8月24日、カナダの研究チームは国内の合法大麻と違法大麻において農薬の有無を調べた結果、合法大麻では6%で合計2種類の農薬が検出されたのに対し、違法大麻では92%で合計23種類の農薬が検出されたことを報告しました。論文は「Journal of Cannabis Research」に掲載されています。
カナダは2018年に嗜好用大麻を合法化。この法律は流通する大麻製品の一貫性、健全性、安全性を標準化することで、消費者の健康を守ることを目的の1つとしています。
カナダの大麻産業は2019年1月以降、大麻規則に基づく既存の分析試験に加え、農薬活性成分に関する大麻検査も義務付けられました。これにより、大麻産業のライセンス所有者は96種類の農薬が使用されていないこと、またはこれらの農薬が検出されないことを証明しなければならなくなりました。
このように合法市場の大麻は厳しい管理のもとで安全性を確保していますが、違法な大麻にはこのようなルールはなく「品質保証」という言葉は存在しません。
カナダ公安省のWebページ「Buying Cannabis – What You Need To Know(大麻の購入 – 知っておくべきこと)」では、違法大麻のリスクについて注意喚起がなされています。この一番目には、「違法製品の摂取は悪影響やその他の深刻な害につながる可能性があります。違法大麻の検査では、農薬や許容できないレベルの細菌、鉛、ヒ素などの汚染物質が検出されています」と記載されています。
2022年の調査によれば、カナダ国民の61%が合法店舗で大麻を購入しており、この数は嗜好用大麻の合法化以降増加傾向にあります。ですが、まだ一部の人は違法市場で大麻を購入しており、上記のような汚染物質にさらされる危険性に直面しています。
合法及び違法大麻に含まれる農薬の有無を評価
研究者らは327種類の農薬を検出できる装置・抽出法を用いることで、カナダ国内に存在する合法大麻と違法大麻の妥当性(バリデーション)を評価しました。
合法大麻はカナダの5つの地域(ブリティッシュコロンビア州、プレーリー地帯、オンタリオ州、ケベック州、カナダ大西洋州)の大麻ライセンス所有者から、合計36サンプル入手。
違法大麻には、法執行機関が押収した24サンプルが用いられました。
違法大麻の92%で農薬を検出
合法大麻のうち6%から農薬成分が検出。2019年に農薬に関する規定が義務付けられる前では検出率が30%であったことから、これは大きな改善となりました。
検出された農薬はジクロベニルとミクロブタニルの2種類で、前者は大麻検査リストには含まれていません。検出量はともに測定法の最低検出値である0.01μg/gでした。
一方、違法大麻では92%において合計23種類の農薬成分を検出。1サンプルあたり平均3.7種類の農薬が同定され、ある違法大麻では9種類もの農薬が確認されました。
高頻度で認められた農薬成分はミクロブタニル(17サンプル)、パクロブトラゾール(10サンプル)、ピペロニルブトキシド(10サンプル)、ピレトリン(8サンプル)。
クロルピリホス(30μg/g)、イミダクロプリド(60μg/g)、ミクロブタニル(70μg/g)の最大検出量は、測定法の最低検出値である0.01μg/gを100倍以上上回っていました。
なお、最も多く検出されたミクロブタニルは、WHO(世界保健機関)によって中等度の危険物質に分類されています。
これらの結果を受け、研究者らは「小規模な研究とはいえ、我々の研究結果は『違法製品の消費は悪影響やその他の深刻な害につながる可能性がある』というカナダ政府のメッセージを支持するものである」と述べています。
大麻の合法化を訴える活動家たちが指摘してきたように、今回の研究結果は大麻が違法となっている国や地域における大麻使用者が思いもよらぬ健康被害を受けるリスクにさらされていることを実証しています。
このことはすでに大麻が違法であり、これから「大麻使用罪」を新設しようとしている日本においても同様のリスクがあることを示しています。
「大麻の合法化は害を及ぼす」という考えは、大麻の生涯経験率が1.4%の日本において多数派を占めるかもしれませんが、見方を変えれば「大麻の合法化は命を守る」ことにもつながるということです。
なお、違法大麻の栽培に伴う影響は人だけにとどまらないようです。
米国魚類野生生物局(FWS)は今年2月、カリフォルニア州の大麻産業の認可に伴う高額な費用が無許可の農薬を使用する大麻の違法栽培を助長し、希少種の「マダラフクロウ」を絶滅の危機にさらしていると指摘。
認可された大麻事業者は特定の抗凝固性の殺鼠剤を使用することは禁止されていますが、違法大麻業者は未だにこの化学物質を用いているとのこと。この殺鼠剤を摂取したネズミをフクロウを始めとした野生生物が捕食することで、これらの野生生物がその毒にさらされる危険があるとしています。
魚類野生生物局によれば、「大麻栽培地の可能性とキマダラフクロウの生息適地を比較したところ、両者はほぼ50%重複していた。カリフォルニア州におけるマダラフクロウの生息域内の違法大麻栽培業者の数は不明だが、州内で発見された違法大麻栽培事業の数を考慮すると、カリフォルニア州内のフクロウの生息域内には数千の違法大麻栽培事業が存在する可能性がある」といいます。
当然これはマダラフクロウを絶滅の危機に追いやる理由の一部に過ぎませんが、魚類野生生物局は「マリファナの需要は今後も増加し続ける可能性が高く、土地の購入や栽培を合法化するための許可の取得・維持にかかるコストが高すぎる場合、カリフォルニア州では抗凝固殺鼠剤を使用した違法栽培事業が増加するかもしれない」と警鐘を鳴らしています。