのような成果が得られ、どのような課題が浮き彫りとなったのか。これを探るための手がかりとして、最新のレポートと論文を前編と後編に分けて見てきました。

これらをまとめると、以下のようになります。

・成人の大麻使用率は上昇しているが、18歳未満の大麻使用率は変化していない

大麻関連の救急外来受診・入院件数は増加していることが示されているが、期間が経過するにつれ減少したという報告や新型コロナウイルスの影響なども考慮すると、結論を出すのはまだ難しい。

・ただし、大麻の使用が健康に与えるリスクについては、今後も情報伝達・啓蒙・教育していくことが重要となる。幼い子供の誤飲による大麻中毒に関しては、鍵付きの保管場所を設けることや子供にとって魅力的なパッケージの使用を禁止するなど、早急な対策が必要と言える。

・合法大麻市場の成長とともに、合法大麻へのアクセスは順調に増加。品質が保証された安全な大麻を消費できるようにするという政府の目標は徐々に達成されつつある。同時に、カナダ政府は多額の税収を集めていることにも成功している。

・しかし、ほとんどの大麻企業は資金面でかなり苦労しており、経営難に直面している。この状況を打破するために、大麻事業者らは各種コストの削減や経済的救済、違法市場に対抗するための規制緩和(大麻所持量やエディブル製品のTHC上限の増加など)を求めている

大麻関連犯罪が激減したことで、社会的な不利益やスティグマに苦しめられる人が減少した麻薬戦争による不利益が具体的にどの程度改善されたのかは、今後データを集め検討する必要がある。

現状では、わざわざ医師から医療文書を受け取ってまで医療用大麻にアクセスすることのメリットは少ないため、多くの患者が嗜好用大麻を医療目的で使用している。これを解決するためには、医療用大麻の小売価格を下げること(もしくは免税)、保険適用の拡大、アクセスの増加、研究の促進、医療従事者への教育が求められる。

環境面への配慮は大きな課題となりつつある。昨今ではプリロールやベイプ製品が人気となっているが、これらの製品にはプラスチック包装、バッテリー、ガラス、金属など、環境にとって問題となる廃棄物が伴う。最近では著名な大麻企業であるティルレイ・ブランズ(Tilray Brands)社がヘンプ素材のパッケージを採用し、大麻産業のサステナビリティに向けて一歩前進した

・なお、「大麻はゲートウェイドラッグである」との”仮説”が存在するが、今回取り上げたレポート・論文ではこれについて全く触れられていない。

・大麻合法化から5年が経過しているものの、全体的にまだデータが不足しているため、引き続きデータを収集・検証していく必要がある。

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廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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