カナダの大麻取締法見直し

カナダの大麻取締法見直し

- 政府が54の推奨案と11の見解を発表

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2018年に施行され、大麻を禁止する事から規制するという方向に舵を切ったカナダの大麻法は3年ごとに見直しが義務付けられています。しかし、合法化から3年目となった2021年は世界中でcovid-19が大流行したことにより様々な規制が敷かれた状態であったことから、実際に初めての見直しが始められたのは2022年9月のことでした。それから約18ヶ月という期間を経て、2024年3月21日、カナダ保健省大臣マーク・ホランド氏とメンタルヘルス・依存症大臣ヤアラ・サクス氏は大麻法の見直し案に関する最終報告書を発表しました。

暗躍するブラックマーケット、高い税率、官僚主義の市場などの複合的な理由によりカナダの大麻事業者は大きな利益を上げることに苦戦を強いられており、現在では約25%近くの事業者が税金の支払いが遅れていると言われています。今回発表された報告書にはそんな市場を改善しようという提案が多く含まれることになっており、事業者からは熱い期待が集まっていました。

この報告書は全97ページと12のチャプターで構成されており、その中には同法の運用を強化・改善するための54の推奨案と11の見解が含まれています。

この見直しは、嗜好大麻の合法化がカナダ社会に与えた影響を調べるために行われるもので、公衆衛生への影響、若者のカンナビスの使用、先住民とコミュニティへの影響、家庭内でのカンナビスの栽培などに焦点を当てています。また、経済的、社会的、環境的影響、合法カンナビス製品の広がり、犯罪の抑止と非合法市場の状況、医療大麻へのアクセスの影響も考慮されています。

12のチャプターからなる報告書

この最終報告書は以下の12のチャプターから構成されています。

  1. 要旨
  2. 推奨案と見解
  3. イントロ
  4. 報告書作成の概要
  5. 大麻法の概要
  6. 公衆衛生
  7. 先住民、イヌイット、メティス
  8. 経済、社会、環境への影響
  9. 成人の利用
  10. 犯罪行為と違法市場の撲滅
  11. 医療大麻の利用
  12. 研究と調査

主なポイントは以下の通りです。

第6チャプター:公衆衛生

  • ヘルスカナダ(保健省)は、大麻に関する青少年諮問委員会を設置し、大麻政策について青少年が意見を述べることが出来るようにすべきである
  • 高濃度(THC)大麻製品の新たな定義を設けるべきであり、また、高濃度(THC)大麻の消費を抑制するために、より大きな関税を含む「税制」を利用する
  • 高濃度(THC)大麻が好まれて消費されている傾向に歯止めをかけることができない場合、ヘルスカナダ(保健省)は、ブラックマーケット(違法市場)がこの分野で利益を上げることを防ぐために、追加規制を実施する準備をしておくべき
  • パッケージに関する規制の変更。各パッケージにTHCとCBDの合計含有量を表示すること、QRコードの使用を許可することなどが含まれています
  • 大麻の種類に応じて「標準使用量」を設定し、製品ラベルに表示することを義務づけるべき

第8チャプター:経済、社会、環境への影響

  • 小規模栽培者(マイクロライセンスホルダー)を含む栽培事業者が、包装されラベル付けされた乾燥フラワーまたは新鮮な大麻を流通業者に直接販売することを認めるように規制を改正すべきだが、その際は加工業者に適用されるのと同じ品質保証および検査要件に従わなければならない
  • 物品税(エクササイズタックス)は、大麻の価格がかなり高かった2018年時点に考案されたものであるため、税率等の見直しを行うべきである
  • ヘルスカナダ(保健省)は、農業省と協議の上、産業用大麻規制の見直しを行う諮問委員会を設置すべきである
  • 市場における製品の多様性を促進するために、小規模栽培者(マイクロライセンスホルダー)に対する規制料金を見直すべきである

第9チャプター:成人の利用

  • エディブル1パッケージあたりのTHC含有量10ミリグラムの制限は現時点では維持されるべきである。しかし、この上限を上げるべきかどうかについては、引き続き調査を行うべきである

第10チャプター:犯罪行為と違法市場の排除

  • インターネット・サービス・プロバイダーに対し、違法な大麻ウェブサイトをブロックし、その特定に役立つ財務情報を提供することを強制する当局の設置を検討すべきである

第11チャプター:医療大麻の利用

  • 医療用大麻へのアクセスプログラム(ACMPR)は維持されるべきである
  • さらに、医療アクセスプログラムを超えて、大麻が標準的な医薬品承認経路の中で考慮され、従来の医療の一部となるようなシステムを構築するべきである
  • この流れの中で、「カンナビジオール(CBD)を含む大麻健康製品市場の迅速な構築」が進むべきである
  • 医療用大麻の認可を受けた者に薬局で大麻製品を販売することを許可すべきである
  • カナダ財務省は、医療目的の大麻にエクササイズタックス(物品税)を適用すべきかどうかを見直すべきである。

また、最終報告書では、今後もさらに定期的に大麻法を見直すべきであると勧告しています。

エディブルに含まれる最大THCに関する問題

カナダの大麻エディブル(食べて使用する大麻製品:大麻グミなど)は、1パッケージあたり最大のTHC量が10mgまでと定められています。業界はこの上限を引き上げることで、ブラックマーケット(違法な販売者)を締め出すことができると考えているようです。

一方、政府の公衆衛生の関係者は、合法化以降、意図せず子供たちがエディブルを食べてしまう事故が増加しており、THCの基準値が高くなれば、こうした事故の深刻度は増すばかりだと懸念しているため、現行の制限値を維持することを求めています。

「結局のところ、これらの製品に含まれるTHCの量を増やすことがどのような結果をもたらすかについては、現時点では不確かな要素が多すぎるいうのが我々の見解です。従って、我々は慎重を期す

べきであると考えており、現行の制限値を維持し、この問題に関するギャップを埋める研究を引き続き行うことを推奨する」と述べています。

「Cannabis Council of Canada」は失望を表明

カナダの大麻栽培事業者や加工事業者からなるCannabis Council of Canada(カナダ大麻評議会)はプレスリリースを発表し、今回の最終報告書に対し以下のように失望の念を表明しています。

「大麻取締法の目的を達成するためには、市場が健全で持続可能である必要があります。残念なことに、今回の報告書に記載された推奨案と見解は、カナダに住む人の健康と安全を守り、大麻を子どもたちから遠ざけ、利益を犯罪者の手に渡さないことを目的としているカナダの大麻法の目的を達成するには十分なものではありません。事業者や評議会のメンバーが期待していたのは、政府を早急な行動へと導く、具体的な提言が提出されることでした。さらに、今回の報告書では、業界の存続に不可欠な多くの問題解決の新たな解決策について言及されておらず、これまでにあった意見の繰り返しとなっています。」

Cannabis Council of Canada議長のリック・サヴォン氏リリースを以下の皮肉で締めくくっています。

「カナダの嗜好大麻の合法化は成功と言えるでしょう。連邦政府、州政府、流通業者は、消費者よりも自分たちのことを第一に考え、生活苦にあえぐ生産者や小売業者を尻目に、何十億ドルもの税金を獲得してきたのです。カナダは2018年からの6年間、消費者の安全、高品質な大麻製品の生産に焦点を当て、業界がその役割を果たしてきた。しかし、カナダ財務省が次回の予算で税制上のアプローチを真剣に再考し、カナダ保健省がその規制に意味のある変更をもたらす決断をしない限り、このモデルは雇用の喪失、投資停止、倒産、犯罪の増加を生み出し続けるでしょう」

Government of Canada 「Legislative Review of the Cannabis Act: Final Report of the Expert Panel」 https://www.canada.ca/en/health-canada/services/publications/drugs-medication/legislative-review-cannabis-act-final-report-expert-panel.html

Government of Canada 「Government of Canada Tables Final Report of the Legislative Review of the Cannabis Act」 https://www.canada.ca/en/health-canada/news/2024/03/government-of-canada-tables-final-report-of-the-legislative-review-of-the-cannabis-act.html

Businesswire 「The Cannabis Council of Canada Expresses Disappointment by the Recommendations Put Forward in the Cannabis Act Review」 https://www.businesswire.com/news/home/20240322372324/en/The-Cannabis-Council-of-Canada-Expresses-Disappointment-by-the-Recommendations-Put-Forward-in-the-Cannabis-Act-Review

Cannabis Council of Canada https://cannabis-council.ca/

Shinji

カナダ在住。大麻メディア兼大麻関連事業コンサルティングCJC Advisory Networkの創設者。同社は日本を拠点とするCBD企業と国際的なパートナーや投資家のネットワークとしても機能する。

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