アメリカのがん患者が語る、医療用大麻のスティグマ

アメリカのがん患者が語る、医療用大麻のスティグマ

- アメリカの質的研究

もし辛い病気を抱え、治療や症状緩和のために大麻やカンナビノイド製品を使用していたとしたら、あなたはそのことを医療従事者に話すことができますか?

また、もしあなたが医療従事者であれば、患者から大麻やカンナビノイド製品を使用していることを伝えられたらどのように反応しますか?

今回ご紹介するのは、11月26日に「Journal of Cancer Survivorship」に掲載された論文。アメリカにおいて医療用大麻を使用中のがん患者24名に「スティグマ(負のレッテル)」についてインタビュー調査したものになります。

2020年に国連は大麻に医療価値があることを認め、スケジュールⅣ(最も危険で、医療価値のないもの)から削除。しかし大麻は「薬物」として世界的に規制されてきた歴史から、「大麻使用=反社会的」といった悪い印象は未だに根強いものとなっています。

大麻の有効性とスティグマの間に存在するミスマッチは様々な問題をもたらします。例えば、病気や症状のために大麻を使用したいと思っても、周りの目が怖くて使用に踏み切れない。医療目的で使用しているにも関わらず、いわゆる「薬物中毒者」のように扱われてしまう、など。

つまり、大麻が自分にとって効果的であったとしても、同時に社会の端に追いやられるような感覚を味わう可能性があるということです。

アメリカでは州レベルで大麻の合法化が進んでおり、このことは多くの人が知るところだと思います。特に医療用大麻は3分の2以上の州で合法化されています。言い換えれば、アメリカでは医療目的で大麻を使用する人が増えているということ。ただし、国レベルでは依然として大麻は違法なままです。

このような状況のアメリカにおいて、医療用大麻使用者は「スティグマ」を経験しているのでしょうか?

今回インタビューに参加したのは、24名のがん患者(ステージⅣの進行がん12名、早期がん8名、寛解期4名)。参加者は痛み(19名)、吐き気・食欲不振(14名)、不安・うつ病(13名)、不眠(10名)の症状コントロールを目的として医療用大麻を使用し、半数以上が抗がん作用にも期待していました。

参加者のうち4分の3は「私生活や職場」においてスティグマを経験していると語りました。家族や友達の反応はまちまちで、大麻の使用に反対する人もいれば賛成する人もいて、反対する人は大麻の使用を「ゲートウェイドラッグ」「物質使用障害」だと指摘したと言います。

さらに参加者の多くが「医療の現場」でスティグマを経験したと回答し、むしろそれは「私生活や職場」よりも一般的であることが分かりました

医療の現場で医療用大麻がタブー視されていること、医療従事者に医療用大麻の話をしてもまともに話し合ってくれないことなどが挙げられ、中には大麻の使用理由も聞かれずに、医療従事者に「薬物中毒者」のレッテルを貼られたと不満を示した人もいました。他にもがんの学会で医療用大麻を使用していることを打ち明けたら、クスクス笑われたという人も。

イスラエルにおける調査と同様、スティグマは「直接経験したもの」よりも「内在化したもの(思い込みによるもの)」が多くなっていました。

例えば、ある参加者は「きっと家族は私のことを”ジャンキー”だと思っている」と回答。医療の現場においても「否定的な反応を示すと思う」「馬鹿げているとか、そんなの治療計画には入れられないとか、そういうことを言われたくなかった」といった回答がみられました。

スティグマを軽減するために、大多数の参加者が「部分的な事実だけシェアする」「話す人を選ぶ」といった対策を講じていました。

医療従事者と医療用大麻の話をする時は一般的な内容にとどめ、具体的な詳細(消費方法や品種など)については話さないというスタンスの人がほとんど。そもそも「周りがなんと言おうが気にしない」と考えることで対処している人もいました。

筆者の考え

大麻の合法化が進んでいるアメリカでさえ、医療用大麻使用者はスティグマを感じており、特に医療の現場においてそれが多かったのは本当に悲しいことだと思います。

日本では現在大麻は違法薬物として取り扱われているため、医療目的で大麻を使用することなんて遠い世界に感じるかもしれません。ですが大麻の有効成分「カンナビノイド」のいくつかは日本でも使用可能であり、実際に医療目的でこれらの製品を活用している方もいます。大麻に含まれている成分ということで、カンナビノイド製品にもスティグマは存在すると考えられるでしょう。

これまでの研究において、大麻やカンナビノイドは様々な疾患や症状に対し有効性を示してきています。とはいえ、これらはエビデンスレベルとしては低いものが多く、確固たる保証がないのも事実。それゆえ、患者の健康に責任を持つ医療従事者が大麻の使用をあまりよく思わないのは無理もないでしょう。

確かに、標準治療が最も信頼できるものであることは疑いようもありません。ですが、それで全員がうまくいっているわけではないですよね。

何よりも治療以前に、患者さんは「人」としてそれぞれ色んな考え、想い、価値観、死生観、生活背景などを持っています。全部、人によって違いますよね。

つまり、最良の治療は人によって異なるということ。なお、医療用大麻やカンナビノイド治療は標準治療で十分な効果がなかった人や副作用に耐えられなかった人、自然療法を好む人がたどり着くことが多いです。

治療は患者と医療従事者が二人三脚で行うもの。大麻やカンナビノイドを医療目的で使うのであれば、本来はこのことについて医療従事者とオープンに話せることが望ましいはずです。医療従事者が「大麻」という言葉を聞いただけで偏見の気持ちを抱くようでは、患者と信頼関係を築くことは到底難しいでしょうし、結果として不利益な方向に向かう可能性がでてきてしまいます。

筆者が今回の論文を読んで思ったのは、「まず話を聞きませんか」ということ。医療用大麻の是非とは関係なく、素直に話を聞ける人が増えればどんなにいいことかと思います。受容されることがどれほど安心感をもたらすものかを知って欲しい。逆に、頭から否定された人がどれほど淋しく悲しい気持ちになるのかを知って欲しい。

もはやこれは大麻だけの話ではありません。

例えば、恋愛だって同じです。

ある人に恋をしたとしましょう。あの人とは気も合うし、趣味も一緒だし、何より一緒にいて安心する。こういう気持ちは誰かと共有したくなるし、応援してもらいたくなるものですよね。

ある日、友達に「〇〇が好きなんだよね」と話します。その時に話も聞かずいきなり「あの人はやめたほうがいいよ」「センス無いね」とか言われたらどうでしょうか?関係性にもよるかもしれませんが、仮にそれが正論であったとしても、「もうこの人には話したくないな」という気持ちになると思います。

「どうせ話しても否定される」と考えるのは、おそらくこういった日常会話などに基づいて形成されたものではないでしょうか。

世界には様々な人種、文化、歴史がある。そして私たち一人ひとりにはそれぞれ考え、想い、価値観、生活背景がある。

あなたはあなた、私は私。あなたにとっての正解は私にとって正解とは限らないし、私にとっての正解はあなたにとっての正解とは限らない。

まずは相手を受け入れ、理解しようとする姿勢を持つこと。もちろん住みよい社会を作り上げるのは「政治家」の仕事です。ですが真に生きやすい世の中は、「私たちの1つ1つの言動や姿勢」により作られるものであると、筆者は思っています。

廣橋 大

精神病院に勤める現役看護師。2021年初頭より大麻使用罪造設に向けた動きが出たことをきっかけに、麻に関する情報発信をするようになる。「Smoker’s Story Project」インタビュアー。

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