参院厚労委 大麻法改正法案に関する参考人意見陳述 -後編-

参院厚労委 大麻法改正法案に関する参考人意見(後編)

- 薬物政策・大麻使用罪に関する意見

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11月29日、参議院厚生労働委員会は「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律案」の審議を行うにあたり、参考人から意見を聴取しました

招致された参考人は以下の4名。

太組一朗(一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会理事長 聖マリアンナ医科大学脳神経外科学教授)

大森由久(日本大麻生産者連絡協議会会長)

丸山泰弘(立正大学法学部教授)

岡崎重人(特定非営利活動法人川崎ダルク支援会理事長)

前編(大麻の医療・産業利用に関する意見)に続き、後編では丸山氏と岡崎氏の意見陳述についてご紹介します。

改正法案では大麻の医療・産業利用の拡大が期待される一方で、新たに「大麻使用罪」が創設されることが大きな争点となっています。

丸山氏と岡崎氏はそれぞれの立場から日本の薬物政策における問題点を指摘し、薬物政策のあり方や大麻使用罪に対する意見を述べました。

大麻使用罪に「立法事実はない」 科学的根拠に基づいた政策を

立正大学法学部で刑事政策と犯罪学を専攻している丸山泰弘氏は、薬物の末端使用者に対する薬物政策のあり方を20年以上研究。専門的な立場から、大麻使用罪創設の問題点について意見を述べました。

現行の大麻取締法では、大麻の使用は犯罪とはなっていません。しかし、改正法案では、大麻は「麻薬及び向精神薬取締法」において”麻薬”として規制され、大麻の使用・所持・譲渡・譲り受け等には7年以下の懲役が課せられることになります。

まず、丸山氏は最近公開された医学雑誌「The Lancet」の論説を取り上げ、近年における世界の薬物政策について概説。刑罰による薬物政策が薬物の末端使用者において必ずしも成果を出しておらず、むしろ、そのような政策には科学的根拠がなく、有害であり、人権侵害にもなっていることが指摘されていると語りました。

丸山氏は、薬物政策の目標が「薬物の問題使用を抑制することにある」と繰り返し強調。「世界薬物報告書(2016年版)」によれば、世界の薬物使用のうち問題使用に至ったのは約11%であり、このうち医療介入が必要となったのはおよそ6人に1人。

このようにほとんどが問題使用に至っていない状況から、国際社会は薬物使用者を一括りにして刑罰を課し、強制的な介入を行う必要性について疑問視し、議論を行っていると述べました。

国際薬物報告書(2016年版)のデータ
United Nations Office on Drugs and Crime「World Drug Report 2016」

丸山氏は、国際社会が刑罰による薬物政策を人権侵害としている理由について、薬物使用者の生活を奪うのは薬物そのものではなく、刑事司法による介入であることが指摘されていると発言。

これらのことから、いくつかの国や地域が大麻の個人使用を非犯罪化及び合法化しているのは「使用者が多く行き詰まったから」ではなく、「科学的根拠に基づき、薬物の問題使用を減らすにはどうしたらいいか考えた結果」であると説明しました。

大麻使用罪の創設に反対する1つの理由として、丸山氏は「立法事実がないこと」を指摘。若年者における大麻検挙者数の増加は若年層を中心とした取締りに起因している可能性が高く、薬物事犯全体の検挙者数は横ばいで経過していると述べました。

また、大麻の生涯経験率が1.4%であり、欧米のような非犯罪化政策は必要ないとの考え方にも「懐疑的」であると発言。

その理由の1つして挙げられたのが、薬物の経験率に関する調査方法。海外では下水から検出された薬物濃度から推定値を算出するのに対し、日本では対面で聞き取り調査を行っています。丸山氏は薬物が犯罪である日本において、このような調査で正直に回答する人は限られると指摘します。

また、丸山氏は日本の自殺率と精神病院の病床数が世界でトップクラスであることにも言及。薬物使用者の背景には、幼少期の虐待や逆境体験など「生きづらさ」があるとしています。つまり、現在日本で示されているデータは、潜在的に薬物使用者が多い可能性があることを意味しています。

実際、最近では市販の風邪薬の過剰摂取が問題視されています。このような状況から丸山氏は、日本に薬物汚染がないとは言えないのではないかと述べました。

丸山氏によれば、薬物の問題使用を抑制するのに重要なのは「教育、福祉、社会保障」。薬物の問題使用の背景にある”生きづらさ”に対し支援を行うことが大切であるとしています。

幼少期の虐待や学校でのいじめなど辛い体験をした人の中には、”自己治療的”に薬物を使用し、そのおかげで今を生きている人がいます。

丸山氏は、このような人々は「かなりの数いらっしゃると思います」と発言。これらの人々の薬物使用を抑制することは、「ダメ。ゼッタイ。」普及運動のような恐怖を煽る薬物政策では「非常に難しい」と述べました。

国際社会は薬物使用の初期使用を抑制するために、様々な場面において生きていく方法や対処法を教育していると丸山氏は説明。悩みを抱えたら薬物使用に至るほどの深刻な悩みに発展する前に相談すること、薬物の問題使用に至った場合の対処方法などを学ぶことが大事になると語りました。

また、打越さく良議員(立憲民主党)から大麻関連の実名報道について尋ねられた丸山氏は、「罪に見合うような社会的制裁ではない」と返答。そのような形で若者に”デジタルタトゥー”を入れることは、社会復帰の足を引っ張り、社会からの疎外や孤立を生み、薬物の使用を加速させると批判しました。

天畠大輔議員(れいわ新選組)は丸山氏に対し、日本大学アメフト部の大麻事件において当初大学が警察への通報を控えたこと、この対応を批判した一部世論に対する考えについて質問。

これに対し丸山氏は、教育機関は「まず学生を守り、社会復帰をどう支援していくかが大事」と返答。加えて、大麻とスポーツは相性が良いと言われており、実際にNBANFLMLBでは大麻の規制が緩和されており、全米大学体育協会(NCAA)でもそのような方向に進んでいると説明しました。

丸山氏は、大麻使用罪を創設するのであれば、厚生労働省は医学的な観点から単独で法案を検討するのではなく、法務委員会や幅広い専門家と議論し、国際的な基準で確立された科学的根拠に基づいた検討を行うべきであると主張。

これに関連し、丸山氏は2010年に「The Lancet」に掲載された論文を引用し、大麻の有害性について説明しました。この論文では、それぞれの薬物の有害性について科学的な評価がなされています。

論文によれば、最も危険な薬物とされたのはアルコールであり、日本でも一般的な嗜好品であるたばこは6位。一方、大麻の危険度は8位とされていました。

出典:世界薬物政策委員会(GCDP)「The Lancet」に掲載された論文に基づいて作成された。

丸山氏は大麻に有害な一面があることを認めつつも、アルコールやたばこにおいても平等に危険性を評価することが大事であると指摘。また、薬物に限らず、世の中には過剰摂取により有害となる物質は多くあるとし、以下のように述べました。

「(過剰摂取すれば)水や醤油であっても体に支障をきたします。それらをうまく制限しうまく付き合っていくのに、刑事罰が果たして必要でしょうか」

また、丸山氏は大麻の有害性が比較的低いにも関わらず、その他のハードドラッグと同様に罰則が課せられるべきではないと主張。全ての薬物を麻薬として同じ枠に入れてしまうと、司法の場では「薬物が有害なのは周知の事実」とされるのみで、有害性に見合わない厳罰を課せられる危険性があると指摘しました。

そのため、もし仮に大麻に罰則を設けなければならないのであれば、それぞれの薬物を有害性や中毒性に基づいて分類し、それぞれに応じた罰則を設けるべきであると述べました。

大麻の有害性については数名の議員から質問がありました。

藤井一博議員(自民党)は、米国で嗜好用大麻を合法化した一部の州において大麻関連及び小児の大麻誤飲による救急搬送、交通事故の増加が認められたという報告に触れ、これについてどう思うかと質問。

これに対し丸山氏は、検討会などで掲示されているデータは一部に過ぎず、大麻の合法化がもたらす社会的影響に関する報告には一貫性がないと返答。むしろ、大麻を合法化した地域では交通事故が減り、大麻が違法な州では交通事故が増えたというようなデータも存在すると述べました

倉林明子議員(日本共産党)からは、大麻はゲートウェイドラッグであるという科学的根拠はあるのかという質問がありました。

丸山氏は「国際的な研究団体はほぼ批判し始めている」と述べ、大麻がゲートウェイドラッグとなるのはそれが「違法であるから」と指摘。アルコールと同様にライセンスを付与された業者が正規店舗で販売を行えば、このような問題には発展しないと説明しました。

加えて、大麻がよりハードな薬物の使用を断つ「イグジットドラッグ」となる可能性についても世界では報告されていると述べました。

また、倉林議員は「ハームリダクション」と、それを実践しているポルトガルにおける成果についても質問。

薬物政策におけるハームリダクションとは、薬物の使用はなくならないという前提の下、薬物の使用そのものを防ぐのではなく、薬物使用にまつわる不利益や事故を減らすことに焦点を当てた考え方を言います。

例えば、医療従事者の監視下で薬物を使用することで過剰摂取による死亡事故をなくしたり、清潔な注射針を提供することでHIVや肝炎の感染を防ぐといった取り組みが行われます。

丸山氏は、刑罰による薬物政策では薬物使用者は闇の中に隠れてしまいますが、ハームリダクションに基づいた政策では薬物使用者が自ら姿を現してくれると説明。始めはサポートや治療に興味がなかった人も、これをきっかけとして相談するようになり、結果として薬物の問題使用も減少すると述べました。

実際にポルトガルではこのような政策により、薬物の問題使用や薬物関連死が減少するといった成果が報告されています

当事者たちの声を聞き、政策に役立てて欲しい

岡崎重人氏は、かつて大麻を始めとした薬物による依存問題を抱えていた”当事者”。現在は特定非営利活動法人「川崎ダルク」で支援会理事長を務めており、薬物依存問題で苦しんでいる人々を支援しています。

岡崎氏は今回このような場で意見を述べるにあたり、前日から緊張して眠れなかったと発言。お酒を飲むことでリラックスするのと同じように、「こんな時に大麻があったらいいなと思った」と述べました。

岡崎氏は資料を提供することなく、薬物依存症の当事者として自らの意見を陳述。自分が薬物使用を20年以上やめられているのは、刑事司法から強制されたからではなく、同じ境遇にいた仲間たちと”自発的”に取り組んできたからであると繰り返し強調しました。

実際に岡崎氏は薬物をやめるにあたり、周囲の仲間や自助グループの人々の支えの下、自ら新しい生き方をつかみとろうとしたからであると語っています。

岡崎氏によれば、薬物依存症から回復するのに必要なものとして「自分に正直であること」「オープンマインドであること」「本人のやる気(意欲)」が挙げられます。

しかし、薬物使用により逮捕され、刑事司法という抑圧された場所においてこのような姿勢を持つことは難しいと岡崎氏は語ります。

そのため、岡崎氏は「理想かもしれない」としつつも、薬物使用者が自分で薬物の使用をやめたいと思って治療を選択できるような、個人を尊重した仕組みができることが望ましいと述べました。

岡崎氏は薬物を一括りに犯罪化してしまうと、依存症患者が支援サービスや相談窓口にたどり着くのは難しいと指摘。実際にダルクでも、何度も逮捕されたことで行く宛がなくなり、深刻な状況になってから訪ねてきた人が多いと述べました。

また、岡崎氏は薬物依存症には「孤立の病」という側面があることにも言及。薬物使用そのものが孤独をもたらすという部分があることに加え、刑事司法の介入により周囲との関係が断絶されることで、より薬物の使用が加速していくと述べました。

これらの問題は、薬物を使用する当事者だけに苦しみを与えるわけではありません。岡崎氏は市販薬の乱用でダルクを訪れた人を例にあげ、その家族が「こんなに大変なことになるとは思わなかった」「こうなる前にもっと手立てがあったかもしれない」と自責の念に駆られていたと語りました。

岡崎氏は「ダメ。ゼッタイ。」普及運動や大麻使用罪の創設による一次予防だけでは、このような問題に対処するには不十分であるとしています。

岡崎氏は「当事者であったり、家族であったり、支援を行っている専門家の人たちの意見をもっと聞いていただきたい」と述べ、これらの人々が体験している苦労を政策に「役立ててもらいたい」と懇願。司法だけでなく、もっと幅広い側面から議論・対話を行って欲しいと主張しました。

なお、11月10日の衆議院厚生労働委員会では、依存症患者を支援する立場として、一般社団法人「ARTS」の代表理事である田中紀子氏も意見陳述を行っています。

今後、参議院厚生労働委員会における採決は12月5日、参議院本議会における採決は12月6日に行われる予定です。

廣橋 大

麻マガジンライター。看護師国家資格保有者。2021年より大麻の情報発信に携わる。

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